ⅩⅡ_スタメシア編 5
前回のあらすじ
自分のことを話してくれたフェルゴ。自分は精霊でも魔神でもない、ただの化け物だから退治しろと言う彼に対し、カイは自分が感じたフェルゴという存在を教える。
眠る前に『もう一度、故郷を…見たかった』と呟くフェルゴ。その言葉はカイの心にも深く刺さった。
外に出ていたエルバが戻ってきた。
「カイ殿、交代します」
「ありがとう」
エルバと変わり、カルラの元へ行く。キュリアに頼んだ調査はどうなっただろう。
「どう? 何かわかった?」
「まだ。連絡来ない」
もう少し待つことにした。
しばらく待って、キュリアから返事が来た。
「昨日は大変だったわね、カイ。お疲れ様。調べたわよ。確かに、ある火山に住むサラマンダーが根こそぎ行方不明になっていたわ」
「もしかして、闇の道化師が関係してるの?」
だいたいこういうことをしてそうなのはあいつらだ。
「いいえ。その組織は今はもう潰されてるわ。一斉摘発されて構成員は残ってないはずだけど、その前に出された実験体がいたのね。フェルゴも、その海魔も」
フェルゴは、組織が無くなっていたことを知っていたのだろうか。知らなかったとしたら、ずっと海魔の監視がついて人を騙して生きなければならなかったとしたら……。
「カイ、殺気」
カルラが指摘する。それに気づいて気を落ち着ける。
「もっと早くに彼を助けてあげられれば」
「魔法も世界も残酷なのよ。今にたどり着いた過程は誰にも変えられない。でも、この先の未来は今からの行動一つで分岐する。未来だけは選ぶことができる」
カルラが言う。過去は変わらない。変えられないもの。未来はこれから選び、進むもの。行動一つで世界は変わる。
「カイ、何か考えがあるみたいね」
「うん。……キュリアさん、僕、フェルゴの未来を選べるようにするよ」
「カイらしいわ。いいわよ」
大きく頷くとカイは隣の部屋にいるフェルゴに考えを伝えに行った。
「フェルゴは諦めた方がよさそうね」
「そうね。……それでキュリア、北方はどうなったの?」
【side:Fergo】
もし、もう一度だけ故郷を見れたら、行けたなら。きっともう何もいらないだろう。それだけで十分だ。退治されるのも悪くない。そうなれば、仲間のところへ行けるだろう。
あの頃の戻らない平和が、俺の今の生存を赦さないだろう。そして、自分への憎しみと全てを失った虚無感が俺を苦しめる。だから、その前に俺を退治してくれ。
「カイ殿はお前を退治することはないだろう。あの方はとても心優しく、そして、心の強いお人だ」
何でこの兄ちゃん、アイツに盲信してるんだ?
サラマンダーは宗教という概念がない。恐らく精霊ってやつはそういう信仰心なんてものはないんじゃないか?
四大精霊なんて自然そのものだ。それが意思を持ち体を得たのが精霊と呼ばれている。人間なんて目に見えないことは基本信じないからな。
俺は炎だ。炎は自然のものだ。自然そのものに信仰心はない。だからこそ、俺はこの兄ちゃんの言ってることがよく分からない。信じることがよく分からない。
「俺は化け物だ」
元々、こいつらみたいに人間じゃない。火の蜥蜴だ。形を得た炎だ。それが魔神イフリートの力を得させるために改造された。イフリートでも、サラマンダーでもない。なら、俺は一体なんだ。化け物としか呼び方がないだろ。
もう完全に生きることを放棄しようとするフェルゴにエルバはかける言葉がなかった。こういう時、どのような言葉をかければ効果的なのか、彼は知らなかった。城を抜け出さなければ、かける言葉の一つや二つはあったのかもしれない。
「(私の選択は、正しかったのだろうか)」
カイと関わることがなければ、自国の民以外の者にこうして悩むことはなかった。それは嬉しいことかもしれない。しかし、苦しいことでもある。
「エルバ。フェルゴ」
午後の日差しのような穏やかな笑顔でカイが部屋に入ってきた。その声音も穏やかで安心感がある。
「フェルゴ、君、故郷に帰ってみたくないかい?」
その言葉に目を丸くするフェルゴとエルバ。
「君はやり残したことがある。せっかく自由になれたんだ。なら、すぐに退治されないでさ、故郷を見てからでもいいだろ? 故郷がこの世界にあるのなら、見られなくなる前に、さ」
故郷とは何か。
カイ自身、もうほとんどよく覚えていない元の世界の景色や、自分が暮らしていた家のこと、持っていたおもちゃや本、何か大事だったこと。辛うじて家族のことは覚えているが、ほとんど忘れてしまった。いつ戻れるかもわからない今、故郷に帰ることさえできない。なら、故郷がこの世界にあるのなら、行きたいと願う者は行くべきだ。
自分のように、もう二度と見ることができなくなってしまうかもしれない、その前に。
「行くべきだよ」
スタメシア編、次回でラストです。
今回も読んでいただきありがとうございました。