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鬼神 -onigami-  作者: 紫月
第2章:眠り鬼
8/8

*葬られし呪の目覚め*

長く更新できずにすみません。

また読んで下さる方がいるといいのですが……。



「――失礼します」

 言葉の後、一拍ほど置いて部屋に滑り込む一つの陰。その主は、

「……音璃呪(ねりじゅ)……」

 スラリと高い背に長い黒髪、柔和な(おもて)を持つその者は、かつて緋誓(ひちか)(ほふ)った鬼守(おにもり)の片割れ、音璃呪であった。

「音璃呪……? こいつがそうなのか?」

「ああ。私が屠った男だ」

 緋誓の姿をみとめ、次いでその側に立つ愁杜(しゅうと)に目をやり、音璃呪は目を細めた。

「お久しぶりですね、緋誓さん。そちらの方は存じませんが……あまり穏やかではない気を(まと)っていますね……」

 音璃呪の言葉を危険と取り、愁杜は腰に帯びる対鬼刃器(ついきじんき)に手を伸ばす。しかしそれは、緋誓の言葉によって止められた。

「止めろ、愁杜。音璃呪は危険じゃない」

「用心にこしたことはない。ただの威嚇態勢だ」

 間近の緋誓にでさえ、聞こえるか聞こえないかの、本当に小さな声で愁杜は言った。

「物騒ですね……。そんなに警戒しなくても大丈夫ですよ?」

 至極穏やかな笑みを浮かべて音璃呪は言う。

「どうかな。あんたは生身の存在じゃないらしいから。何が起きても、出来てもおかしくはない。そうだろう?」

 小さく、不敵に微笑む愁杜に、音璃呪は切なそうな視線を向けた。

「……そうですね。私は、一度死んだ身ですからね」

 笑いながらそう言う音璃呪に、緋誓問うた。

「負担は……ないのか?」

「ええ、ありません。今の所、死する前と何らかわりはありませんね」

 手を開いたり閉じたりしながら返答する音璃呪。

「そうか……。翠憐(すいれん)は? 彼女にはもう会ったのか?」

 緋誓が翠憐の名を口にした途端、表情を一変させ、緋誓の前に平伏(ひれふ)した。

「申し訳ありません、緋誓様!」

「!?」

 平伏したまま動かない音璃呪とそれに驚き困惑する緋誓。見かねたように愁杜は音璃呪に近づき顔を上げさせようとする。

「止めろよ、あんた。緋誓が困ってるから……」

「いいえ、そんなわけには……」

「どうしたんだ、音璃呪? 平伏すことは疎か緋誓“様”だなんて、ただの一度も口にしなかったのに……」

 緋誓も駆け寄り、なんとか顔を上げさせようとする。しかし音璃呪はなおも抗い、顔を上げようとはしない。

「本当に、本当に申し訳ありません……! 未だ未熟とはいえ、かような真似を致しますとは思いもよらず。我が妹ながらお恥ずかしい……!!」

 音璃呪は必死に、妹の失態を謝り続ける。恐らくは自らを蘇らせたことであろう。

「……気にするな。いずれこうなるだろうことくらい、私にだってわかっていた。翠憐が悪いわけじゃない。大丈夫だ」

 音璃呪を宥めるように、緋誓は言った。

「緋誓さん……」

「こんな事になったのは、全て私の責任だな。私にできる限りではあるが、どんな償いでもしよう」

 緋誓は目を閉じて頭を下げた。そうすることで、音璃呪への謝意を表したのだ。だがしかしそんな緋誓の前で、音璃呪は目を見開き驚いた表情をしていた。

「な……おやめください、緋誓さん。そんな……私如きに頭を下げるだなんて……」

「そうだよ。やめろよ……」

 2人は頭を下げる緋誓を止めた。緋誓は顔を上げ、真っ直ぐに音璃呪を見つめて言った。

「嘘じゃない。出来ることならば何でもする。どうすればいい? 音璃呪、お前は私に何を望む……?」

「…………」

「…………」

 音璃呪も愁杜も、緋誓の言葉に押し黙る。沈黙が続く。そんな中、遠くで誰かの声が聞こえた。

「…………様……」

「……か…………た……」

「本気で、仰っているのですか……?」

 音璃呪の声音は重く、慎重さが伝わる口調だった。

「ああ、本気だよ」

「では――…」

「兄様!」

 音璃呪の言葉を遮り、部屋に飛び込んできたのは翠憐だった。

「あ……緋誓姫様。……本当に申し訳ありませんでした!」

 緋誓と目があった翠憐は、一言目にそう言った。

「兄様を蘇らせたこと。そして、ここにお邪魔させてしまったこと。本当に申し訳ありません」

「謝るな、翠憐。別に私は―…」

「では、緋誓さん」

 翠憐の登場になど気付いてもいないかのように話し出した音璃呪。その表情は本当に穏やかで。しかし次に紡がれた言葉は、柔らかに微笑むその姿にはあまりにもそぐわない言葉(もの)だった。

「その命を()て、償ってください」

 微笑む音璃呪から放たれた言葉。緋誓はそれを、すぐには理解できなかった。

「い、のち……?」

「はい」

「……兄様? 何を言って……命を、以てって、どういうことです……?」

「そのままの意味だよ、翠憐」

 ようやく翠憐を振り返り、優しげに、愛おしげに、深く、深く微笑んだ。そして音璃呪は緋誓に視線を戻し、再度同じ意味の言葉を並べた。穏やかな笑みを、絶やすことなく。




「死んでください、緋誓さん」




 呪いを纏いし鬼守は、復讐の意を持ち蘇る。それは己を失った狂鬼そのもの。(わざわい)招きし呪の狂鬼が降臨する――…。



読んでくださった方、ありがとうございます!!

こうしんペースは不規則ですが、まだまだ続く予定ですので、どうぞよろしくお願いします。

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