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奇病に罹りまして

「よく聞いてくださいね」


 医師の言葉に喉がゴクリとなる。考えうる最悪の事態を想定してしまい不安な心持になる。


「……あなたの、病名は…………」


「……TS病です」


「ええーーーーーーー!!!!!!!」




 ──────────────────────




 今、高校生になるための入学式の最中。ずらっと並んだ真新しい制服を着こなし、つまらない校長先生の話を聞いている。欠伸をしている生徒もちらほら見かけるし、寝ている生徒もちらほら。そろそろ話しが終わりそうな頃、そんなことを思いながら俺こと才木理(さいきまこと)は、欠伸をしながら校長先生の話を聞き流す。


 そのままずーっとプログラムが進んでいく入学式だったが、突如頭痛と眩暈に襲われ、体を支えられず、地面に倒れてしまった。




 ──────────────────────




 目を覚ますと、白い天井と薬品の匂いが漂っている病室で寝ていることに気付いた。体を起こし、固まった体をほぐすため伸びをするが、自分の手が見慣れた手がちっちゃく……


「うわっ! なんだこの手! てか腕も足も細くなってるし!」


 い、いったん鏡、鏡見よう……うん


 一通り、変わった自分の体に驚いていると、病室の扉が開いた。


「あ、才木理さん。目覚めたんですね。良かったです」


 ナース服を着こなしているので、見た所看護師の方のよう。笑顔を浮かべているので、自分の様態の回復を喜んでくれているようだ。


「それとあまりはしゃぎ過ぎないでくださいね。外まで声が聞こえてましたから」

「あ、はい、すみません……自分が自分じゃ無くなっていたのでつい……」

「まぁ、そこら辺は仕方ないですね。後ほど、そのことについても説明するのでしばらくはベッドで休んでいてください。ご両親も此方にご来院しているので面会の準備を始めたいのですがよろしいでしょうか?」

「は、はい大丈夫です……」

「了解いたしました。では後ほど」


 パタンという音と共に扉が閉まり、病室には自分一人だけになる。


 突然のことでちょっと気が動転してしまったけど、改めて自分の身体、女だよな。確か入学式の途中、急に頭が痛くなってバランスが取れなくなって……うっまだ頭が痛いな。ちょっと寝て休もう。




 ──────────────────────




 眠りから覚めると部屋の外から聞きなれた声がする、丁度自分の両親が来たのだろう。でも来てくれるのは嬉しいが、ちょっと癖が強い親なんだよな。自分が女になって喜んでるんじゃなかろうか。ずっと昔から女の子欲しいって言っていたし。子供のころから何かと女装させようとして来てたしな。う、嫌な思い出が……


 そんなことを思いながら、待っていると、扉から見慣れた二人が現れた。二人は俺を一瞥すると、一瞬固まってビックリしたのか目がまん丸だ。なんか面白いな。


「あ、えっとや、やあ……」


 ぎこちなく俺が言う。


「「ま、理……めちゃくちゃ美少女になってるじゃない「か」!」」


 ……やっぱりな。そう来ると思ったよ。


「そこ第一声それ!?」

「だって!」

「だっても何もあるか!」


 思わず声を張り上げると、母は嬉しそうに頬を押さえ、父は腕を組んでうんうんと何度も頷いている。


「ほら見なさいあなた。私の言った通り、理は女の子の方が映えるって」

「いやいや、俺の遺伝子が良かったんだな」

「喧嘩するな! てか俺の話を聞け!」


 ベッドの上で叫ぶと、二人はようやく我に返ったようにこちらを見た。


「……それで、体は大丈夫なの?」

「頭とか、痛くない?」


 その問いかけに、少しだけ胸の奥が温かくなる。なんだかんだ言っても、ちゃんと心配はしてくれてるらしい。


「頭痛は少しあるけど、動けないほどじゃない。ただ……」

「ただ?」


 俺は自分の細い腕を持ち上げて、二人に見せつける。


「見ての通り、性別が変わってるんだけど!? これについて何か知らない?」


 二人は顔を見合わせ、そしてなぜか同時に視線を逸らした。


「……あー」

「……えっとね」


 嫌な予感しかしない。


「何か知ってるんだな?」

「理、落ち着いて聞いてね?」


 そのタイミングを見計らったかのように、病室の扉がノックされ、白衣の医師が入ってきた。


「ご家族の方も揃っているようですね。では改めて説明します」


 医師はカルテを確認しながら、淡々と、しかし慎重に言葉を選んで口を開く。


「よく聞いてくださいね」


 医師の言葉に喉がゴクリとなる。考えうる最悪の事態を想定してしまい不安な心持になる。


「……あなたの、病名は…………」


「……TS病です」


「ええーーーーーーー!!!!!!!」


 しばらく驚いていた。そりゃあそうだ、急に性別が変わったんだ、そんくらい許してくれ。


「TS病は、思春期前後に極めて稀に発症する症例で、肉体的性別が急激に反転・再構成される病気です」

「再構成……?」

「簡単に言えば、体が()()()として作り直される、ということです」


 頭が追いつかない。


「じゃあ、元には……」

「現時点では、戻る症例は確認されていません」


 ズシン、と重たい言葉が胸に落ちる。


「生活に支障は?」

「身体能力は平均的な女子高校生相当です。記憶や人格に影響はありません」


 ……人格は俺のまま、か。そこは幸いした。いきなり女子の身振りをしろとか言われてもできないし、少しは優遇されるだろう。


「まぁでもこの世界ならこんな()()()()()か」


 そうだ、この世界は様々な奇病が流行っている。このTS病だってその一種。しかもこの奇病、全部ファンタジーのようなものしかない。尻尾生えたり、エルフみたいに耳が長くなって寿命が延びたり。まぁ様々だ。全世界で約30%が何らかの奇病に罹っており、奇病人専用の学校などがあるらしい。恐らく自分はそこに編入という形になるだろう。


「あ、理ちなみに俺はTS病に昔罹ったことがあるんだ。今まで秘密にしていたんだが、ちょうどいい機会だしな」


 衝撃の事実にたじろぐ。


「え、は、はい???!!」


「もう何十年も前になるわね~懐かしいわ~」


「父さんと母さんなもともと幼馴染で親友だったんだ。だけど高校に上がったら急にTS病に罹ってな、そしたら男になってたってわけだ」

「まぁ元々女同士でもお互い恋愛的な意味で好きだったからな」


「待って待って待って、急にそんなこと言われてもどう反応したらいいのか分からない」


 頭の処理が追い付かない。なんだあれか?父さんだと思ってたけど元女子の父さんなのか。しかも女だった時からも母さんのことが好きだったと……はい?


「そのことについてなんですが、一つ申し上げても?」


 医師からの言葉に静かになり、息を吞んだ。誰もしゃべらなくなったころ、医師は喉からひねり出すように言う。


「…実はこの病気は、遺伝的要因が強いんです」

「なので理君のTS病は遺伝によるものだと断言できます」


 その瞬間、全てを悟った。


「……お前らのせいかぁぁぁぁぁ!!!」


 病室に俺の叫び声が響き渡り、廊下の向こうから「静かにしてください!」と看護師さんの声が飛んできた。



 色々あった後、医師から今後について聞く。


「とりあえず、三日間くらい安静とTS病ということで奇病人専用の学校がありますのでそちらに編入となります」

「それらの手続きも市役所で行うようにお願いします。こちら資料になっているのでそれを見てお願いします。では失礼します」


 医師が退出した後の病室の空気は決していいとは言えなかった。


 はぁ、これからどうしよ。女として生活すんのかよ……


こうして俺――才木理の、女の子としての高校生活が、強制的に幕を開けたのだった。


……絶対、平穏には終わらない気がする



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