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アレは、手に持つ皮を落とすと、触ってくれる。


なぜか固まっているアレが心配になって、何度かしてくれたように触ってみたら、動き出したのだ。

……なぜ心配になったのか、というのは、やはりたべものが関係しているのだと思う。

……多分。


こうして触ってくれているのも、気持ちいいので、それもあるかもしれない。


アレが動き出したことが嬉しかったので、身体を震わせ、もっとアレを触ってやる。

アレもこうして触ってやれば、嬉しいかもしれないと思ったから。

そうしたら、アレは自分の手を掴んでくる。


少し、意外だった。


アレは触られるのが嫌だったのだろうかと、様子を伺う。

変化はない。

嫌そうな素振りを見せぬままに、そのまま歩き出す。


自分の身体は、確固とした形をもっていないので、このままアレが動くままにしていても、手が伸びるだけだ。

それか、その手をすり抜けて、掴まれている手が自分の元にまで戻ってくるだろう。


しかし、そのどちらも、ただなんとなく、嫌だったので、アレが動く分の距離を詰めるように、同じ速さで進み出す。


アレの横顔を見る。

なんだか嬉しそうだ。


手を振り、まるで自分の手を振りほどこうとしている仕草をしつつ、そのくせしっかりと自分を握っている。

不思議なアレだなと思う。


ただ、いつまでもアレの手に収まるようにしておくには、自分の身体は不安定すぎた。

形がないので、意識していなければ、滑り落ちてしまうのだ。


なので、さきほど中止したことを、もう一度仕切りなおしてみる。


身体の中で、今までたべてきたものの骨を組み立てる。

モサモサの背と手脚を貰う。

茶色の胴体を貰う。

灰色の牙を貰い、ほかの骨はそれぞれの箇所を補強するように組み立てる。

蝙蝠の骨は小さすぎるので、指を作るのに摘んで、残りはほかの不要なモノと共に身体の外に廃棄する。


ゴキゴキと、ウネウネと身体の形を安定させていく。

骨を軸として、2つの足で歩けるように試行錯誤をしていく。


アレの足は、突然自分がウゴウゴしはじめたので止まったが、自分としてはありがたい。

いきなり歩けはできないだろうから。


骨を、どんどんと身体中に張り巡らしていく。

もちろん、アレが握っている自分の手も例外ではない。


指の隙間から顔を出すように指を作っていく。

途中、骨が何度かアレの手のひらをこするが、アレは手を離さなかった。


……少し、嬉しかった。


嬉しかったので、なるべく早くアレの形になれるよう、がんばる。

がんばった。

できた。


頭部は、重さを考えて骨を入れるのと、あのサラサラした毛を再現できなかったが、概ね同じような姿になれた。


アレを伺う。


アレは……よくわからない。

なんとなく、驚いているような気がする。

だが、どうであれ、敵意のような負の感情は感じない。


気分がいい。


今の自分は。

球状から、アレと同じように、二つの足で立っている。

頭部はのっぺりしているが、手もあるし、指もある。


お揃いだ。


嬉しくなる。

あの、地の底で蠢いていたモノたちより、よほど同胞のような親近感が沸く。


今度は、自分から握る。

芯を得たことで、握られるだけの手から、握ることができる手になったのだ。

あまり強く力を入れてはアレが壊れてしまうので、なるべく優しく、握り返す。


アレは、握った手で自分を支えてくれる。

なので、一歩、足を踏み出してみる。


体重を支えきれずに、崩れ落ちてしまいそうになるところを、なんとか踏みとどまる。


仕切り直して、もう一歩。

今度は、関節部を締め、重心を見直す。


不格好ながらも、なんとか歩けた。

ギクシャクしているのがわかったので、関節部の固定を見直す。


もう一歩、踏み出す。

今度は、それほど違和感はないと思う。

アレの様子を伺う。

喜んでくれていると思う。

アレも、同胞が増えたのだ、多分そうだ。


もう一歩、足を前に出す。

アレも、つられるように足を出す。


おもしろい。


自分は、足を出す。

アレも、足を出す。


まるで、自分とアレが一つの生き物のようになったような気分だ。

実際は、全く違う。

互いの位置関係を、直し直し動いているだけだ。

それはわかっている。


だが――


それでも、たのしい。

……たのしい?

そう、たのしい。


アレと共に手を繋ぎ、歩くのが。


飢えを満たすために、他から命を奪う為に動いてきた自分だが、今はなにか不思議なものが満たされていて、飢えもそれほど酷く感じない。

なんだろう、これは。

わからないが、とてもいいものだ。

アレに触れられた時と似たような、だがさらに大きくあたたかい、なにかを感じる。


手放したくないと思う。

手放したら、自分はまた独りでたべものを探すためだけに奔走するモノになってしまう。


アレが自分のもとから離れないように、なにか利となることをしてやれないだろうか。

……しかし、アレの利となることがわからない。


わからない。


とりあえず、アレがしてくれたように覆い被さってみる。

たべるためにではない。

アレを傷つけないように、身体の表面は柔らかくして、背中に手を回す。

体重は、あまりアレにかからないように足を踏ん張りしてみる。


……どうだ?


殴られた。


びっくりした。

いや、アレもびっくりしているだろう。

だが、害意を感じない攻撃というのは初めてだったので、面食らった。


そしてもちろん、自分はアレからの攻撃を受け止められるほど二足の姿に慣れているわけではないので、倒れる。

その際、勢いを殺しきれず、結構飛ぶ。


おぅ……。


新鮮な感じだ。

重さは変わらないはずだが、重心と形が違うだけでこれほどまで力の働き方が違うのかと空中で関心した。


そして、木にぶつかった。


身体を柔らかくしてしまうと、骨が傷んでしまうので、衝撃を吸収し分散させるように身体の硬度を変える。

こうしてしまうと、ダメージが自分にきてしまうが、この程度なら問題ないだろう。


アレを、見る。


なんだか取り乱しているようだ。

プルプルしている。

いや、身体の柔らかさは変わっていないが、震えている。


……?


アレの反応がよくわからない。

とりあえず、自分もプルプルしてみる。


アレが動きを止める。

どうしたのだろう。

アレはよく死んだように動きを止めるから、どうしていいのかわからない。


様子を、伺う。


覆い被さってきた。


良かった。

アレの気を害してないようで、少し、ホッとした。

自分も、雪を抱くように、手を回す。

あたたかい。

アレ自体に温度は感じないが、自分の奥底から感じるなにかが、あたたかい。


そして、いい匂いだ。

美味しそうという意味ではなく、ただなんとなく、落ち着く匂いだ。


……?


ふと、アレの身体の一部が蠢いているのが見える。

白くて小さななにかが、たくさんいる。

どうやら、アレの身体を掘り返しているようだ。


たべる。


アレを害するモノだったので、一匹残らず、さりげなく。

回した手を、小さな何かに被せるようにしてたべる。


様子を、伺う。


どうやら、アレは気づいていなかったようだ。

アレの身体に起こっていたことも、自分にされたことも。

だが、それでいい。


回した手を離す。

アレも、少し離れる。


今度は、自分から、アレの手を握る。

アレも、握り返してくる。


歩く。


目的は、自分がたべるものを探すため。

だが、それだけじゃない。


アレと共に歩むだけ、というのも、いいかもしれない。

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