Ⅹ_スタメシア編 3
フェルゴの炎のショーを見にある島へと向かったカイ達にフェルゴは自分のショーのアピールをした。フェルゴのショーを楽しみにするカイ達。
いよいよ、ショーの始まりだ。
完全に日が落ちて、空は月と星の明かりだけになった。松明の火が会場を赤く照らし、ショーの雰囲気が出ている。まるでここだけ夕焼けみたいだ。そう思っていると会場から歓声が上がった。
フェルゴの登場だ。
上半身は裸で何やらペイントがされている。下半身には足首付近がゆったりした長い赤いズボンを身にまとっている。腕や足首、首や頭に付けた金の装飾品が炎の明かりを反射させてきらきら輝いている。
ステージに立つと会場の明かりが少し暗くなった。そして、音楽が流れ出し、ショーが始まった。掌の上で踊る炎、赤い光は軌跡を描き、見る者を感嘆させる。表現されるものはおそらくこの国の伝統的な何かだろう。分からなくても、それは雄大で美しかった。心に染みる熱さ、暖かさ、希望、想い、それらを感動と呼ぶのだろう。最後に空に向かって炎を吹きショーは終わった。会場からは大きな拍手が鳴り響く。
「ありがとう皆! 今日は俺、頑張っちゃったぜ! 皆知ってると思うけど、俺は近々旅に出る。で、今日は旅の仲間が俺のショーを見に来てくれたんだぜ! 感想を聞いてみたいと思うぜ! おーい! 来いよ!」
フェルゴに呼ばれてカイ達はステージに立った。
「んじゃあ、まずアンタ! 名前は?」
「僕はカイ。ショーは初めて見ました。とても迫力があってすごかったし、君が火傷しないかはらはらしながら見ていたよ。熱くないの?」
「俺は火とはダチだ。熱くもねぇし火傷もしねぇ。けど、俺に触ると火傷するぜ?」
キメ顔をかますと、会場から黄色い歓声が聞こえる。若い女性のファンも多いようだ。
「次! クールな嬢ちゃん!」
「私は魔導士だから火は攻撃のための手段としか今までは見てこなかった。けど、今日の貴方のショーを見て考え方が変わったわ。魅せる炎もあるんだってこと。良かったと思う」
「おーっと、こいつぁかなりいい感想だぁ! いやー、クールビューティーに誉められると嬉しいねぇ! 次は、なんだか高貴な感じがするなぁアンタ」
「私はこの二人の護衛を賜った軍人だ。娯楽というものに今まで触れたことがないので娯楽と言うものが知れて良かったと思っている。フェルゴ、貴殿の舞、見事であった。圧巻された」
「お、おう。なかなかすごい感想を出してくれるな。ありがとよ」
カイ達と握手をするフェルゴ。
「よーし、じゃあ、フィナーレといこうじゃねぇか!」
手のひらを上に伸ばし、火柱を放った。
ザバァッ!!
大波が炎を消し、ステージを飲み込んだ。
波に押され、砂浜に流されたフェルゴは砂まみれの体を起こして、何があったのか、暗い会場を照らすために、手から炎を出した。
「! ……おい」
ステージは水浸しなんてものじゃなかった。海魔がステージを占領していた。カイ達の姿はない。砂浜にも、海にも、どこにも。
「……まさか、食われちまった、のか?」
叫び声と逃げ惑う人々の恐怖の中で、フェルゴは呆然としていた。
「嘘だろ……そんな、こんなことって……」
ステージ上の海魔はびちびちとのたうち回る。
『……フェルゴ……』
それはフェルゴの名を呼んだ。
『いつから貴様は人に味方するようになった?』
その言葉にフェルゴは目を丸くする。
『忘れたか。貴様の仕事は』
「俺が忘れるわけねぇだろう」
掌の炎が渦巻く。炎の明かりが誰もいなくなった浜辺を照らす。
「だって、俺は……この炎は……」
ぶつぶつと呟くフェルゴ。
『ぐっ、ガァッ!』
海魔が苦しみ出す。腹が膨れる。すると、次の瞬間、腹が急に元通りになった。
「いやー、これはビックリしたねー」
「食べられた時はどうなるかと思いましたね、カイ殿」
「こういうとき、自分が無属性で良かったと思う」
フェルゴの後ろから先程までいなかった人の気配と声。三つの声、それは。
「僕らは生きてるよ、フェルゴ」
「お前らっ!?」
彼らは生きていた。
「さて、種明かしをしてあげる。答えは至極単純明快。無属性の空間魔法であの中から貴方の後ろに飛んだの。理解した? サラマンダー」
フェルゴの首にはカイとエルバの剣が添えられていた。
「な、なにしてんだよ?」
「君があれを呼んだんだ。七年前の事件も君が起こした」
「何を根拠に」
「じゃあ、聞くけど、貴方、どうやって炎を出してるの? 魔方陣も無しに」
その問いに答えない。
フェルゴの炎はただの炎ではない。まるで意思を持ったような炎だった。それを自由に操るには魔方陣が必要だ。
確かにフェルゴの手には魔方陣が描かれているが、それはただ簡単に火を起こす程度のものだ。そんな簡単な魔方陣では複雑に炎を操ることができない。自由に炎を操ることができるのは魔物か四大精霊で炎の精霊であるサラマンダーと、炎のジンのイフリートだけだ。
カルラは更にたたみかける。
「何処で、誰から生まれたの? その妙に堅い皮膚は何なの? その体から微かに漏れ出ている異質な魔力は何?」
沈黙。
フェルゴから漏れでる魔力は魔物のそれではない。かといってイフリートのような悪意あるものでもない。純粋なものに近く、それは火山から出る魔力と大差はない。少し異質だがサラマンダーであるのを、さっき隣に並んだときにカルラは感じた。
沈黙の間、海魔は苦しそうにこちらを睨み、今か今かと、襲うチャンスを伺っている。
「……ハッ!ハハハハッ! いつから、分かっていた? 俺が四大精霊が一種、サラマンダーだって」
枯れた声、それがフェルゴの本当の声だった。
パリッ、パリッ、と皮膚が音を立てて剥がれ落ちていく。剥がれたその下には赤い本物の皮膚があった。やがて、上半身のほとんどが赤く染まると、彼の本当の姿が露になってきた。
「バレちゃ仕方ない。燃えろ」
背中に残っていた大きな肌色の欠片が、炎の翼で吹き飛ぶ。後ろに間一髪飛び退き避ける三人。
「カイ、エルバ、無事?」
「うん」
「同じく」
赤い体、炎の髪、ぎょろりと黄色に光る大きな丸い目、蜥蜴の手足に尾、炎の翼、大きく裂けた口から吐息と共に火がちろちろと漏れる。
「あれが、サラマンダー」
「俺はお前達の仲間になる気なんかハナっからねぇんだよ。俺は俺の自由を奪う奴が大嫌いなんだよ。特に、人間にやられるのはな!」
四精霊サラマンダーは火山地帯で生活し、火の中で生き、火を食べて生きる精霊だ。このような海に囲まれた南国の島にいるものではない。他の種族との接触も極めて少ないため性格や分化、思想などが未だ謎に充ちている。
「お前達人間は、俺の自由を奪い、俺の体を……」
翼の炎が勢いを増す。熱風が三人を襲う。
「木が!」
浜辺のヤシの木が熱風に晒されてどんどん干からびていく。このままでは木が燃えてこの島は火で焼かれてしまう。そんなことになったら、この島にいる人々が危ない。止めなければ。
「こうなったら、戦うしかないわ」
カルラの言葉にもう戦うしかないのだと、再認識し、カイはルリを召喚する。
「出でよ、ルリ」
三人と一体は戦う構えをとる。
「マスター、ご命令を」
「サラマンダー、フェルゴを倒す。この島が火で焼かれる前に」
「了解しました」
「一体増えただけで、俺に敵うか!!」
炎が蛇のようにうねりながら迫ってくる。意思を持った蛇のようだ。四人がそれぞれ散って避ければ、四つに分裂し追ってくる。
「これでは近づけない!」
「ルリ!」
「はい、マスター!」
カイがルリを呼ぶだけで彼女は理解した、炎から逃げながら海水を操り、水の竜を作り出し炎の蛇にぶつける。
ものすごい蒸気が辺りに立ち込める。強い塩の匂いが充満する。気分が悪くなりそうな匂いに耐えつつ、気配を探る。
視界が徐々に薄くなっていく。微かにフェルゴの姿をとらえた。フェルゴはまだ、カイ達に気づいていない。
「今だ」
カイは走り出した。剣に水を纏わせ、斬りかかる。
「ぐっ!」
ジュッ!
水が蒸発する音が聞こえる。
「カイ!」
蒸気が完全に晴れると剣の柄をフェルゴの鳩尾に食い込ませたカイの姿があった。鳩尾から柄を外すとフェルゴは膝からゆっくりと崩れ落ちた。
「なんとか、食い止められたかな」
フェルゴを見下ろすカイ。カルラは多分ね、と返すと魔法でフェルゴの動きを封じた。
『やはり、改造サラマンダーは使えぬ。ここまでか』
ステージ上の海魔はそう呟いた。
「おい、今なんと」
エルバの言葉を無視し、海魔は波しぶきを上げて黒い海へと姿を消した。
「おい! 待て!」
「無駄だよ、エルバ。行っちゃった」
顔を歪ませるエルバ。
「問題は……」
フェルゴだ。
・フェルゴの手に描かれていた魔方陣。
簡単なもので種火を起こす程度のもの。ショーをするならもっと複雑な魔方陣が描かれていなければならないし、いくら炎の明かりが明るいからといって、魔方陣の光が見えなくなるほどの明るさは炎にはない。フェルゴはサラマンダーであることを隠すため、別の皮膚を被っていた。しかし、それだと魔力と姿は隠せても、ショーで炎が使えないので、ショーの時だけは掌の皮膚を薄くし、更に種火の魔方陣を描いて、炎を出しやすく操りやすくしている。ショーが終わったら掌の皮膚を他と同じくらいの厚さに戻している。彼が何故炎のショーをしているのかは次回に。
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10話です。不思議な展開になりました。まさかフェルゴが精霊だったとは。火山にいるはずのフェルゴが何故海に囲まれたスタメシア共和国にいるのかは、次回に続きます。では。