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鬼神 -onigami-  作者: 紫月
第1章:鬼神と鬼狩
3/8

*朱の始まりと碧の影*

穏やかに過ごせるはずだった午前が一転険悪な雰囲気に……。皇帝・皇后とともに現れたのは--…。




 (なご)やかな朝食を終え、予定では執務(しつむ)に取り掛かっておらねばならぬ時。翠憐(すいれん)(ともな)った緋誓(ひちか)は不機嫌の()只中(ただなか)にいた。何故なら、予定より(はる)かに早く、皇帝(こうてい)皇后(こうごう)両陛下の来訪(らいほう)があったからだ。

「……おい、湖子(れいね)

 湖子と呼ばれた侍女(じじょ)は、特に緋誓の機嫌を気にするわけでもなく応えた。

「はい。如何(いかが)(いた)しましたか、鬼神様?」

「……今日の予定は?」

「……? 本日の貴女(あなた)様のご予定は皇帝陛下、並びに皇后陛下とのご対談でございますが……」

 緋誓の問いに『何を今更(いまさら)』と言った(てい)で答えを返した。が、それは火に油を注ぐかの(ごと)く緋誓の怒りに火を点けた。

「違う、そんなことを()いたんじゃない! 今日の私の……私と翠憐の予定を分刻(ふんきざ)みで読み上げろ!!」

「……ッ!」

 (みずか)らの失態により激高(げっこう)に達した緋誓の怒声(どせい)に、侍女はその身を(すく)め緋誓と翠憐の予定を分刻みで記した手帳を取り出し読み始めた。

「み、明朝(みょうちょう)より御政務、及び御執務。午前7時30分より朝食。午前8時には執務に戻り、午前10時40分より皇帝陛下、並びに皇后陛下との対談。その後、罪人達のうちより貴女様が出所可能との判断を下した者達を連れ、城下の町々への視察に向かうご予定にございます……!!」

 侍女は一気にまくし立てる様に緋誓達の予定を読み上げた。

「……はぁ……。では、今は一体何時なんだ?」

 緋誓はこれ以上侍女を(おび)えさせぬように少し口調(くちょう)(やわ)らげた。

「現在は―…」

「もうよいではありませぬか、緋誓殿」

 と、突然皇帝が話に割り込んできた。緋誓の内に二つの感情が生まれた。それは、(うと)ましさと嫌悪(けんお)感だった。

「……予定外の来訪は受け入れない、と何度申し上げたらご理解い頂けるのでしょうねぇ、シェルディランス皇国皇帝陛下殿? それに、貴方がたには我が名を口にされたくありません」

「まあそう言わず」

「そうですよ。もう少し(わたくし)共に心を開いて下さってもよいではありませんか……」

「……はぁ……」

 緋誓は嫌悪感も(あら)わにため息をつき、隣でただ座っている翠憐に事を説明した。そしてそれから、皇帝、皇后両陛下の用件を聞き出した。

「それで? 一体(いったい)何用(なによう)此方(こちら)に? 普段は足を踏み入れることは(おろ)か、近寄ることさえなさらぬと言うに……」

 緋誓のあまりと言えばあまりの言いように、皇后は(まゆ)(ひそ)めた。が、何を言うでもなく、ただ淡々と来訪の目的を告げた。

人間(ひと)の言葉を解さぬ鬼1人が従者では何かと不便(ふべん)であろうと思うてな。鬼狩ではあるが、そなたと気の合いそうな男を連れてきた」

 皇后の言葉に、緋誓の中で不安と(わず)かな恐怖が生まれた。

「鬼狩……ですか……」

「お、に、がリ……?」

「<……人間に害をなす鬼を狩る存在だよ……>」

「<……害をなす鬼……。傷つける鬼?>」

「<あぁ……>」

 緋誓と翠憐が話す間に、皇后は(あお)外套(がいとう)を羽織る者を呼んだ。

「緋誓殿。彼が私共の用意した人間ですよ」

「そなたの従者となるに好きになさればよい。()るなり焼くなり殺すなり……の」

 ホホホ、と上品に笑う皇后の瞳は、嫌な光を帯びている。

斐坐覇(いざは)愁杜(しゅうと)と申します。以後お見知り置きのほどを」

「見知るも何も……お前は従者となるのであろう? (よろ)しく……と言うのが妥当(だとい)であろう」

「では……以後、宜しくお願い致します、緋誓様」

「ああ、宜しく」

 緋誓と愁杜のやり取りに満足したのか皇帝、皇后両陛下は早々に館を()した。(のち)にシェルディランス皇国全土に驚愕(きょうがく)を与える2人を残して。




 決して(まじ)わらぬはずの歯車が、()め込まれた“私情”という名の歯車を(かい)し交わった。(かつ)て無い狂いと(ゆが)みを生み出す歯車が今、廻り始めた。



今回も最後まで読んでくださってありがとうございます。今後も読み続けていただきたいです。評価、感想等頂けると嬉しいです。

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