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鬼神 -onigami-  作者: 紫月
序章:緋色の誓い
1/8

*朱き海に咲く紅き花*

鬼神・緋誓の失われた母との時間。

 これは、鬼神(おにがみ)の身に生まれた1人の少女と1人の鬼狩(おにがり)の少年の、辛く、(かな)しい物語である。


  * * *


『かあさまー』

 幼い少女が、真紅の花を持ち、石畳の道を()けて行く。

『みてください、かあさま。ヒサナギのおはながさきました』

 少女は嬉しそうに笑いながら、少女の母の待つ家の扉を開いた。

『……っ!』

 扉を開いた少女の鼻腔(びこう)()びた鉄の様な(にお)いが刺激した。

『かあ……さま……? かあさま、どこですか……?』

 少女の中に、不安がうまれる。不意に少女の脳裏(のうり)に浮かぶ、赤。ヒサナギを持つ手に力が()もる。

『………………』

 少女は進む。少女の家を、静かに進む。《(ひつぎ)の間》へと、ただ真っ直ぐに。

『……“(これ)より先、我が()に映る中に、涙の溢るる事なかれ”……』

 真っ直ぐに廊下を進む少女の瞳には涙が浮かび、その(くちびる)呪文(じゅもん)(つむ)ぐ。

『……“我この扉を開きしとき、(わざわ)いの無きことを”……』

 (いな)、それは少女の祈りだった。()かれたように紡がれる言葉は、幼き少女のものではなく……。

『かあさま……どうかごぶじで……』

 そう祈りながら、少女は扉に手をかけた。少女の胸を押し潰さんばかりの不安を無きものとして。

『――…っ』

 だが、少女の祈りも(むな)しきもので。

『……うそ……です……』

 強く(にぎ)()められていたはずのヒサナギの花々が、少女の手を(すべ)り、バサリと地に落ちた。

『……そんな……どうして……?』

 そこには、ヒサナギの花より(なお)深く、(あざ)やかな朱い海が広がり、その朱い海に身を横たえる母の姿。そして-―…。

『……おまえが……。……おまえがわたしのかあさまを……っ!』

 そして、深い(あお)外套(がいとう)羽織(はお)り、そのフードを目深(まぶか)(かぶ)った1人の人影。外套から(のぞ)くその手は、母の横たわる海と同じ朱に染まっていた。

『……貴女(あなた)が、緋誓ひちか様……斐坐波いざなみ家の姫君。……我々が探し続けてきたあの……』

 少女へと振り返った人影から発せられた声は低く、明らかに女性ではない。

 その姿に、声に、少女の心が引っかかりを覚えた。

『……おまえはだれ?』

 少女は問うた。ただ静かに人影を見据(みす)えて。

『とても(おさな)き小さな神よ……。これは貴女の定めです』

 人影は答えた。だがそれは、少女の(ほっ)する答えではなかった。

『……おまえは、だれ……?』

 少女は再度、人影に問うた。

『私は……』

 少女の中で警鐘(けいしょう)が鳴る。この答えを聞いてはならないと。少女の内なる何かが、警告(けいこく)する。

『私は、お……』

『おい! 早くしろ!!』

 人影が、少女の問いに答えようとしたとき、家の外から怒鳴(どな)り声が聞こえた。そして―-…。

『悪ぃな、神さんよ。ちぃと眠っててくれや』

 背後から聞こえたその声を最後に、少女の意識は途絶え、闇に()まれた。




 これが、鬼神・斐坐波緋誓の辛く哀しい、世にも残酷(ざんこく)な記憶の……全ての始まりである。



お付き合い頂きありがとうございました。

まだまだ続きますので、どうぞ見てやってください。評価、感想等頂けると嬉しいです。

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