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思い、出した……。
洞窟に立つ私は、その場所で起こったであろう出来事を思い出した。
なぜ、忘れてしまっていたのだろう。
彼に買ってもらったブーツも、ズボンもここにある。
荷物の中にあった食料を漁る熊によってボロボロにされてしまったが……。
彼は、私を殺した。
彼は、彼の目的のために私を殺したのだ。
後悔も、おそらく躊躇もなく。
それは……許せない。
何が許せないか。
ただただ激情が頭の中を支配してうまく考えられない。
私を、裏切ったこと。
自分を、欺いたこと。
騎士を、侮辱したこと。
民からの願いを、足蹴にしたこと。
……ブーツを捨てられた、こと。
このアンデッドの身に堕ちてから一度も感じたことがない、ドス黒く熱い熱いものが身体中で暴れまわる。
私の肉体はそのうちに腐り落ち、いづれどこか人の目の届かない森の奥で倒れるだろう。
その前にしなければならないことが出来た。
ケジメをつけなければ、いけない。
おそらく、彼は私が死んだ後の、剣で殺害した証拠が、動物にたべられることで無くなるのを確認しにきたのだろう。
そしてそれは、私を発見したことで、再び排除へと傾く。
私という犠牲を出しながらも、魔物を退治したという輝かしい成果を報告するために。
その、再びまみえた際は、私が彼を、殺す。
殺す。
その決意をしていると、不意に後ろからなにかが背中に触れてくる。
――ッ!?
思わず剣に手が伸びるが、そういえばここにはテケリしかいなかったと思い直して緊張を解く。
テケリだった。
心配そうに手を伸ばし、私がテケリを撫でたようにしてくれる。
気が、緩む。
正直、もはや人間ではない私が行動を起こす必要もないなとも思う。
このまま、人間であった頃の出来事は忘れ去り、どこかへ行ってしまうのも手だ。
だが、ありえない。
私が騎士としての記憶を持ち続けている限り、どんな些細な不正も、目の前で見逃すことなぞ出来ようはずがない。
ましてや、私の信頼と、命すら奪い去って行った行為だ。
忘れられる道理なし。
無意識に胸に抱いていたブーツを、落とす。
なぐさめるように撫でてくれるテケリに感謝して撫で返しつつ、まあ、私から彼を探し出す方法がないので、肩の力を抜いて、この奇妙な……魔物のようであるが、優しい旅仲間と一緒にフラフラしようと思う。
ご飯探しのついでに、件の魔物とやらを見つけられるなら良いし。