5.閑話 ある女性上級騎士の視点
また遅くなってすみません。
今回はタイトルどおり、新キャラの視点です。
ちなみに、この世界の一週間は十二日、一ヶ月は五週間です。
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厄介なことになりました。こんな所で魔物の群に囲まれるなんて。
しかも、特殊な魔物に率いられた、多種混成の群なのが特に厄介です。
先日、私が所属している部隊に任務が言い渡されました。
大陸西部の新興の強国、『冒険者の国』ドゥルト・ハルクスの王城に、『放浪王』宛の書状を届けるという簡単なものです。
国外に出ることになる任務なので、部隊所属の上級騎士全五名のみでの任務になります。我が国の一般騎士は大規模な使節などでもない限り国外任務には就かないので、この人数での任務はよくあることではあります。
特に、外交使節として認められる「職業」を持っている上級騎士は、第1隊の隊長、この隊の隊長と私、それに特別隊の参謀だけなので、国外での「正式な」任務ではこの三隊が動くことが多いんですよね。
任務が下って、彼の国への贈り物や道中の消耗品などの準備、部隊を特別隊に引き継いだりなどで三日ほど掛け、五日前に王都を発ちました。とはいえ、国内は転移門での移動なので国境までは一瞬なのですが。
そこで問題・・・・・・と言っていいのかは分かりませんが、予定と違うことが起こりました。
うちの隊の隊長と参謀が主街道ではなく辺境街道を使って向かおうと言い出したんです。
確かに、西の主街道を使う場合は途中の小国にも立ち寄り、挨拶などをしないとなりませんから、到着までに半月はかかってしまうでしょう。それに隊長は美人ですから、小国の貴族の中には言い寄ってくる者が多くてウンザリしていますから。
北の辺境街道を使えば危険とはいえ一週間ほどで到着することが出来るでしょう。上級騎士の私たちであれば大抵の危険には対処できるだろうと思い、その時に賛成してしまいました。
辺境街道の起点になっている隊長の実家の領地に転移し、辺境街道を通って出国しました。
初日は、我が国の開拓団の開拓村に泊まり、その後はいくつか設置されている野営地を利用しました。
そして今日、ドゥルト・ハルクスと、『ドワーフの国』ガドン首長国との分岐点まで一日と言ったところで魔物の群に囲まれてしまいました。
群の構成は、猿型と狼型を中心に、それ以外は何体かの哺乳類型の魔物が混ざっていると言った感じです。特に中級上位の熊型の魔物「剣爪熊」が一体いる事が、この群を侮れない物にしています。
姿は見えませんがこの群の構成から考えて、「軍団猿」と「支配狼」がいるのは間違いないでしょう。どちらも、他種の魔物を群に取り込む特殊な魔物で、戦闘力自体は大したことないですが、その特殊能力で中級上位として扱われているはずです。
「はぁっ!」
っと、色々考えている間に近付いてきた「餓狼」と「禿猿」を両手に持った剣で同時に斬り殺します。私は癒し手なんですが、この数が相手となると馬や馬車を守るために剣を握らざるを得ませんね。
本来は守りを担当するイリーナさんは剣爪熊を一人で押さえるので手一杯ですし、他の三人は攻めに特化していますから馬と馬車を守れるのは私だけになってしまいます。これで道の片側が壁の様になっている岩山でなかったら守りきれていたかはわかりませんね。
正直に言えば、私たちだけであれば、この状況からの離脱も容易いでしょうし、上級の魔物がいないのであれば最終的に負けることはないでしょう。
でも、馬も馬車も国から預かったものですので、安全な主街道ではなく辺境街道を使っておいて失うのは不味いです。ですから慎重に戦わなければなりません。
「はいっ!」
見たところ、群の中心である猿型、狼型の魔物は大半が下級中位の禿猿と餓狼で、コイツらであれば目を瞑っていても簡単に倒せます。
他には斥候役であろう「兎猿」「豚鼻狼」、動きの素早い「腕尾猿」と「跳ね狼」、高い攻撃力を持つ「剛腕猿」「裂け口狼」などの下級上位から中級中位くらいの魔物がいくらかいますが、こちらは積極的に襲ってきませんね。恐らく私たちが消耗したり油断するのを待っているのでしょう。
猿と狼型以外だと、下級中位の「尾鎌鼬」、下級上位の「突撃猪」「誘眠狸」、中級下位の「毒角山羊」「痺爪山猫」が数匹ずつ混ざっていますね。
「えいっ! やぁっ! セイッ!」
また数匹の禿猿と餓狼が前に出てきたので、二動作で左右の剣で2匹ずつ斬り飛ばし、三動作目で薙ぎ払います。薙ぎ払いでは仕留められなかったものの、出てきた分は押し返すことが出来ました。
隙が出来たので、他の隊員の様子を窺ってみましょう。
隊長は少し離れた所で、こちらに来る敵を減らすために「魔槍 蠍の尾」を振るって敵を薙ぎ払おうとしていますが、「蠍の尾」が元々薙ぎ払うのに向いている槍ではないので、鈍重な剛腕猿や突撃猪を引っ掛ける程度で、仕留めるまでには至っていません。
斥候兼参謀役のライチちゃんは、敵の司令塔である軍団猿と支配狼の位置を捕捉しようと動き回りつつ、強めの敵を「魔爪 猫の爪」で引っ掻いて敵の動きを鈍らせています。
白巨人族のイリーナさんは相変わらず、剣爪熊と一対一で戦っています。イリーナさんが押しているようで、横から他の魔物に介入されても楽々と対応しているようです。ただ、剣爪熊は打撃に強いので、メイスを使うイリーナさんの攻撃はあまり効いていないようで、仕留めることが出来ないでいるようです。
最後にエルフ族のリリンさんは、丸盾と短槍で敵を牽制していますが、接近戦の苦手なエルフですから、一体ずつ仕留めていくしかなく、苦戦しているようです。間合いさえ取れれば得意の爆発魔法で範囲攻撃できるのですが、彼女の魔法は集中する時間と味方を巻き込まないための計算が必要で、乱戦になった時点で使い辛くなってしまいます。しかも、形勢が不利になってきたり、長い時間押さえ込まれたりすると、奥の手の自爆魔法を使おうとするので出来るだけ早く有利な状況に持っていかないといけないかもしれません。
「はぁっ! せいっ! やぁっ!」
不用意に近付いてきた尾鎌鼬と痺爪山猫、それに禿猿と餓狼を切り捨てながら、「このままいけば、明日の朝には全滅させられるかな?」などと私が考えたときでした。
『ホォウ!ホゥホゥ!』『オォーーーーン!』
今まで周りで騒いでいた雑魚の鳴き声とは違う、何か力のある鳴き声が響くと同時に、突撃猪と毒角山羊が多数の禿猿と餓狼と同時に私に向かって突進してきて、更に別角度から腕尾猿と跳ね狼が同時に馬に向かって飛び掛ります。
「舐めないで下さいっ!」
【武技・飛斬】と【武技・スラッシュエリア】を同時発動します。
【飛斬】で飛ばした斬撃が腕尾猿と跳ね狼を切り裂き、【スラッシュエリア】の斬撃空間に入った禿猿と餓狼を切り刻みます。流石に禿猿や餓狼より防御力の高い突撃猪と毒角山羊は鈍ら剣での【スラッシュエリア】程度では叩き伏せることしか出来ませんでしたがこれで・・・・・・。
「くっ!」
腕尾猿と跳ね狼の陰から、「隠れ猿」と「影狼」が飛び出しました。まさか、腕尾猿と跳ね狼も囮だったとは。私の方は武技の同時発動のせいですぐには武技を使えません。
後ろから攻撃されることを覚悟すれば、影狼の方は何とか斬れそうですが、隠れ猿の方は間に合いそうもないです。他の人が間に合えばいいのですが。
私が覚悟を決めて、影狼に向かって駆け出そうとした瞬間。
『・・・…ァァァァァァアアアアアあああああ』
どこからか魔物どもの鳴き声とは違う、悲鳴のような声が聞こえてきて、
ドゥグシャッ!
隠れ猿が、降ってきた『何か』に潰されました・・・・・・。
読んでいただいて、ありがとうございます。
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