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『逃げてきた』って、言ってたよね。それって、厄介事の匂いがプンプンするんだけど。


まあ、たぶん家出か友達と喧嘩でもしたんでしょ。


そんな、気楽な気分で私はもう一人の自分を見る。客観的に自分を評価出来る機会は少ない。


でも、私が彼女だとして、よっぽどのことがないかぎり、もう一人の私のところへ逃げようとは思わないわけで……――――――――




「で、この惨状は?」


目の前の古びた洋館を見て思う。


なんだこの廃屋。もとい、お化け屋敷。


窓は、結露で白くくすんでいる。壁は蔦が這い放題で、庭と言わず道と言わず、草がボーボー。


「あんまり道からはみ出さないでね。落ちるよ」

「なにに!?」

「池」

「ないよ!」

「草で隠れてるから……」


危ない! 訪ねて来た人が落ちるでしょっ。なんで、草を刈らないの……。


草が倒れている場所が道、ということらしい。ここに来るまでには、もちろん不安もあった。


彼女の説明では「帰るには、私が私の世界にいなくちゃダメだから、身代わり置いて来た。もちろん、生モノじゃなくて魔力で作った人形だよ。一応、私の魔力から作ったから私の一部で、並行世界を行き来するために、同じ場所になくちゃダメなの」とのこと。


理屈はわからないけど、彼女は魔力で私そっくりの人形を作った。なんでも「これがないと、たーちゃんが帰って来れないからね」と、いうことらしい。私と彼女の存在が世界を繋ぐ……って、なんだか壮大なファンタジーでも始まりそうだけど、今はホラー映画のプロローグみたいだ。


「不気味な洋館に迷い込んだ旅人は、雨宿りをするために館の中へ……そして夜中、旅人は不審な気配を感じ、部屋の中を徘徊する。笑い声、物音、人影、異変は旅人の周りでおきる様になり……明け方には、静かなはずの館で悲鳴が響き渡る。……ついに、旅人は館から出ることはありませんでしたマル」


ホラー映画で、主人公が登場してないのに死人が出るのは結構定番だと思う。


「失礼な! 私の家で行方不明者は出ませんっ」


この世界には、怪談話的な物語がないのか少女は冷めた反応を返した。


ジャパニーズホラーは、怖いことに定評がある。私は、そういう話が好きなのだ。


プリプリ怒る少女に、お返しに日本の怪談話をしこたま聞かせた。きっと、夜眠れなくなること間違いなしの厳選したジャパニーズホラー。


「も、もういいよ」


うん、刺激が強かったみたいね。


特に「この話を聞いたら夜中に〇〇が来る」と言ったとき、少女は耳をふさいで「ぎゃー!」って叫んでた。その話は、私が幼い頃に夜トイレにいけなくなった『兵隊さん』という話だ。大丈夫、大きくなったらホラーも嫌いじゃなくなるよ。


「そ、そんなことより……早く屋敷に入って!」


少女は、顔を赤くして話題を変更した。どうにか話から逃げたいみたいだ。


「じゃあ、お邪魔しまーす」


私は、大きな両開きの扉からサッと中に入り込んだ。


薄く積もった白いモノは、柔らかに通路の端までを覆い、光が僅かに差し込む室内は糸のようなモノが光を反射してキラキラと輝いていた。どうみても廃墟です、本当にありがとうございました。


くるりとUターンして帰ろうとする私の肩を誰かが掴む。まあ、一人しかいないけど。


「ちょっと、お掃除するんで待ってて」


少女は、少し考えるような仕草をして、私の肩を掴んだまま『ナニカ』をした。


目や耳でわかる異変はなかったのに、一瞬で室内はピカピカになっている。本当、便利そうで羨ましいかぎりだ。




「……で? どうして、掃除してなかったのでしょうね?」


私が叱るように、腕を組んで少女を見ると、彼女は気まずげに頬を掻きながら言った。


「広すぎて使ってなかったのもあるけど、もう一つ家があるから必要なか……いや、まあ、安かったし」

「理由になってない。なんでこんな屋敷を所有してるの?」必要ないんでしょうよ。


「ら、来客用?」

「なんで疑問形なの!? アレでしょ、住んでみたかったけど管理が大変だった、とかいうオチなんでしょ?」


この子は、働いていて一応高給取りだとは聞いた。お金があるんだから、別に家を二つ借りようと勝手なのかもしれないが……。無駄遣いはダメ。


人が住まなくなった家は朽ちるのが早い。空気の入れ替えだけでもしているのなら、まだ救いようもあるけど、湿気てるから放置しているのだろう。


「そ、そそそんなことは……」

「正直に!」

「はい、その通りです」


やっぱり……。若い頃の私に似過ぎて、なんだか凹む。


「一応、気に入ってるから……」

「ほー……」


どのへんが?


私は半眼で少女を見つめた。


「ささっ、疲れてるでしょ? 部屋に案内を……え? いやいや、疲れてるよ。だって、世界を渡ったから。うん、きっとそう!」


無駄遣いだと、説教を受けたくないのか、着いたそうそう部屋に押し込まれた。


まあ、いいけど。一人で探検するから。





屋敷の中は、ざっと見たところ、外見ほどは寂れてないみたい。こんなところに住むのはホームレスぐらいだよ、って思ってたけど床もしっかりしてるし……ギシギシいうけど。


立ち止まってみて、周りを見渡す。


まあ、天井には黒いシミがあるけど、まあ消せないのなら仕方ない。床も良く見ると、黒い何かが染み込んでいたり……うん、なんだろう。ワイシャツにワイン染み、エプロンに油汚れ、床に血の跡………………いや、落とせない汚れってあるよね、うん。きっと、この世界では定番なんだよ、うん。


まあ、例えば強盗が入って過剰防衛しちゃった、とかね。あるあ…………ねーよ! なに、この染み! 怖いんですけど! 犯罪的な匂いしかしないよ!


座って、床の黒い染みを観察。


これが何か、わかる方法は……。って、ルミノール試験しかないよね。今度、こっそり確認してみよう。


でも、ルミノールって高かったような……1gが1500円ぐらい。


無職、金欠なのに、なかなかの出費だわ。でも、気になる。


あの子が私の方の世界に逃げてきた理由がコレじゃありませんように……。

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