ⅩⅠ_スタメシア編 4
前回のあらすじ
フェルゴの炎のショーを見に来たカイ達。ショーを見てフェルゴに感想を求められると直後、謎の海魔に襲われる。フェルゴの手の魔方陣と漂う異質な魔力から人間ではなく精霊であることを見破ったカイ達。精霊の姿を表したフェルゴとカイ達は戦うことになった。
昨夜の戦いの被害も日が昇ればどんなものだったかがわかる。荒れたステージと会場、葉の干からびたヤシの木の林、消えたフェルゴ。島は大騒ぎだった。そんな喧騒の聞こえる昼過ぎでも、フェルゴは目を覚まさない。
あの海魔の言っていたことは何だったのだろう。改造サラマンダーとは、一体なんだ。
「……んんんっ」
フェルゴが呻き声をあげる。
「フェルゴ」
目を開けたフェルゴ。カイの姿を見ると攻撃しようとした。しかし、魔法で拘束されており、何もできなかった。苦々しげに黄色の丸い目が睨み付ける。
「俺をどうするつもりだ?」
「それに答えるにはフェルゴ、君が本当に何者なのかを教えてもらわないと、何もできないよ」
「けっ!」
そっぽを向かれてしまった。話してはくれないだろうな、と諦めかけたカイにフェルゴは、ゆっくりとだが、この二十年以上にも渡る自分に起こった事件を話し出した。
「……大陸の、中央に位置する火山地帯。その内の一つの火山で俺は産まれた」
特に何を思うでもなく、火の中でこれからも生きていく。ただそれだけだったが、それは平和だったのだと、後になって気付く。その平和が壊されたのは自分が人間に捕まってしまったときだった。
四大精霊の一種・サラマンダーの生態の研究のために捕らえられた。他にも同じようにして捕まった仲間が数多くいた。少し前まで共に炎を食べていた者、昨日出会った者、親子、いや、自分の暮らしていた火山に住むサラマンダーのほとんどが捕らえられていた。
人間の施設に連れていかれ、実験をさせられる毎日。その最中、力尽きて死んでいくものもいた。 最後の実験は、サラマンダーは魔神イフリートになれるかの実験だった。何かとの合成を繰り返され、ようやくそれが終わったとき、生きていたのは彼だけだった。
成功した実験体として、とある国でその成果を発揮することになった。それがこのスタメシアで、イフリートの力で人間に化けて生活していたのだ。
「君にそんな過去があったなんて」
「同情はいらねぇ。今の俺はただの化け物だ。魔剣士、退治しろ」
彼は言った。その瞬間、パァン! という大きな乾いた音がした。
「いって! 何しやがる、てめー!」
「そんな話聞いて退治できるわけないだろ! 君は化け物じゃない! フェルゴは、サラマンダーで炎の舞踏士だ! 君は今まで自分が踊ってきた踊りが人の心を熱くしているのが、感動を与えているのが、わかっているのか!」
自分に感動を与えたあの踊りは、ただの踊りじゃない。熱く燃えるフェルゴの心の炎を表したものだ。
「君がただ踊っていただけなら、皆見てなんてくれないよ。何かを伝えたかったんだろ。だから皆見てくれたんじゃないか。苦しんでいたからこそ、誰かに気づいてほしかったんだろ。それが化け物のすることか? 人間として生きた、精霊として生きたフェルゴの心だろ?」
無意識に助けを求めていたのか、それはフェルゴにもわからない。しかし、心の中にその言葉は伝わってくる。熱く燃える炎のようで、でも、暖かみのある優しい炎で。なんだか、懐かしい感じだ。
「……できることなら、もう一度、故郷を見たかった」
そう呟くと眠ってしまった。
「ゆっくりお休み、フェルゴ。……カルラ姉、聞いてただろ?」
部屋のドアを静かに開けカルラが入ってきた。
「疑問も解決。その組織についてはキュリアに調べさせる」
「フェルゴは、どうなるの?」
「これから生きたいかどうかはフェルゴが決めること」
そう言うと部屋を出て別室でキュリアに連絡を取りに行った。
引き続きフェルゴの看病をするカイは、フェルゴが呟いた言葉を考えていた。
「もう一度、故郷を、か」
◆フェルゴ
スタメシア共和国のダンサー。フレイム・ダンサーで赤毛で炎のような髪型の青年。テンションは高めで、小さな子供達とも一緒になって遊ぶ。キメ顔にこだわり、束縛を嫌い、自由に生きることを信条にしている。
十年前に島に押し寄せた海魔達を自身の炎の舞で撃退したという話から、カイ達が島へ迎えに行く。
真の姿は人に化けた改造サラマンダー。とある組織に住んでいた火山のサラマンダーまるごと捉えられ様々な実験をさせられ、炎のジン・イフリートの力を与えられ成功した唯一の生き残った実験体。スタメシアに流され海魔によって監視されていた。
能力は元々のサラマンダーとしての性質と炎のジン・イフリートの性質をあわせ持つため火を操ることに長けている。その他イフリートの影響で人に化けること、魔物を呼び寄せることが可能。
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次回、故郷と選択
スタメシア編はあと二話で完結する予定。