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……何をされているのだろう。



灰色のやつが再び近づいてくるのを待てども来なかったので、諦めて進み出したら灰色が転がっていた。

お腹が減っていたので深く考えずに食べていると、近くに何かがいた。

石か木のような、しかし生き物のようなソレに――


手を、伸ばす。


食べられるかもしれないが、美味しくないものは身体に入れたくない。

雪や石を食べた時に感じた、なんとも表現しづらい感覚は、あまり繰り返したくはなかった。


触れてみると、冷たかった。

そして、反応してきたので驚いて手を引っ込めてしまう。


不思議なモノだ。

ソレには蝙蝠のような、動かなくなった灰色のような命やその残滓が感じられない。

しかし、動くことのない命なきモノとは違い自分の動きに反応してきた。


!?


思考に没頭していると、緩慢な動きでソレが自分に触れてくる。

害意や生存本能を感じられなかったからか、その初動を察知するのに遅れが出てしまった。


筋肉なぞない身体が緊張で固まる。

自分の表面を、形を確認するようになぞっていく。


食べようとする意図もなく、何をしているのだろうと自分に何をしているのだろうと思う。

なので、問う。

「あなたは何者ですか?」と。


すでに手は引っ込められてはいるが、なぜ自分を意味もなく触ったのか。

そして、その存在の疑問を同時に解消できる素晴らしい問だと思う。


だが、首を傾げ風のような音を発するのみで意思の疎通はできなかった。


諦め、先に進むことにする。

また灰色のやつが転がっているかもしれない。

飢えの強弱はあるが、お腹は一向に満たされないので無駄に立ち止まっているわけにはいかない。


進む、と付いてくる。


特に問題はないので何もせず進む。




あれから随分と進んだ。

周囲の暗さがなりを潜め、夜に見える光の玉が朝の玉と入れ替わりになるほどの間。

ずっと付いてきている。


……。


自分になにかをしようという素振りも、離れていく素振りも見えない。

邪魔ではないが、近くを歩く気配が気になる。


食べたくはないが、食べられないわけではないので、いっそのことお腹の中に収めてしまおうかと思う。

アレに意識を向ける。

手を、伸ばす。


ん?


手を伸ばそうとすると、アレがいきなり動き出した。

なにか棒を手に取ると――


投げた。


風と風、木と木の間を滑り向かった先には、茶色がいた。

茶色の身体に、まるで当然というように突き刺さる。

倒れた。


赤い血が流れ、とても美味しそうだ。


再び、アレに意識を向ける。

指で茶色を指しているが、ゆっくりとした動きで倒れた茶色を食べようと急ごうとしない。

ならばなぜ茶色を動かなくさせたのか?


疑問に身体を震わせる。

すると、アレが喉から漏れる振動で空気を震わせる。

凩のようだ。


……よくわからない。


なにかを表現しようとしているであろうということは分かるが、それ以上理解できない。

依然変わりなく害意はなく、そして茶色にも興味はないようだ。

ならばするべきことは一つ。


食べる。


急いで倒れている茶色の元へと向かい、覆いかぶさる。

モニュモニュと、咀嚼する。


ほむ……。


灰色のよりも美味しい。

気がする。


アレが投げた棒は、邪魔なのでペッと吐き出す。

アレが追いついてきて棒を拾う。


ここでふと思う。

アレは便利じゃないかと。


何故かはわからないが、アレは捉えるのが難しい茶色を殺すが、食べない。


素晴らしい。


気分が良くなる。

いいやつだ、と思う。


少なくとも、地の底で蠢いているだけだった同胞よりも好感度はかなり上だ。

ならばどうしてやろう。

アレは自分に茶色をくれたが、自分は渡すものがない。

茶色の一部を渡しても良かったが、興味はない様子だった。


考える。


思いついた。

先程までアレは自分に付いてきた。

ならば、今度はアレに付いていくのもいいかもしれない。

お返しにはなるかはわからないが、他に思いつかない。

「好きなところへ付いていく」と言ってみるが、アレが理解できたかはわからない。


しばし、沈黙。


ジッとしていると、アレが動いた。

自分に向かって……。


ツンツンと指でつついてくる。


どんな意図をもっているかはわからないが、黙って受け入れる。


……少ししたら飽きたのか離れる。

首を傾げ、またもや喉から音を出すと木のように動きを止める。


…………。


動き出した。

踵を返し、歩き出した。


付いていく。


振り向いた。

白濁した瞳を自分に向け、少し考えるように止まって、また歩き出す。


進む。


振り向いた。

白濁した瞳を自分に向け、少し考えるように止まって、今度は自分に視線をよこしながら歩き出す。


進む。


止まった。

覆い被さってきた。

だが、食べられてはいない。

ただ覆い被さっているだけだ。

自分はアレを食べる気はないので、重さに少し沈むが身体の中には入れない。


離れた。


覆い被さってくるのと同じように、急な動きで離れると、今度は自分を振り向かずに歩き出す。

ここまで自分に、自ら接触してくるモノはいなかったので、少し新鮮だった。

そして、少しだけ、その感触が名残惜しかった。


そんなことを考えていても、アレは進む。

なので、自分も付いていく。


付いていく。

付いていく。

付いていく。



アレに付いていってから茶色いのを二つ、同じように棒を投げて仕留めたのを食べた。

美味しかった。

アレは凄いなと思った。

ずっと後ろに付いていけば、たべものに困らないのではないかと心が弾む。


ふと、アレが立ち止まる。

茶色を見つけたのかと思い、期待に身体を膨らませ、視線を追う。



茶色はいなかった。

しかし、アレと同じ形をしているモノが遠くの方に立っていた。


アレと同じ形をしているが、アレとは違うなにかだった。

細部の形の違いというものではなかった。

根本的な違いを感じた。

自分と茶色とか、あるいは自分と同胞のような違い。

ならば、たべものだと定めるが、アレは動かない。


疑問に思う。

なぜ茶色のように仕留めないのかと。


だが、その疑問はすぐに解決した。

たべものが自分の近くに歩いてきているのだ。

いや、小走りかもしれない。

いや、急いで走っているのかもしれない。


なんにせよ、たべものが自分から寄ってくるなんて素晴らしいと思った。


たべものが立ち止まった。

なにか口から音を出しているがわからない。

意思疎通を図っているのかもしれない。


……よくわからない。


もしかしたらアレと同じように茶色を殺すためにどこかへ行くのかもしれない。

アレと違うとは感じるが、実はそんなものは些細なものなのか。

アレと同じく、いいやつなのか。

アレがどう動くのか、見つめる。

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