6.女騎士たちの魔物討伐に協力します
忘れられていると思いますが、帰ってまいりました
本当に遅くなってしまってすみません。
ほぼ一年ぶりの投稿という・・・・・・
とりあえずあらすじ
元の世界で『はぐれ者』として、世界から疎まれていた敬鬼は、異世界の『神様』を名乗る存在に招かれて、その『神様』の世界に転移した。
『神様』のくれた拠点は洞窟の奥にあり、その洞窟を抜けた敬鬼は崖になっていた出口から落下したのだった。
~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~
隠れ猿の上に降ってきた敬鬼はガバりと起き上がると、背負っていた背嚢を下ろし、いそいそと中身を検めだした。
丸まってうつ伏せに落ちたとはいえ、200メートルほどの高さから落ちてきたのに、背嚢の中のポーションの入ったガラス瓶も、ランタンのガラスも割れていないようだ。
それどころか、敬鬼自身も、隠れ猿を下敷きにしたため潰れた隠れ猿の血液などでグチャグチャになってはいるものの、大きな怪我をしているようには見えない。
『データベース』を所々しか読んでいない敬鬼は分かっていないが、元の世界と違いこの世界では、荷物に直接衝撃を与えない限り、所持者の防御力を超えない分は通らないという物理法則になっている。
200メートルからの自由落下の衝撃は、敬鬼の防御力だと傷一つ負うようなものではなかったようだ。
「何かがクッションになってくれたから助かったのか?でもそんなレベルの高さじゃなかったと思うんだが・・・・・・」
当の本人は理解していないようで、敬鬼が呟きながら立ち上がろうとして、ようやく周りの状況を認識した。
敬鬼から一番近い位置には、崖を背に二頭の馬が曳く馬車と鞍を着けた馬が四頭。別方向に大型犬ほどの大きさの真っ黒な狼とその向こうに両手に剣を持った法衣の女性。そしてその周りを馬車や馬がいる崖側以外の方向からぐるりと、狼や猿などがこちらを見ている。
いや、狼や猿の包囲が一カ所だけ途切れたところがあり、そこには5メートルはある大熊と鎧姿の大柄な女性(元は大熊と向き合っていたようだが、敬鬼の方を振り返るような体勢になっている)がいた。
(ん?なんだこれ)
敬鬼が周りを見回していると、視界の端に『!』のアイコンが浮かんでいるのに気付いた。アイコンに意識を向けると、敬鬼の視界一杯にゲームのウィンドウの様なものが広がった。
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星神ミッション
内容
・騎士たちの魔物討伐に協力せよ
報酬
・1000星P
・技珠
・貢献度に応じたランダムボーナス
ミッションを受けますか
はい いいえ
= = = = = = = = = =
(「鑑定」スキルの時も思ったけど、何かゲームチックだな)
「鑑定」スキルを使った時も、対象のものにミニウィンドウが浮かんで見えることを思い出しながら、とりあえず「はい」のところに意識を向ける。すると、音もなくウィンドウは消え、視界が元に戻った。
視界が戻ったので、近い位置にいる法衣の女性に協力を申し出るために視線を巡らせようとして、さっきまで鎧の女性と向き合っていた大熊が四つ足で突進してくるのが目に入った。
「あっ、しま・・・・・・」
「あ、逃げてーーー!!」
鎧の女性の悔恨の声と、法衣の女性の警告の声が聞こえたが、
(お、遅えって!!)
気付いた時には、大熊の位置は鎧の女性との距離の半分より手前に来ており、警告の声が聞こえた頃には右の前足を振りかぶって飛び掛かってくるところだった。
(流石にこれは死んだかな?)
四つ足をついた状態ですら、2メートル近い自分より高い位置に頭がある大熊が飛び掛かってくるのを、振り下ろされる腕から伸びた50センチはある爪を見ながら、敬鬼はそんなことを考えながら腕を顔の前で交差し防御体勢を固める。
瞬間、
バシッ! ズゥング!
音の割に軽い衝撃が敬鬼の腕を打ち、続いて重いものが地面に落ちるような音が耳に入ってきた。
固く瞑っていた目を開いて、腕の横から前を見てみるとそこには、頭を下にひっくり返っている大熊の背中・・・・・・。
元の世界でダンプに撥ねられても打撲とすり傷だけで済んだ敬鬼だったが、スキルなんかがある世界の魔物が相手ということでかなり警戒をしていた様だが、数トンはある巨体が勢いよく突っ込んでくるという必死ともいえる攻撃も、敬鬼にとっては、少し重くて硬めの枕を勢いよくぶつけられた程度にしか感じられなかった。
大熊が横を抜けてくるときに突き飛ばされた様で、体勢を崩していたものの、突っ込んでいった大熊が逆に跳ね飛ばされるところを見ていた鎧の女性が敬鬼に向かって声を掛けてきた。
「お~い兄さん、剣爪熊を押さえておけるなら、押さえておいてもらえないか? 礼はするから」
「あ~、多分何とかなりそうだからいいですよ。
何か星神ミッションとかいうので協力するのを受けましたし」
「そりゃあ助かる。
そいつは打撃に耐性があるから、攻撃するなら刃物でやった方がいいよ」
「アドバイスど~も」
敬鬼は、それなりに離れた位置にいる鎧の女性と話しながら、下ろしたままの背嚢から鉈を取り出すと、ひっくり返った状態から更に後転して四つ足状態になった剣爪熊に向かって近づいていく。
先ほど飛び掛かってきたときは50センチはあった爪が、四つ足で歩くのの邪魔にならない程度の長さになっているのを見ると、あの爪は出し入れができるのか伸ばすことができる様だ。
剣爪熊は警戒をしているのか、隙を窺っているのか、敬鬼の方を睨んだまま唸っているだけの様なので、敬鬼がちらりと周りを見回してみると、先程まで近くにいた法衣の女性の姿は、黒い狼の死体を残してそこにはなく、周りを囲む魔物の群れの手前に鎧の女性と法衣の女性を含めた4人で等間隔くらいで立ちふさがっているように見えた。
目の前の剣爪熊の気配が動いたので敬鬼が視線を戻すと、剣爪熊が後ろ足で立ち上がっていた。
剣爪熊がその巨体を活かして、爪を伸ばした右腕を振り下ろしてくる。
しかし、突進の勢いを使った攻撃すら敬鬼には効かなかったのに、高い位置から全身の体重をかけたとはいえ、ただの振り下ろしに効果があるはずもなく、敬鬼が鉈を持っていない左腕を頭上にかざして防御をすると、派手な音をたてたものの少しも腕を動かすことができずに止められてしまう。
敬鬼がお返しのように右手に持った鉈を脚に叩きつけるが、その毛皮に包まれた丸太のような足を傷つけることはできなかった。
(あ~、これは、攻撃力が全く足りないなぁ)
思い切り鉈を叩きつけたにもかかわらず、毛皮すら傷付けることができなかったのを見た敬鬼は、一応刃物である鉈でこれだと耐性があるという打撃だと絶望的だな。などと考えながら、足止めに徹することに決めた。
と、その時、
『ハアアアアァぁぁ!!』
先ほど見まわした時に鎧の女性がいた辺りから、何か力を感じる声が響いてきた。
と、それまで辺りに響いていた魔物たちの吠え声や唸り声がほとんど聞こえなくなった。
敬鬼は何があったのかと周りを見回そうとするも、剣爪熊が我武者羅に腕を振り回してきたので目の前の相手に集中することにした。
初めの一撃を受けてみた感じからして、突き飛ばしのような攻撃なら体勢を崩されることもないと敬鬼は予想したが、掴まれたり足を掬われたりして体勢を崩されるかもしれないと考え、自分の役割を果たすために相手の動きに注意することにした。
しばらく戦って分かったことは、剣爪熊は大して頭がよくないらしい、ということだった。
戦い始めてすぐに敬鬼が気付いた通り、剣爪熊の突き飛ばしや薙ぎ払いでは景気の体勢を崩すことはできなかった。かと言って他の攻撃手段はといえば、立ち上がって爪を振り下ろすか両腕を振り回す。嚙みついてくる。四つ足の状態から飛び上がって押し潰そうとしてくる。といったものくらいな上、敬鬼を避けて馬の方に行ったり、騎士たちの方に行ったりといった様子すら見えなかったのだ。
そうなってくると敬鬼にも騎士たちの戦っている様子を見る余裕が出てきた。
右手の方では、黒いロングヘアの女性が鞭の様なものを振り回して獣の姿をした魔物を蹂躙している。時折、武器を引くような動作をすると、鞭の様な武器が真っ直ぐな棒状になり、それで魔物を突き殺しているのを見ると、元の世界で敬鬼が読んでいた某漫画で主人公の仲間が使っていたような、パーツを連結させた槍であるらしい。
左手側では短槍と盾を持った緑の短髪の騎士が、爆発する光球を離れたところにバラ撒きながら、近くの魔物を槍で突き殺している。
剣爪熊を挟んだ反対側を見てみると、法衣の女性が戦っているようだが、はっきり言って何をしているのか敬鬼には全く分からない。分かるのは、女性が魔物に近付くと大抵の魔物の首が落ち、そうならなくても血を吹き出すことだけが敬鬼に知覚できることだった。恐らく両手に一本ずつ持った長剣で斬っているのだと思うが、もしかしたら何かの魔法を使っているのかもしれない、と敬鬼は予想した。
そして鎧の女性は、ゴリラのような魔物や口が体の半分ほどまで裂けた狼の魔物のような、他より大きな魔物を狙いつつ、周囲の魔物をメイスで薙ぎ払っている。
時折、剣爪熊と戦い始めた頃に聞こえた何かの力を感じる声が響いてきており、その時には鎧の女性が、法衣の女性か盾持ちの騎士のところにいるので、鎧の女性がやっており、それをするときは無防備になるのだろうと思われた。
と、突然、剣爪熊が辺りを見回したかと思うと、剣爪熊を除く大きめの魔物たちが慌てたように、崖の反対側の森へと逃げ出す様に駆け込んでいく。
しかし、騎士たちは逃げる大きめの魔物たちは追わず、釘付けになったように動かない小型の魔物たちを片付けていく。
「はい、ありがとさん」
いつの間にか剣爪熊の後ろに来ていた鞭槍の女性が、敬鬼に向かって軽く声を掛けながら鞭状に伸ばした槍を振るい、剣爪熊の首を貫くと、剣爪熊は戸惑ったようにふらつき、あおむけに倒れ息絶えた。
「うん、本当に助かったよ」
鞭槍の女性が妙に色気のある声で礼を言いながら敬鬼に近付いてきて、右手を差し出す。
「あたしはペンタニア女王国騎士団第二隊隊長、リールナ・ホットスプリングフィールド。お兄サンは来訪者だと思うんだけど、合ってるかねぇ?」
読んでいただいて、ありがとうございます
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