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異世界転生した俺、婚約破棄された氷姫の仮恋人になっただけなのに、なぜか本気で好かれてる気がするけど本人が絶対に認めない  作者: 御上常陸介寛浩


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10/20

第10話 仮恋人は、思ったより息が合う

人間関係にも、戦い方がある。


 真正面からぶつかるのが正しい時もあれば、そうでない時もある。前世の会社では、だいたい後者だった。正論だけで動く人間は少なく、動くとしても、その正論をいつどこで誰の前に出すかで結果が変わる。会議室で言うべきことと、廊下で根回しするべきことと、メールでわざと残しておくべきことは、全部違う。


 貴族社会も、結局それに近いのかもしれない。


 違うのは、服装と装飾が豪華で、言葉づかいが妙に優雅で、でも腹の底のいやらしさは大して変わらないところだ。


 翌日、俺はそのことを朝一番で痛感していた。


 馬車で登校する間、セレスティアもフィオナも、紙の件についてそれぞれ動いてくれていたらしい。フィオナは昨日のうちに、どの辺りの生徒が最初にあの紙を持っていたかをざっくり掴んでいたし、セレスティアはルーヴェン家側で紙質と筆記具の流通を調べるようミレーユへ指示を出していた。


 仕事が早い。


 そして俺だけが、少し置いていかれている気分になる。


 もちろん、ただ待っていたわけではない。昨日の紙の文面を頭の中で何度も反芻し、どこに綻びがあるかを考え続けていた。だが俺の手札は少ない。相手は学園内の空気を握りつつ、紙という形で印象を配ってくる。なら、こちらは“見えるところ”で崩すしかない。


 そういう話を、朝の馬車の中でセレスティアにした。


「つまり」

 セレスティアが静かに言う。

「あなたは、“噂そのもの”を追うより、“それを支えている見え方”を崩したいのね」

「そうです」

「具体的には?」

「冷酷な女に見せたいなら、その逆を見せる」

「簡単に言うわね」

「簡単じゃないのは分かってます」


 俺は正直に言った。


「でも、紙の内容を一つ一つ否定しても、多分きりがないです。“そんなことはありません”って言い続けるほど、向こうの土俵に乗ることになる」

「そうね」

「だったら、まず周囲の認識をずらしたい」

「認識をずらす」

「はい。セレスティア様が“ただ冷たいだけの人”じゃないって、見える形で出していく」


 セレスティアは数秒、何も言わなかった。


 馬車の中に、車輪の静かな振動だけが満ちる。


「……難しいわよ」

 やがて彼女は言う。

「私が急に愛想よく振る舞えば、それはそれで不自然だもの」

「そこは無理にやらなくていいです」

「では?」

「いつも通りでいいです。ただ、“冷たい”と“理性的”の境目を、こっちが先に見せればいい」


 そこでセレスティアの青い瞳が、少しだけ細くなった。


「続けて」

「例えば、噂を流してる相手が何か仕掛けてきた時」

「ええ」

「感情で返さず、逃げ道を残さず、でも上品に追い詰める」

「それは私の得意分野ね」

「はい。だからそこを使います」

「使います、って」

「あと俺は、その場で相手の言葉の矛盾とか、記録として残る部分を拾います」

「……なるほど」


 セレスティアが小さく頷いた。


「あなた、そういうことを考える時は少しまともになるのね」

「少し、ですか」

「少しよ」

「ひどい」

「でも役には立つわ」

「今ちょっと褒めました?」

「勘違いしないで」

「はいはい」


 出た。


 だが、この会話自体は悪くなかった。


 俺たちは今、ようやく“仮恋人として並ぶ”ことの中身を揃え始めている。ただ一緒に歩くだけではなく、どう見せるか、どう崩されるか、どう返すか。それを共有できるだけで、昨日までの行き当たりばったり感はかなり薄くなる。


 馬車が学園へ着く頃には、俺の頭の中も少し整理されていた。


 そして、その“見えるところで崩す”という方針は、思った以上に早く試されることになった。


 午前中の授業が終わったあと、教室には小さなざわめきが残っていた。紙の件は昨日ほど露骨ではないが、完全に消えたわけでもない。むしろ、一度流れたものが静かに染み込んでいる感じだ。


 誰かが面と向かって何か言うわけではない。だが、距離の取り方、視線の向け方、会話が止まるタイミング。そういうものが、全部少しずつ変わっている。


 その中で、昼前の短い休み時間だった。


「ルーヴェン様」


 高めの、しかしよく通る声が教室に響いた。


 見ると、昨日も取り巻きを連れていた上級貴族の女子生徒が二人、またこちらへ来ていた。今日の装いも整っていて、笑顔も柔らかい。柔らかいが、狙いははっきりしている。


 周囲の視線が集まる。いい加減慣れたいが、まだ無理だ。


 セレスティアは席に座ったまま、静かに顔を上げた。


「何かしら」

「昨日は失礼いたしましたわ」

 一人が言う。

「ですが、やはり気になってしまって」

「そう」

「使用人の件、本当に誤解なんですの?」

「誤解でない、と判断した根拠は?」

 セレスティアが即座に返す。


 空気がぴんと張る。


 この返し方だ。感情ではなく、問い返し。しかも真正面。


 女子生徒の方も怯まない。


「だって、そういう話を知っている方が何人も」

「何人?」

「え……」

「名前は?」

「それは」

「言えないの?」

 セレスティアの声は静かだ。静かなのに、相手の逃げ道を一歩ずつ塞いでいく。


 女子生徒は少しだけ表情を引きつらせた。昨日までなら“氷姫様怖い”で済んでいた反応だろう。だが今日は違う。俺たちはここを“冷酷”ではなく“理性的に追い込んでいる”ように見せたい。


 だから俺は、そこで口を挟んだ。


「名前が出せないなら、“何人も”って表現は証明にならないですよ」

 教室の何人かがこちらを見る。

「え?」

 女子生徒が目を瞬く。

「人づてに聞いた話って、途中で形変わりますし。しかもそれをさらに“何人も言ってた”にすると、どこが元なのか分からなくなるでしょう」

「でも……」

「それに、昨日から出てる紙もそうですけど、“みんながそう言ってる”って、一番便利な曖昧さじゃないですか」


 女子生徒の顔がこわばる。


 その時点で、こっちは半分勝ったようなものだった。


 もちろん彼女自身が紙を書いたとは限らない。だが、少なくとも今この場でその論理を使おうとしていた。なら、その“便利さ”を教室の前で言語化してしまえばいい。


 セレスティアが続ける。


「私は、事実なら受け止めるわ」

 その声は澄んでいた。

「けれど、出所も曖昧な噂に合わせて私の人格を決められるつもりはない」


 その言葉が落ちた瞬間、教室の空気が少し変わるのが分かった。


 冷たさより先に、筋が通って見える。


 昨日までなら“氷姫がまた冷たく切った”で終わったかもしれない。だが今日は違う。俺が先に“曖昧な噂の構造”を口にしていたからだ。セレスティアの返しが、単なる高圧ではなく、当然の反問として立つ。


 女子生徒のもう一人が、慌てたように口を開く。


「わたくしただ、心配で」

「心配ならなおさら、確かめもせずに広めるべきではないわ」

 セレスティアが言う。

「そうではなくて?」

「……」


 今度こそ、二人は返せなかった。


 少し離れたところでフィオナが立っていて、面白そうに、でも少しだけ感心したようにこちらを見ているのが見えた。


 女子生徒たちは結局、「失礼しましたわ」と形だけの挨拶を残して引き下がった。


 完全に勝ったわけではない。だが、“氷姫は噂を力で黙らせた”という絵にはならなかったはずだ。むしろ、“噂の根拠を問われて何も答えられなかった側”が残る。


 教室内の視線が、ほんの少しだけ変わったのが分かった。


 俺は小さく息を吐く。


 すると隣から、極小の声が飛んできた。


「悪くなかったわ」

「どっちがですか」

「両方」

「おお」

「でも、調子に乗らないで」

「はい」

「返事だけはいいのね」

「よく言われます」


 セレスティアは小さく息をついただけだった。


 だが、昨日までより少しだけ“同じ側で動いている感覚”がある。

 それが、思った以上に心強かった。


 午後の演習でも、その感覚は続いた。


 今日の実技は、対人模擬戦に近い形での二人連携。昨日より一歩進んだ内容で、片方が囮になり、もう片方が制圧に回る形や、相手の魔力の癖を見て役割を変える柔軟性まで見られる。


 つまり、息が合っていないと普通にきつい。


 だが始まる前、俺たちは演習場の端で短く確認を済ませていた。


「相手が正面から押してきたら?」

 俺が訊く。

「あなたが一度受けて」

 セレスティアが答える。

「その間に私が左を切る」

「了解」

「逆に、後ろへ下がって引き込むなら」

「俺が足を止める」

「そう。その一瞬だけ作って」


 会話が短い。


 でも、昨日までみたいな手探りではない。俺もセレスティアも、自分が何をすべきかが分かってきている。


 演習の相手は、侯爵家の男子二人組だった。露骨な敵意はない。だが、昨日より“こっちを試したい”空気が強い。噂が広がった今、セレスティアとその仮恋人がどの程度かを見たいのだろう。


 教官の合図と同時に、相手の前衛が火球を散らしてきた。


「右」

 セレスティアの短い声。


 俺は咄嗟に障壁を右へ寄せ、左側をわずかに空ける。次の瞬間、その空いた軌道を縫うようにセレスティアの氷刃が走った。相手後衛が慌てて防ぐ。その防御の動きに前衛の火球操作がぶれる。


「今!」

「分かってるわ」


 俺が前へ出て、あえて一歩踏み込む。相手前衛がそちらへ意識を向けた瞬間、セレスティアの氷槍が低く滑った。結界判定が淡く光る。足元制圧。相手前衛の動きが止まる。


 そこで俺は初めて気づいた。


 噛み合ってる。


 しかも昨日よりずっと自然だ。


「下がって」

 セレスティア。

「はい」

 俺は一歩引く。

 その間に彼女が前へ出る。今度は役割が逆だ。彼女の前に薄い氷障壁が展開し、その後ろから俺は相手後衛の魔力の立ち上がりを見る。


 右肩がわずかに上がる。癖だ。


「右上、来ます!」

「ええ」


 ほとんど同時だった。セレスティアはすでにそこへ障壁角度を合わせている。弾いた反動で相手の中心がずれた瞬間、俺は小さな風弾を正面へ走らせる。威力は高くない。だが視界を切るには十分。そのわずかな隙へ、またセレスティアの氷が通る。


 判定、二つ目。


 演習場が少しどよめく。


 俺も内心で驚いていた。今の、かなり綺麗に入ったぞ。


「……思ったよりいけますね」

 俺が小声で言うと、

「思ったより、ではないわ」

 セレスティアが返す。

「私が合わせているもの」

「言い方」

「事実よ」

「それは否定しませんけど」


 だが、そのやり取りすら少し楽しかった。


 最終的に模擬戦は、こちらの優勢で終わった。


 圧勝ではない。セレスティアの能力が高いのは当然として、俺が飛び抜けて強いわけでもない。だが少なくとも、“身の程知らずの下級貴族が横にいるだけ”ではなかった。


 教官のリゼットが腕を組み、短く言う。


「ルーヴェン、アルヴェル。連携は悪くない。特にアルヴェル、昨日より判断が早い」

「ありがとうございます」

「ただし、前へ出る癖が少し不用意だ。勢いで突っ込むな」

「……善処します」

「しろ」


 教官にまで言われた。ひどい。いや正しい。


 隣でセレスティアがほんの少しだけ顔を背けた。笑ったのかもしれない。いや、気のせいかもしれないが。


 演習が終わって場が解けると、フィオナがやってきた。


「見た?」

 彼女はにやにやしている。

「見れば分かるでしょう」

 セレスティアが言う。

「いやあ、思ったよりちゃんと“恋人側の連携”してたなと思って」

「恋人側の連携って何ですか」

 俺が言う。

「なんかこう、目線と一言で通じてる感じ?」

「それは演習ですから」

「ふうん?」

「その“ふうん”やめてもらっていいですか」

「やめない」


 フィオナは楽しそうだ。


 だが、その直後に彼女は少しだけ真面目な顔になった。


「でも、今のはよかった。見てた子たち、多分ちょっと印象変わったと思う」

「どっちの?」

 俺が訊く。

「両方。セレスティア様がただ冷たいだけじゃなくて、状況に応じてきちんと見て動くこと。あと、エイトくんが本当に“いるだけ”じゃないこと」

「それはありがたい」

「でしょ?」


 その言葉に、俺は小さく息をついた。


 そう、今はそれでいい。


 噂の全部をひっくり返せなくても、“見ている人間の印象”を少しずつずらしていく。冷酷な女と、その隣で浮かれているだけの下級貴族――そんな安っぽい図を壊せれば、それだけで意味がある。


 セレスティアも同じことを考えたのか、静かに言った。


「今日の分は、悪くなかったわ」

「今日の分は、ってことは昨日までは?」

「聞かないで」

「はい」


 ぴしゃりと切られる。


 でも、その声にいつもの氷だけではない温度が混じっていた。


 演習後の廊下を並んで歩いていると、周囲の視線が昨日までと少し違うことに気づく。


 まだ多い。まだ刺さる。けれど、その中に“測り直している目”が混じっているのだ。


 噂で作られた印象を、その場で見た現実が少しずつ削っていく。


 その感覚が、少しだけ嬉しかった。


「何?」

 セレスティアがこちらを見る。

「いえ」

「また変な顔をしているわよ」

「変な顔じゃないです」

「少し満足そう」

「まあ、ちょっとは」

「調子に乗らないで」

「はいはい」

「返事が軽いわ」

「今日はちゃんと働いたので」

「そこは認めるけれど」

「認めるんだ」

「認めるべきものは認めるわ」

「律儀ですね」

「……あなた、本当に余計なことばかり言うのね」


 呆れられた。


 だが、前ほど刺さる感じではない。


 その時、向こう側の廊下から、見覚えのある金髪の男子が歩いてきた。クラウス・エーデルハイトだ。昼の女子生徒たちほど露骨ではないが、あからさまにこちらを見ている。


 嫌な予感。


 クラウスは俺たちの前で足を止めると、形だけの笑みを浮かべた。


「随分と楽しそうだな」

「何かしら」

 セレスティアが即座に返す。

「別に。ただ、噂に負けず仲睦まじいのは結構なことだと思ってな」

「そう」

「だが、いつまでその芝居が続くかは興味がある」


 来た。完全に挑発だ。


 だが昨日までと違うのは、こっちも少しだけ構えができていることだった。


 俺はクラウスを見る。


「芝居かどうか、そんなに気になるんですか」

「気にならないと思うか?」

「気になるなら、よほど都合が悪いんですね」

「何?」

「だって、放っておけばいいでしょう。わざわざ見に来るってことは、放っておけない理由があるんだ」


 クラウスの目が細くなる。


 横でセレスティアが口を開く。


「クラウス。あなた、最近ずいぶんと私たちへ関心が深いのね」

「……関心?」

「ええ。演習場の前、校舎裏、そして今。そんなに暇なの?」

「っ」

「それとも、殿下のご意向でも聞いているのかしら」


 周囲の空気が少し凍る。


 今の一言は鋭い。鋭いが、正面から“王子の犬”と言ったわけではない。問いの形を保っている。


 クラウスはすぐに反論した。


「誤解だ」

「なら結構」

「俺はただ」

「ただ?」


 セレスティアが、静かに続きを促す。


 クラウスは数秒黙ってから、結局それ以上を言えなかった。周囲にも人がいる。ここで余計な言葉を足せば、逆に自分の立場が悪くなる。


「……いや、失礼した」


 そう言って踵を返すしかなかった。


 去っていく背中を見送りながら、俺は小さく息を吐く。


「やっぱり強いですね」

「誰が」

「セレスティア様」

「今さら?」

「今さらですけど」


 すると彼女は少しだけ視線をずらした。


「あなたも、今日は昨日よりましだったわ」

「それはどうも」

「でも、最後の一言は少し余計」

「どれですか」

「放っておけない理由がある、のところ」

「ああ」

「図星だから効いたけれど、効く分だけ相手も覚える」

「……なるほど」

「勉強になった?」

「はい、先生」

「誰が先生よ」


 そのやり取りをしている自分に、少し驚いた。


 昨日までなら、ただ一方的に振り回されている感覚の方が強かった。だが今日は違う。セレスティアが前に出るところ、俺が拾うところ、その逆も少しだけある。仮恋人という言葉は相変わらず胡散臭いし面倒だが、少なくとも“二人で動いている”という感覚がある。


 思ったより、息が合う。


 それは意外で、少しだけ心地よくて、だから余計に危うい気もした。


 放課後、ルーヴェン家の馬車へ向かう途中、フィオナがまた顔を出した。


「今日の二人、ちょっとよかったわよ」

「何がですか」

 俺が訊くと、フィオナはにやっと笑う。

「だから、息が合ってた」

「演習の話ですよね」

「もちろん?」

「その“もちろん?”が怪しい」

「まあ、演習も会話も、かな」


 余計なことを。


 横を見ると、セレスティアがわずかに眉を寄せている。怒っているというより、扱いに困っている顔だ。


 フィオナは楽しげに続けた。


「最初は仮恋人ごっこなんてすぐ崩れるかと思ったけど、案外ちゃんと組めてるじゃない」

「組めてる、ね」

 セレスティアが小さく繰り返す。

「ええ。少なくとも、外から見てる側の予想よりずっと」


 その評価は、多分かなり重要だった。


 俺たちはまだ何も片づけていない。噂も紙も、王子派も、クラウスも、全部そのままだ。けれど少なくとも、“思っていたより本当に形になっている”と見せられれば、それだけで向こうの計算は少し狂う。


「じゃあ、私はここまで」

 フィオナが手を振る。

「また何か動きがあったら知らせる」

「お願い」

 セレスティアが頷く。

「エイトくん」

「はい?」

「調子に乗りすぎて一人で突っ込まないように」

「二人ともそれしか言わないな」

「大事なことだもの」

「……分かってます」


 フィオナが去っていく。


 残された俺とセレスティアは、いつものように馬車へ乗り込んだ。


 座席に腰を下ろしたあと、少しの沈黙。


 それからセレスティアが、窓の外を見たまま言った。


「今日の演習」

「はい」

「悪くなかったわ」

「昨日も聞きました」

「今日は昨日より上」

「おお」

「でも、勘違いしないで」

「それも聞きました」

「ならいいわ」


 少しだけ、笑いそうになった。


 そのやり取りが、妙にしっくり来る。


 仮恋人。

 噂の的。

 身分差だらけ。

 面倒の塊。


 なのに、こうして並んでいると、少なくとも一人で戦っている感じはしなかった。


 それがいいことなのか、悪いことなのか。


 まだ分からない。


 ただ一つ分かるのは――


 このまま“仮だから”で片づけるには、少しずつ距離が近づきすぎている気がする、ということだった。

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