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アレを伴い歩んでから幾つの日を重ねたか、自分にはわからない。
だが、かなりの時間を共に過ごしてきたのだろうというのはわかる。
アレの身体に出来る傷に、自分の一部を別けて直すという行為も、幾度繰り返してきたのか覚えていない。
ただ、アレの傷に馴染んだ自分の身体は、もはや自分の身体のようではなくなっている。
アレの皮膚と同化し、アレと一体になって、アレを構成するモノとして生まれ変わっている。
今ではアレの身体の7割近くが自分だったモノに置き換わっている。
そのことに、自分は嬉しいのやら悲しいのやら、感情を持て余している。
感情、というのも意識したのは久しぶりだ。
以前は怒りの感情にも戸惑って、持て余していたのだが、こうも変わるものだとは思わなかった。
すでに自分の一部となり、そこに存在するのが当然のモノとなったのだから。
それもこれも、アレ……いや、彼女をアレ呼ばわりするのは良くないか。
彼女との意思疎通も、自分の身体を分け与えたからか、たどたどしいながらも出来るようになった。
だから、これまでのようには付き合えなくなった。
もちろん、いい意味で、だ。
彼女は自分のことをテケリと呼び、彼女のことをいつか自分が守れなかった白い花の名で呼んで欲しいと言う。
自分は、無論その意見を尊重したいと思う。
彼女からは、自分が知っている貧相な言葉では言い表せないほどのモノを、たくさんもらった。
ならば、できるだけその意に沿えるようにするのが自分の行動方針だろう。
彼女の願いは、姿すらわからぬ魔物を殺すこと、そして自分を殺すこと。
今はまだどちらも力不足だと残念そうにしていたが、叶うように自分も協力している。
その為には経験を積むのが一番だろう。
自分は、様々な出来事に直面し、その意味を認識していくことで成長できているという実感がある。
下半身が蛇のそれと上半身が人となっている雌、ナーガと出会い、全身が緑に染まっている大きな雄、オークとその番いである彼女と同族の雌と言葉を交わす。
鳥の翼と鈎爪をもつハーピーと拳を交える。
下半身が馬という生き物に代わっているケンタウロスの雄と、サティロスという頭部に角をもち山羊の下半身のサテュロスという雄の愛について騒ぎ、語らいあったりもした。
外見や性別の違いも乗り越え、ただひたすらに互いを求めるさまは、眩しく情熱的で、羨ましかった。
自分もそうなれたらとも思うが、彼女が自分を好んでくれていないことも分かっている。
だが、自分は彼女を好いている。
一方的かもしれないが、彼女には迷惑かもしれないが、ここは引けない。
自分勝手だと彼女に謗られようと、構わず彼女を求める。
隣を歩む彼女を見る。
頭部と胸部を除き、ほとんどが自分と同じ黒いモノに置き換わっている。
だが、その魅力は欠片も損なわれることなく、そして変わりなく自分と一緒にいてくれることに安堵する。
彼女いわく、自分のそばにいるのは、自分に好き勝手な行動を取らせないためとのことだったが、関係ない。
ただそこにいてくれるという温もりだけで、自分は満足だ。
繋ぐ手に少し力を込める。
彼女は不思議そうに自分を見る。
彼女に殺されるその日まで、自分はこの大切なものを守り続けよう。
共に狩りをし、共に食べ物を口にし、共に歩む。
彼女の名を口にする。
白い花の名前で――
別のお話で補正が入るかもしれないですが、いつになるかはわからない