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after blue  作者: London tower
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ターミナル

「えっと、これは・・・?いったい?」


「春の間でございます。」


見渡す限りの美しい景色の中、ただただ数え切れないほどのロッキングチェアがゆらゆらとゆれているその異様な空間には、さすがに閉口できずにいた。


「あの・・・すみません、やはり最初から説明をしていただけませんでしょうか?」


困惑した表情しか浮かべられずに、どうしようもなくこたえを求める。


「生まれる前の場所とでも言えば良いでしょうか?ここはそういうところです。あなたたちが持っている地図の上にこそは載っておりませんが、次元という概念でいけばほぼ同じです。あの世でも、天国でも、ましてや地獄などでもありません。ただただあなたたちが生きている世界を表とした場合の、裏側との、間です。」


「・・・・・・今まで何人がその説明で理解したんでしょうか・・・・・・?」

困惑した私だが、その分かったような分からないような説明にお返しできたのは皮肉とも言える更なる質問でした。


「はっはっは!これは手厳しい!ええ、そうですね、こんな説明じゃ、納得できませんでしょうとも!」


心のそこから愉快のように笑う彼には、しかし私は一抹の苛立ちを覚えた。逆になんとしても理解してやろうかと思った。いったいこれはそもそもからかわれているのだろうか。それとも本当に裏側との間?という場所があるのであろうか?表側が生きている世界だとしたら、裏は死んでいる世界・・・であれば、その間というのはヨミへと通じる道なんだろうか?ということはつまり・・・


「いえ、色々恐ろしいことを考えていらっしゃるのも分かりますが、ここはそんな大層な場所じゃないですよ。」


その言葉でどんどん険しくなっていく自分の表情にハッと気づき、両手で顔を覆う。軽くマッサージ。手のぬくもりは相変わらずも存在して、乾燥した皮膚も、そろえられていない髭も、連日の疲れでむくんでしまった顔の感触も確かにそこにはあった。


「さて、このまま次にいきますよ」


何の説明も無く、Gは太陽へ向かって軽く手をふった。するとたちまち上から壁が降り、そして同時に足元からも壁がせりあがって目線のところでぴったりと閉じた。


「あ、どうぞお座りください」


いつの間にか後ろにバーで見かけるような小さな椅子が置かれていて、すすめられるがままに座ると、Gの後ろの壁が今度は横に開き、中からロボットのような小さな腕が、それぞれに色形とりどりのメガネをもって、飛び出す絵本が開かれた際の仕掛けのように滑らかに姿を現した。


Gはその中からサングラスのようなものを取り出しかけると、私の目の前の壁がまた上下に開く。


「夏の間ですよ」


まぶしく照りつけるような太陽が、自分の力を誇示するかのようなまぶしさの空間が広がった。遠くで波音が聞こえる。潮の香りが鼻腔をくすぐってくる。先ほどの風景とは全く変わって、今度目の前に広がったのは途轍もなく大きく開いた森であった。草というよりも土の匂いが濃く聞こえてくるその場所には、しかしやはり不可思議なものたちが闊歩していた。


ロボットである。


より正確に言えば、ロボットの中に人が入り、操っているようだ。


3メートルほどのロボットの中、人が全身に甲冑のようなものを背負って、それにまた糸のような、アルミの棒のようなものがロボットの腕や足へとつながっていた。


みながみなまた一様に必死な、しかし心のそこから嬉しそうな顔で、決められた円があるかのように、その範囲の中でとびはね周り、走ってはパンチやキックを繰り出していた。


無数のロボットが音も無く動くその場所。全身から糸を伸ばしてロボットを操縦する様子は、しかし同時にロボットに操縦されているようにも見えた。


やはりヴィヴァルディの夏が聞こえる。


「さて次、秋の間です」


また同様に壁が閉まり、Gはサングラスをアームに戻しては新たなめがねをかけ、次に扉の向こうには大きなイチョウの木が鎮座していた。


「秋」のヴァイオリンに乗って吹いた風にはもみじの色と銀杏の臭いがした。


腐葉土の上、色とりどり・意匠さまざまなバスタブにまた無数の人が浸かっていた。


口をもぐもぐとさせており、恍惚な表情の彼ら。ふとふやけたりはしないだろうかなどと野暮なことを思ってしまった。


「最後は一応、冬の間です」


4度目に開いた壁の向こうには氷の山が聳え立っていた。


そしてちらほらと、しかし他の比べては圧倒的に少ない数の人が、氷の中でみ白気一つせず安らかに眠ていた。


「まあここは一時的な場所なので、あまり気になさらずに」


Gはそう言って、4度目に壁を閉じた。


私はあのがらんどうな部屋へ帰ってきた。

今度は椅子に座ったままGとは対峙するが、しかし何の言葉も口から出てこなかった。


「と、以上が全ての異世界になっております。」


沈黙がどれほどの時間流れていただろうか。じっとGを見つめている私の脳は、考えることを放棄思想になってはまたかけらを拾い上げ、そしてパズルは組み合わせては崩す。


無言でGを見つめ、催促をしたのだろう。朗とした声がようやく私にも意味が分かる音色をつむぎだした。


「こちらは世界移転ゲートの最初の地、ターミナルロビーです。心に傷を負った皆様、現実に不満がある皆様、あるいはそうでなく、ただただどこかヘいってみたいと思った皆様が、お望みの「異世界」へとたどり着くための、その最初の、最初の場所です。」


「地球ではないどこかへ行こうと考えたことがある人、現実じゃないどこかにいったような記憶のある人々、あるいはもっともっと単純に、夢で見る場所は、端的に言えばみな、ここです。ここに居た記憶の残骸を、また覚醒の世界へ持って帰っていったのです。」


「もっと陳腐に言ってしまえば、私はXXさんの「夢」を叶える存在だと考えてください。もちろん「夢」ですので、現実世界に写すことは出来ませんが、逆に「正真正銘の夢」とも言えますので、何でも好きなように要望を教えてだされば、XXさんが「本当に望む」夢をお作りが出来ます。」


「ちなみに二回目からはここからはお望みの世界へ直接行くことが出来ますので、こんなわけの分からないお話を聞くのは今だけですのでご安心ください。まあXXさんぐらいの年齢で初めての方はかなりめずらしいので、普段あまりその心配が無いのです。もっと幼い頃にこちらへいらっしゃるして、自分が説明を受けた覚えも無く望みの世界へ行かれるか、あるいは一生ここにいらっしゃらないか、初めてのご来訪がお亡くなりのタイミングで、ご説明が不要なままどこかへ行かれるのが常ですがね。」


「ということで、いかがいたしましょうか?心の傷を受けていらっしゃるXXさんであれば、やはり恋人との甘い毎日をお望みでしょうか?それともいっそ気晴らしに、どこかゲーム風の世界を作りまして、そこで戦い、栄誉と誇りを勝ち取ることを望みますか?もちろんおっしゃっていただければ、私が白い空間の神様役として、XXさんに自信と自己愛の根拠を与えることも出来ます。老人でも少女でも、お望みであればどんな姿にでも映せることができます。あるいはいっそのこと悲惨な物語で、目覚めたときに「夢でよかった!」と思うための、そんな救いの無い世界をお作りしましょうか?」


「どんな世界もおつくりいたします。ですので改めて、ようこそ、世界移転ゲート、ターミナルロビーへ」

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