あるいは意味のない何か
「ずっと好きでした・・・だからその、よかったらだけど・・・付き合ってもらえませんでしょうか!」
わずかに震える声を絞り、ようやくしぼれ出せた第一声が、相手も、そして自分をも驚かせてしまった。
(・・・くそ、ストレートに行き過ぎた・・・!)
目の前の彼女を見る。日に焼けて小麦色になった肌と整った鼻筋のおかげで、日本人というよりも中東的な顔立ちをしたが、「ハーフ」ではなかった。パッチリと開かれ、普段から大きかった目は、今ことさらに大きく見開いていた。
僕は彼女の目が好きだった。その目には見る人をひきつける不思議な魅力を持っているようで、たぶんこれがいわゆる「目力」というやつなのであろう。僕はまるで千夜一夜に出てくるやられ役のように、美しいランプの妖精の魔法に魅せられ、その両目に吸い込まれてしまった。そして彼女の額のほくろを好きになった。
妖精はおし黙っていた。一度口を開きかけたが、しかしこみ上げた言葉を一度飲み込んだ。大きく開かれた目は細まり、眉をちょっと吊り上げた。
彼女は悩んでいた。そう、悩んでくれていた!まだ彼女と出会うまえに、ほかの女性に冗談めかして告白したときは、寸時もおかずに「やだよ!」と断られてしまったことのことを思い出すと、思わず歓喜の声を上げそうになった。もちろんすぐに自分のおろかさに気づいて、自身を制したのだが、心の中ではあふれんばかりの歓喜をかみしめていた。
少なくとも悩んではくれているのだ!わずかに震えていた手はさらに汗ばみ、心臓がオーバークロックし始めた。期待と不安がごっちゃ混ぜになっている頭はいよいよ真っ白になり、耳鳴りで何も聞こえなくなる寸前に、ようやく彼女はそのかわいらしいピンク色の口を開いた。
「・・・・その、ごめんなさい、いい後輩として、いい友達としか君のことが見れないの。だから・・・その、ごめんなさい。」
「!・・・はい、すいませんでした。ありがとう・・・ございます。変なこと言って・・・すいませんでした。」
心に満ちていた喜びは錆びた鉛に変わった。冷たい事実の風が、僕の浮かれた熱をどこかかなたへ吹き飛ばす。彼女はただ単に「どうやって断ろうか」と悩んでいたのだった。震える手も、浅い息も、早鐘を打つ心臓もすべて無意味だったように思えた。
そうして俺の青春は終わった。