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 いつも隣にいて、

 笑っていた貴方がいなくなったのは  

 もう、ずいぶん前___


  * * *


もう、潮時なのかもしれない__。



ふとそんなことを考えたのは他でもなく、ギルド新聞に載ってる幼なじみの顔を見たから。その隣には我が国の見目麗しい姫様。幸せそうに笑っているふたり。


 待っててくれ。

 必ず、戻ってくるから。


城の兵士が迎えにきた夜、彼は焦ったように私を抱きしめて口早にそれだけ言うと指先にキスを落としてどこかへ行ってしまった。その後に彼が勇者に選ばれて魔王討伐に向かったと村長が教えてくれた。大丈夫、すぐ帰ってくると慰めてくれた村長に笑みを返して貴方を待ち続けて一年。彼は見事魔王討伐を果たし帰ってきた。その翌日都で凱旋パレードが行われてその時に姫様が彼に召されたのだ。といっても彼が婿入りするって言うことになるけれど要するに、私は棄てられたのだ___


そう思うと悲しくなるけれどいつまでも彼を引きずるのは私の性分じゃない。だからこそ勇者が里帰りするという新聞記事を読んだときに村をでる覚悟を決めたのは間違いではないもの、きっと。会いたくないもの、それに丁度薬師として公爵家に召されることになったから奉公に出るという名目で村を出ても誰も何も咎めない、咎めれない。仲のよかった友人が泣きそうな顔で此方を見て見送ってくれる。そんな彼女たちに笑顔でで手をふって、村を出てきた。


それから3ヶ月がたち、公爵家で住み込みで働く薬師として不慣れながらもお役に立てるようになり始めて。公爵家の御嫡男であらせられるフリード様やその妹君のハンナ様に名前を覚えていただけるほどになり年の近いお二人とは少しだけ楽しい会話ができるようになってきた頃に村の友人から一通の手紙が送られてきた。季節の挨拶から始まり私の体を心配する友人に涙が出そうになるほど嬉しくて。それ故に最後の一文の反動が大きかった。


 勇者が村に帰ってきて

 あなたを探している。


死の宣告のような手紙に見えないあの人の顔を思い浮かべて破り捨てそうになったのを辛うじてとめる。すぅと深呼吸して急いで返事を書くために部屋へとこもる。ようやく、決死の思いで書き上げた手紙を持って部屋をでるとフリード様が目の前を歩いていらっしゃるために我々使用人は道をあけ頭を垂れなければならない。でも、すぐに楽にせよとのおこえかお声がかかるのだが。


「ミア、いいよ。」


柔らかな笑みが穏やかな声と共にかけられてすっと顔をあげると優しく微笑むフリード様がいて少しだけホッと胸をなで下ろす。あぁ、いつも通りだ。

「フリード様、いかがなさいました?」


彼が使用人の移住区に来ることは珍しくもないがそれは用がある時だけ。といっても主に私を呼びに来るのだが。


「いや、ミアと話がしたくてね」


今は下ろしている髪に触れて笑う。さっきまで編み込んでたからすこしだけ緩くウェーブのかかった髪を彼の手が弄ぶ。なんだろう、最近こんなことが多い気がする。

薬剤師である私はメイドさん達のようなメイド服ではなく動きやすさ重視の私服である。制服はないため毎日大変だ。とは言っても面倒なのでシャツとスカートかズボンというローテーション。


「フリード様?」


いつまでたっても話を始めない彼の名を呼ぶ。彼は少しだけ名残惜しそうに髪から手を離す。


「ミア、母が君と話したいらしい。母の部屋まで行ってくれる?母はいつでも良いと言っていたけどね」


「わかりました。…フリード様自ら伝達に来られなくとも良かったのでは?」


「いいんだ、ミアに会いたかったから」


瞳が甘く細められるのを見るとあぁやばいと察知する。彼の手が私を捕まえる前にひらりとすり抜けて。


「フリード様、私は公爵家にお仕えする薬剤師です。一時の気の迷いでそのようなことはおやめください。……失礼いたします。」


深々とお辞儀をして彼の前から去る。立ち尽くしている彼がいるけれどしょうがない。放置しとけば誰かしらが回収してくれるはずだから。


自意識過剰なんかじゃない、これは事実。

フリード様が私のことを好いてくださってるなんて百も承知。けれどただ物珍しいだけ。だからすぐに思い直す、村娘なんてやっぱり要らないと。


歩調を少しだけゆるめふと自嘲する。あぁ、いつのまにこんなに人間不信になったのだろうか。素直なお前が好きだって言われたのに__と危ない。こんな所で彼を思い出すなんて。


ふぅと息を吐いて扉をノックする。


「ミリアです。」


「待っていたわ、お入りなさい。」


扉を開けて私は奥様の部屋に入った。




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