*緋と碧の秘めたる心*
更新が遅れてしまい、すいません(汗)
今回も楽しんでいただけると幸いです(笑)
「私が……おぞましいか……?」
緋誓は、自らを嘲笑うような声音で、愁杜に問い掛けた。その問いに、愁杜は自嘲気味に答えた。
「いや、そんなことはない。それがお前の……鬼神の運命であるなら。……どうしたって拒めない運命だってあるさ。俺にも……な」
「……?」
暫しの沈黙の後、口を開いたのは緋誓だった。
「……愁杜……」
「ん?」
「お前なら、わかるかな……」
「何?」
僅かに考えてから、緋誓は言葉を口にした。
「……ある人を、捜しているんだ」
「ある人?」
「ああ。嘗て、私の母さまを屠った人だ。恐らく鬼狩だったと思う。碧の外套を羽織った……あれは男性だっただろうか……」
「っ!!」
緋誓の言葉に、愁杜は少なからず驚き、息を詰めた。なおも遠い瞳をして話す緋誓に、愁杜は静かに問い掛けた。
「……今でも、そいつを捜してる……のか?」
「……ああ……。多分その人も私と同じなんだ。何か苦しみを抱えた声音だった」
愁杜はその瞳に苦しみとも哀しみともつかず、また怒りともつかない色を滲ませ、強く唇を噛んでいた。しかし、未だ過去に思いを馳せ続ける緋誓は、そんな愁杜の様子に気付くはずもなく。
「だから私は―…」
言葉を続け、振り返ろうとした緋誓を、愁杜は背後から抱き締めた。
「! お、おい、愁杜っ」
突然抱き締められ、驚きと恥ずかしさに困惑する緋誓。逃れようにも動けば動く程に緋誓を抱く腕の力は強くなり、身動きひとつ取れなくなってしまう。しかし、
「愁杜?」
「……っ」
強く緋誓を抱き締めているはずの愁杜の腕が、か細くけれどはっきりと見て取れるほどに、震えていた。緋誓はそっと、強く自分を抱き締める腕にその手を重ねた。
「どうしたんだ、愁杜? 今度はお前が震えているぞ……?」
重ねた手をゆっくりと動かし、愁杜の腕を優しく撫でる。
「……ごめん……ごめん、緋誓……。ごめん……」
「なぜお前が謝るんだ? 同じ鬼狩がしたこととは言え、命じたのはお前じゃないだろう……」
緋誓の手は、宥めるように、慈しむように愁杜の腕を撫で続ける。
「……ごめん緋誓……。ごめん……。俺の……俺達のせいで……っ」
「その人を……知っているのか……?」
「っ!」
愁杜の腕に力が籠もる。だがそれは、緋誓に痛みを与えるものではなく、苦しみや哀しみを感じさせるものだった。
「お前に近しい存在か、或いは大切な存在か……」
「……」
「そうだな……うん。何も言わなくてもいいよ。このままで落ち着くのならずっとこうしてるから。だから、しっかりしろ……な?」
「……ああ……」
華奢な割に力強い愁杜の腕に抱かれながら、緋誓は自らの考えに意識を向けたのだった。
どれだけの時間が経ったのだろう。やがて落ち着きを取り戻した愁杜が、緋誓の身体を解放した。
「大丈夫か?」
愁杜の頬に手を添え、緋誓は愁杜を気遣った。
「もう大丈夫だ。悪かったな」
緋誓の問いに、愁杜は微笑んで答えた。愁杜の頬に手を添えたまま、緋誓は真剣な瞳をし、覚悟を決めた。
「……これから、私はまた鬼を屠ることになるだろう。鬼神として、望まぬ死を与え続けるのだろう」
愁杜は突然の緋誓の宣告にやや驚き、しかしそれを受け入れた。そして、緋誓に問い掛けた。
「それは嫌か?」
「ああ、嫌だ」
「だったら……お前が望む限り、俺が鬼を狩ってやる。お前の代わりに背負ってやる」
愁杜は自らの頬にある緋誓の手に自分のそれを重ねて、真っ直ぐに緋誓を見つめた。
「お前だけが、誰かに死を与える訳じゃない。お前の意思と、俺のこの腕と武器が与えるんだ。……いいな?」
「……ああ……。すまない」
2人は共に微笑み、新たな哀しみへと足を踏み出す。その哀しみの始まりは……。
「――失礼します」
世界は軋み、悲鳴を上げる。死したる者が蘇り、世界に歪みを齎して――…。
読んでいただき、ありがとうございます。