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鬼神 -onigami-  作者: 紫月
第2章:眠り鬼
7/8

*緋と碧の秘めたる心*

更新が遅れてしまい、すいません(汗)

今回も楽しんでいただけると幸いです(笑)



「私が……おぞましいか……?」

 緋誓(ひちか)は、自らを嘲笑(あざわら)うような声音で、愁杜(しゅうと)に問い掛けた。その問いに、愁杜は自嘲(じちょう)気味に答えた。

「いや、そんなことはない。それがお前の……鬼神(おにがみ)運命(さだめ)であるなら。……どうしたって拒めない運命だってあるさ。俺にも……な」

「……?」

 (しば)しの沈黙の後、口を開いたのは緋誓だった。

「……愁杜……」

「ん?」

「お前なら、わかるかな……」

「何?」

 (わず)かに考えてから、緋誓は言葉を口にした。

「……ある人を、捜しているんだ」

「ある人?」

「ああ。(かつ)て、私の母さまを(ほふ)った人だ。恐らく鬼狩(おにがり)だったと思う。(あお)外套(がいとう)を羽織った……あれは男性だっただろうか……」

「っ!!」

 緋誓の言葉に、愁杜は少なからず驚き、息を詰めた。なおも遠い瞳をして話す緋誓に、愁杜は静かに問い掛けた。

「……今でも、そいつを捜してる……のか?」

「……ああ……。多分その人も私と同じなんだ。何か苦しみを抱えた声音だった」

 愁杜はその瞳に苦しみとも哀しみともつかず、また怒りともつかない色を(にじ)ませ、強く唇を噛んでいた。しかし、未だ過去に思いを()せ続ける緋誓は、そんな愁杜の様子に気付くはずもなく。

「だから私は―…」

 言葉を続け、振り返ろうとした緋誓を、愁杜は背後から抱き締めた。

「! お、おい、愁杜っ」

 突然抱き締められ、驚きと恥ずかしさに困惑する緋誓。逃れようにも動けば動く程に緋誓を抱く腕の力は強くなり、身動きひとつ取れなくなってしまう。しかし、

「愁杜?」

「……っ」

 強く緋誓を抱き締めているはずの愁杜の腕が、か細くけれどはっきりと見て取れるほどに、震えていた。緋誓はそっと、強く自分を抱き締める腕にその手を重ねた。

「どうしたんだ、愁杜? 今度はお前が震えているぞ……?」

 重ねた手をゆっくりと動かし、愁杜の腕を優しく撫でる。

「……ごめん……ごめん、緋誓……。ごめん……」

「なぜお前が謝るんだ? 同じ鬼狩がしたこととは言え、命じたのはお前じゃないだろう……」

 緋誓の手は、(なだ)めるように、慈しむように愁杜の腕を撫で続ける。

「……ごめん緋誓……。ごめん……。俺の……俺達のせいで……っ」

「その人を……知っているのか……?」

「っ!」

 愁杜の腕に力が籠もる。だがそれは、緋誓に痛みを与えるものではなく、苦しみや哀しみを感じさせるものだった。

「お前に近しい存在か、或いは大切な存在か……」

「……」

「そうだな……うん。何も言わなくてもいいよ。このままで落ち着くのならずっとこうしてるから。だから、しっかりしろ……な?」

「……ああ……」

 華奢(きゃしゃ)な割に力強い愁杜の腕に抱かれながら、緋誓は自らの考えに意識を向けたのだった。




 どれだけの時間が経ったのだろう。やがて落ち着きを取り戻した愁杜が、緋誓の身体を解放した。

「大丈夫か?」

 愁杜の頬に手を添え、緋誓は愁杜を気遣った。

「もう大丈夫だ。悪かったな」

 緋誓の問いに、愁杜は微笑んで答えた。愁杜の頬に手を添えたまま、緋誓は真剣な瞳をし、覚悟を決めた。

「……これから、私はまた鬼を屠ることになるだろう。鬼神として、望まぬ死を与え続けるのだろう」

 愁杜は突然の緋誓の宣告にやや驚き、しかしそれを受け入れた。そして、緋誓に問い掛けた。

「それは嫌か?」

「ああ、嫌だ」

「だったら……お前が望む限り、俺が鬼を狩ってやる。お前の代わりに背負ってやる」

 愁杜は自らの頬にある緋誓の手に自分のそれを重ねて、真っ直ぐに緋誓を見つめた。

「お前だけが、誰かに死を与える訳じゃない。お前の意思と、俺のこの腕と武器が与えるんだ。……いいな?」

「……ああ……。すまない」

 2人は共に微笑み、新たな哀しみへと足を踏み出す。その哀しみの始まりは……。




「――失礼します」




 世界は軋み、悲鳴を上げる。死したる者が蘇り、世界に歪みを(もたら)して――…。



読んでいただき、ありがとうございます。

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