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鬼神 -onigami-  作者: 紫月
第2章:眠り鬼
6/8

*緋の鬼神と呪の鬼守*

遠く昔、幼き日の出来事。鬼神の運命の始まりの日。




 6歳の頃、鬼神(おにがみ)として人間に()らわれた緋誓(ひちか)は12歳となり、鬼神としての能力(ちから)(すで)に完全なる物となっていた。しかしそれは、緋誓の心を()め上げるほどの苦痛を(ともな)う物だった。

『……緋誓さん……』

『!!』

 遠くの方で自分を呼ぶ声に、緋誓はビクリと身体を震わせた。

『緋誓さん、こんな所に……』

『ぃやあ!!』

『!?』

 声の主が緋誓の肩に触れた途端(とたん)、緋誓は悲鳴のごとき声を上げ、その手を振り払った。

『お、落ち着いて下さい、緋誓さん! 私です。音璃呪(ねりじゅ)ですよ!』

『音……璃呪……?』

『ええ、音璃呪です。(おどろ)かせてしまったようで、申し訳ありません。お怪我(けが)はありませんか?』

 音璃呪は緋誓を気遣(きづか)うように、(おだ)やかな声音(こわね)で言った。……が。

『……ぅ……わぁぁぁぁぁあん!』

『!?』

 突然、まるで幼子(おさなご)のように泣き出してしまった緋誓。音璃呪は予期(よき)せぬ事にたじろいだ。

『えっちょっ! 緋誓さん!? どうしたんです!? どこかお怪我でも―…』

『音璃呪ごめんなさいぃー!!!』

 (あわ)てる音璃呪をよそに、緋誓は泣きながら謝った。

『? どうしたんです? 私は怒ってなどいませんよ……?』

『ごめんなさいぃー! 音璃呪も翠憐(すいれん)も……ごめんなさいー!!』

『……緋誓、さん……?』

 さすがに、音璃呪もおかしく思った。悲鳴を上げ、手を振り払った事を謝るなら、おかしな事は無い。しかし、それに“翠憐”は関係無い。

『ごめんなさいー…!』

 (いま)だ泣きながら言い続ける緋誓に、音璃呪は問い掛けた。

『……緋誓さん。間違っていたら、すみません。緋誓さんの(おっしゃ)る“ごめんなさい”は、今のことではなく“鬼守(おにもり)”の事ですか……?』

『……ッ!?』

 “鬼守”と聞いた途端、緋誓は身体を震わせ謝る事を止めた。

『やはり……。まあ、そうでもなければ、我が妹は関係ありませんからね』

『音璃呪は、知ってたの……?』

『当の“鬼守”の片割(かたわ)れですから』

 緋誓の問いに、少しおどけて答える音璃呪。しかしそれは、逆に緋誓を悲しませることとなった。

『わ……たし……』

 その悲しみは、最悪のこたえを導き出す。

『……して……』

 低く(かす)れた声が放たれた。

『え……』

『私を……殺して……ッ!!』

『な……にを言っているんですか、緋誓さん! (みずか)らを殺せだなんて―…』

『だって!』

 音璃呪の叱責(しっせき)も、今の緋誓には届かない。悲鳴にも似た悲痛な声音で、緋誓は音璃呪に訴えた。

『だって私さえ……鬼神さえいなくなれば、鬼守なんて役目はなくなる! そうすれば……あんな“禍事(まがごと)”は起こらない……!! そうでしょう!?』

 鬼神として生まれ、鬼神として育てられた緋誓は、既に全てを知る時を(むか)えていたのだ。1人の鬼神に付くことが(ゆる)される鬼守が、たった1人であることを。

『緋誓さんが気に病む必要はありませんよ。どうせ私は、遅かれ早かれ()られる存在なのですから』

『それも私がいるからよ……』

 その事実が、音璃呪か翠憐、兄妹どちらかの死を意味することも。そして、その死を(くだ)すのが、鬼神である自らだということも。

『緋誓さん、翠憐はまだ幼い。(ゆえ)に死を下すのならば、どうぞこの私、音璃呪にお下しください……』

 緋誓の前に(ひざまづ)き、自らの死を()う音璃呪。差し出される手には、鬼を(めっ)する対鬼刃器(ついきじんき)(にぎ)られていた。鬼神として、絶対に拒むことの出来ない願い。緋誓はゆっくりと、静かに対鬼刃器へと手を()ばす。

『緋誓さん、あなたは何も悪くない。悪いのは、我ら鬼を利用する“人間”です……』

『音璃呪……あなたの命を(かて)とすること、あなたの妹を……翠憐を利用することを、赦して…』

 緋誓は対鬼刃器を振り上げた。真っ直ぐに、音璃呪を見つめて。大切な人を(ほふ)る苦しみと痛みに耐えながら。“鬼神”として、その“仕事”に向き合った。

『我、今鬼神として、不要な鬼守であるそなたを(ほうむ)る。言伝(ことづて)があれば聞こう』

 頭上高くに(かか)げた対鬼刃器が、日の光を(にぶ)く反射する。本当はかけてはならない最期(さいご)(なさ)け。それが緋誓の、せめてもの(つぐな)いであった。

『……翠憐を、頼みます……』

 たった一言の言葉だった。けれど、それが全てだった。

 緋誓は対鬼刃器を振り下ろし、音璃呪は最期の微笑(ほほえ)みを見せた。



 初めて自らの手で誰かを屠る。その瞬間、緋誓の辿(たど)る“()宿命(しゅくめい)”が始まった……。



読んでくださってありがとうございます。まだまだ続きますので、これからも読んでやってください。

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