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悪役(?)お嬢様は流されやすい。

悪役は、難易度が高いようです。

作者: 刹那零

初投稿のため、ガクブルです。。。

誤字脱字は指摘お願いします。

 


「――篠宮雅」



 壇上の御方の呼び掛けに、わたくしは凛と背筋を伸ばしました。彼の言葉は予想がつく……というより、わたくし、その一言を彼に言わせる為に今まで動いて参りました。

  興奮状態の内心はおくびにも出さないことを、自分で褒めたい気さえしております。


 彼――斎条要はわたくしを見て、その口を開きました。



「今日をもって、俺達の婚約は破棄する――」



「……っ」


 わたくしは目を思いっきり見開いた後、俯いてふるりと身を震わせてしまいました。


 周りの方々がこちらに視線を向けつつ、ざわざわとしていらっしゃる様子ですが、わたくしにはそんなことを気にかける余裕などありません。

 目元にはじわりと涙が浮かび始めたところで、わたくしは顔をあげ、要を見つめました。



「…やく…ようやく! ようやく決心して下さったのですね! わたくし、嬉しいですわ!」


 欲しかった言葉を貰えたわたくしは目尻に涙を浮かべ、満面の笑みを浮かべておりました――




 ―――――――――――――――――――――――




 ……いきなり修羅場のようなところをお見せしてしまい、まったく恥ずかしい限りですわ。

 改めまして、皆様ごきげんよう。わたくし、篠宮雅と申します。わたくしは篠宮家の娘として生を受け、両親に溺愛されて、優しい兄に見守られ、のびのびと育って参りました。

 外見も美少女といっても過言ではないほどに生んでいただきましたので、とっても嬉しいかぎりです。

 ですがわたくし、実はいわゆる転生者というやつらしいのです。しかも、わたくしが今いるこの世界、どうやらわたくしが前世でこよなく愛していた『薔薇薫る箱庭の君』という少女漫画の世界のようなのです!


 ……ええ、この上なく胡散臭い話ですわよね。わかりますわ、その気持ち。何故なら、わたくしだって最初からわかっていたわけではないからです。

 物心ついたとき、何だか聞いたことのある名前だな、という気はしたのです。しかしその時はまだ前世の記憶も曖昧……というかきちんと認識できておらず、特に気にとめませんでした。

 ですが、小学生になる頃に自分の知識量が明らかに多すぎることに気付き、また見知った名前と面影(という表現は的確ではないように思いますが)をもつ顔を見たことで、流石に気が付きました。


 即ち、この世界が少女漫画の『薔薇薫る箱庭の君』通称『薔薇君』の世界であり、わたくしはその世界の登場人物に転生したようだ、と――


『薔薇君』は、大企業の子息や令嬢の通う、薔薇学園(なんて安直なネーミングなのかと思ってしまいますわよね。わたくしも前世で初めて見たときは思わず笑ってしまいました)に転校してきた庶民であるヒロイン――青蘭紀伊が、学園に君臨する薔薇王(仰々しい名前ですが、いわゆる生徒会長のことなのです)こと斎条要に恋をし、最後にはその婚約者を退けて自らが婚約者となる――という、素晴らしく王道を突っ走る漫画なのです。

 ヒロインたる紀伊ちゃん(心の中では一方的に呼ばせていただいております)もさることながら、登場人物達はそれぞれクセがあるものの何処か憎めず、話はありきたりだが魅力的なキャラクターが人気の漫画で、前世のわたくしのお気に入りの漫画でした。

 とはいえ勿論好まれないキャラクター達もいるわけでして。それは紀伊ちゃんの恋を邪魔する、薔薇王の婚約者とその取り巻き達です。彼女達はそのスペックの高さから庶民である紀伊ちゃんを見下し、様々な嫌がらせを仕掛け、いっそ清々しいほどに性格の悪さを発揮していきます。

 それに対抗する紀伊ちゃんがなんともまあ健気で!前世でのわたくしは紀伊ちゃん推し(だって紀伊ちゃんはとっても可愛らしいんですの!)だったのです! 彼女の恋が成就したときは喜びのあまり、なんとも言えない奇声をあげ、家族一同から不審な目で見られたものです。


 ……さて、こんな世界に転生したわたくしですが。ここで重要なのは、わたくしがどの立ち位置のキャラクターに転生したのか、です。

 察しのよい方はもうお気付きでしょう。そう、わたくし篠宮雅は幼少の頃からの要の婚約者、紀伊ちゃんのライバル的存在なのです!

 紀伊ちゃんに恋のアドバイスも慰めることもできず、それどころかろくに話しかけることもできない――むしろ思いっきり虐め倒して、嫌われる立ち位置……紀伊ちゃん推しのわたくしですから、状況を理解したとき一晩枕を濡らしたのも仕方のないことと思います。


 ところが! 一晩泣いた後、わたくし気付いてしまったのです!

 わたくしが悪役を立派にこなせば、紀伊ちゃんは要と幸せなハッピーエンドを迎えることができるのだ、と!

 彼女と結ばれる予定の要も今世では幼馴染みですので、人となりはよくわかっているつもりです。要になら、紀伊ちゃんを任せても良いでしょう。要も容姿は整っていますので、紀伊ちゃんの隣にぴったり(もっとも、わたくしは要以外の男の方はあまり知りませんので、あまり偉そうなことは言えないのですけれど)です。

 ともかく、わたくしの行動で二人を幸せにできるなんて、とっても素晴らしいことですわ! 


 ……という決意のもと、紀伊ちゃんが転校してくるまでは人脈形成に勤しみ(ハッピーエンドの後、わたくしが平和に過ごせるようにしておかなければなりませんものね。小学生のうちから取り組みましたので、皆さんと仲良くなれたと思いますわ)、紀伊ちゃんが転校してきてからはそれはもう虐めました(とっても心苦しかったのですが、これも紀伊ちゃんの幸せの為です!)。



 ふう、説明としてはこの辺りで構いませんでしょうか?これでようやく、冒頭に戻るというわけです。

 補足しておきますと、本日は超一流ホテルを会場に、薔薇王こと斎条要の誕生パーティーが開かれており、ここでは意地悪令嬢こと篠宮雅との婚約を破棄し、青蘭紀伊との婚約を発表する、という大切なシーンがあるのです。



 ―――――――――――――――――――――――



「婚約を破棄する」という要の言葉に、今までの努力が実ったことが実感され、わたくし思わず泣きそうになってしまいました。ですが、今日は二人の新しい門出を祝う大切な日――。わたくしは満面の笑みで要を見つめました。周りの方々がざわめいたような気がしましたが、恐らく気のせいでしょう。


 ……あら?どうしたんでしょう。何だか要の機嫌が目に見えて悪くなっているような気がします。


「要? どうしたんです? 眉間に皺がよってますわよ?」


 流石のわたくしもあまりの不機嫌そうな顔に、声をかけてみることにいたしました。


「――でも?」

「え?」


 何でしょう。さっぱり聞こえませんでした。思わず首をかしげると、要の顔が更に険しくなってしまいました。


「要? 顔が恐いですわよ?」

「……俺が、俺達の婚約を破棄する、と言うとでも?」

「……え?」


 ちょ、ちょっと待ってください。どういうことなのでしょう? さっぱり理解できません……というより、脳が理解することを全力で拒否しています。

 呆然としているわたくしに、要が凄みのある顔で笑いかけてきます。ちょ、恐すぎですわ! 目が据わってましてよ!?


「・・・雅? お前が何をしたいのかは知らないけど」

「な、何のことでしょう? わたくしにはさっぱりわかりませんわ?」

「へぇ、しらばっくれるんだ? ……まあ良いけど。後でじっくり聞き出せば良いし」


 ……み、身の危険を感じるのは気のせいでしょうか? 先ほどから蛇に睨まれた蛙の気持ちを感じるのは気のせいですわよね!?


「みーやーび? 何か言うことは?」


 言うこと!? 言うことって何ですか!? いやいやいや、落ち着くのです、わたくし! 要は紀伊ちゃんと結ばれ「雅、何考えてんの?」

 思考読まれた!? ちょ、いくらなんでもスペック高すぎでしょう、要! 読心術とか少女漫画に出てきませ「雅が分かりやすいだけだと思うけど?」

 きゃぁぁぁ!? こ、これ以上は色々と危険ですわ! こうなったら、アレです、退却も戦略のうちというやつです!


「き、気分が優れませんので、これで失礼いたしますわ!」


 わたくしの運動神経を最大限駆使し、ぱっと身を翻して会場走り去ります。要の誕生パーティーですもの、主役は抜けられませんよね?ですわよね!?

 後ろをちらりと振り返ると、同じく走る要。いやいやいや、追ってきてますけど!?


「逃がさないって言ったよね?」


 いやぁぁぁ! そんな凄みのある顔で言わないでぇぇぇ!

 あまりの恐怖に視界が歪んでいきます。どうしてパーティーはドレスコードなんですの!? は、走りにくいではないですか!


 ……瞬く間に手首を引かれ、壁に押し付けられてしまいました。目の前には多分要(視界が歪んでいるため、認識できません。……決して現実逃避しているわけではないのです……!)。

 まあ、これはいわゆる“壁ドン”というやつですか? 実はわたくし、前世含め、初体験なのです……げ、現実逃避ではないのです、初めてなのは本当なのですから。

 というか要! 本当に顔が恐……あら、何故か深いため息をついています。


「……あのさ、本当にわかってないの?」

「な、何がですの?」

「……」


 あああ、今物凄くイラっとさせてしまいました。お願いですので睨まないでくださいぃ。……今日は涙腺が緩んでいるようです……。

 ……こうなったら、そう、要を見なければ良いのです!とはいえ、要が近すぎて視線を外すことすら出来な……そうですわ、目を瞑りましょう! これなら要が視界から(一応)消えてくれますもの!

 というわけで思いっきり目を瞑ると、深いため息再び。気にはなるものの、目を開けるなどという愚行は犯しませんわ。だって、要に睨まれるなんて、嫌われている気がして余計に哀しくなってしまいますもの……。


「……もしわかっててやってるなら、後でお仕置きだね?」


 ……何でしょう、物凄く不穏な気が「んぅ!?」

 えっと、唇に何か柔らかなものが触れていることは、辛うじて認識で「やっぁぅ」


「動いたら、お仕置きだから」

「~~~っ!!」


 口移しで何かよく分からない液体を飲まされると、途端に身体から力が抜けてゆきました。

 力の入らない身体は、いつの間にかわたくしを抱き込んでいた要に支えられ、要に抱えられています。

 ようやく解放されたときには、息も絶え絶えになってしまいました。


「さて、じゃあ雅から誕生日プレゼントをもらおうかな」


 要は心底楽しそうに笑いながらわたくしを抱き上げましたが、今のわたくしに出来ることは、要の顔をぼんやり眺めることだけです。身体は力が入らない上に何だか熱く、意識もふわふわで何も考えられません。


「……かなめ? うれしそう?」

「ん?ああ、嬉しいよ?俺の一番欲しかったもの、雅がくれるんだろ?」

「ほしかったもの……? わたくしにあげられるもの……なら、あげますけれど……」

「……言ったね? それじゃあ許可もでたし、据え膳でもいただこうかな」



 ……わたくしを抱き抱えた要は、その後パーティーには登場しなかったそうです。

 わたくしは……お恥ずかしながら寝ぼけて取り返しのないことをし、加えて気付いたらホテルの一室で寝かされておりました。


「……ん……?ここ、は……」

「ああ、起きた? ここ、元々予約してあった部屋だから、気にしなくても」

「かなめ……?」

「そうだよ?・・・それじゃあ、いただきます」

「え?ちょ、やっ!?」



 ・・・わたくしには、その時の要が今まで見た中で一番良い笑顔を浮かべていた、としか言うことができません・・・。



 その後どうなったかと言われれば、婚約者ではなくなりましたが、いつの間にかわたくしの苗字が変わっておりました。

 紀伊ちゃんに今までのことを謝罪すると、「? 何のこと?」と返されてしまいました。


 ・・・わたくし、今まで何をやってきたのでしょう・・・?



 ―――――――――――――――――――――――



 久々に我が家に訪ねてきてくれた紀伊ちゃんを笑顔で迎えました。紀伊ちゃんは高校を卒業してから5年経っても友達でいてくれます。

 そんな彼女ですが、先ほどからわたくしの足下を凝視して固まってしまっています。まあ、わたくしもその気持ちはわかりますので、何も言うことはありません。

 わたくしだって、もし紀伊ちゃんの足が鎖でつながれていたら、絶句してしまっていたでしょうし。


「……雅。コレは、同意の上なの……?」


 ……そう言われると、正直困ってしまうのですけれど。


「ええと……わたくしは、プレゼントなのです」

「あー……そう言えば、昨日はあの男の誕生日か……」

「ええ、そうなのです。何が良いのかと聞いたら、クローゼットからこの鎖が出てきたのですわ」

「……あいつ、ホントによく捕まらないよね」

「ですが、これはわたくしの身の安全のためだと要は言ってましたよ? お腹に子供もいるんだし、気軽に出歩いて危険な目に遭うといけいないから、と言ってましたもの」

「……」


 紀伊ちゃんは胡乱げな目をしていますが、わたくしは前科がありすぎますので要の心配を撥ねのけることができません。


「……ああ、でもそっか。こないだもまた誘拐されかかったんだっけ?」

「ええ、そうなんですの。久々に全力疾走してしまいましたので、激しい運動は避けるように、とお医者様に怒られてしまったのです……」

「それは……仕方ないんじゃないかな……」

「走ったのは状況からして仕方ないとしても、誘拐されかけたのは、わたくしの不注意ですもの」


 要が言うには、もうわたくし一人の体ではないのだから、気をつけなくてはいけない、と。雅は結構抜けてるんだから、俺が必要以上に過保護になるのも仕方ない、と。

 鎖片手に真剣な目をした要に、わたくし、何も反論できませんでした……。


「……でも、ねえ。いくら何でも、限度ってもんがあると思うんだけどなあ……」


 遠い目をした紀伊ちゃんに、わたくしは苦笑いを返しておきました――。



 雅が想像以上に鈍感になり、要が予定外に腹黒になりました。……一体何処で間違えた……。


 雅は頭良いけど鈍感すぎる子で、要は外堀から埋める系(執着、ヤンデレとも?)です。

 紀伊は天然ちゃんですが、雅の虐めに気付かなかったのは、雅と取り巻きによる事後フォローが完璧過ぎたため、です。


 プロフィールでも。


篠宮雅 (しののめ みやび)17歳(誕生日まだ来てません)

 生徒会副会長。

 頭脳明晰で、運動神経も良いはずだが、要にはかなわない(あらゆる面において)。

 要のことは昔から好きで、だからこそ幸せなエンドを迎えさせようと思って頑張ってみたが、見事に空回った。でも要からの気持ちには欠片も気付かない、鈍感な子。

 美少女だが、要のガードが固く、男子は近づくことも出来なかった。勿論、そんなやり取り、本人は知らない。

 影では、薔薇王に対し、薔薇姫というあだ名があった。


斎条要 (さいじょう かなめ)18歳

 生徒会会長(通称『薔薇王』)

 ザ・腹黒(の予定だった;;)。

 雅が初めから好きなのに、気付いてもらえない。その意味では気の毒な人。だが、同情はできそうにないのが要クオリティ。

 顔はイケメンだが、雅への執着を隠そうともしないので、周囲は遠巻きに憧れるだけ。

 青蘭紀伊が転校してきてからは、雅が自分に構う時間が明らかに減ったため、紀伊のことは嫌い。

 薔薇王というネーミングは嫌いだが、雅と対になっていると知ってからは、そうでもなくなった。

 実は雅との婚約は幼い頃のこいつの希望で、自分の誕生日に入籍できるよう、外堀から埋めた。

 ヤンデレの素養あり。


青蘭紀伊 (せいらん きい)18歳

 高2の時、薔薇学園に転校してきた、天然ちゃん。

 少女漫画『薔薇薫る箱庭の君』のヒロイン。

 雅に虐められるものの、それに気付かない強者(原因は雅にもある)。

 要の気持ちには気付いていたので、在学中は可哀想なものを見る目で見ていた。雅と友達になると、ただでさえ嫌われていたのが余計に嫌われた。が、一切気にしない。



 後日談について。

 何となく書きたくなったので書いてみました。

 雅の足の鎖は、家の中であれば難なく歩き回れるくらいの長さがあります。そのあたりはきちんと計算されて購入されているので、問題はありません。

 むしろ、クローゼットの中身が気になりますね。それはもう色々と入っていることでしょう、イロイロと。



 続編として要視点書きました。よかったらご覧ください。

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[一言] ×難易度が高い ×難度が高い または 高難度 難易度は間違いです。
[気になる点] 話の展開が解りづらかったです
[良い点] おもしろかったです! 続きが気になって仕方ありません! 要視点、楽しみにしています。 [一言] 紀伊ちゃんのエピソードとかも見てみたいです。
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