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第1話 時の傷跡





 夢の中で、僕は彼女と初めて出会った。


 そこには何もなかった。


 人が行き交う街も、長閑な田舎の風景も。


 だだっ広い平野と、ささやかな風。


 横たわる柔らかい空気が、どこまでも優しく続いていく。


 遠い地平線には海が見えて、雲が、ゆったりと流れていた。



 長い髪を靡かせながら、彼女は、そっと微笑むように佇んでいた。


 白いワンピースと、透き通った肌。


 クロスストラップの身軽なサンダルを履いて、鮮やかな緑に覆われた草原の上を歩いてた。


 道標も、行き先も見当たらないまま。



 「キミの名前は?」



 僕は心の中で、彼女にそう尋ねたかった。


 どこかで会ったことがあるようで、記憶のどこにもない顔。


 見れば見るほど、線がぼやけていくようだった。


 かといって、僕の人生のどこかで、すれ違ったことがあるような——




 「キミが言いたいことはわかってる」



 彼女は、そう言う。


 何も言えずにいる僕に。


 逸らしそうになる瞳に。



 ずっとわからないことがあった。


 彼女が何者であるかは、二の次だった。


 くすんだ青色と、澄み切った空気と。


 空を見上げれば、吸い込まれていくような穏やかさがあった。


 永遠にも感じられるほどの遠さと、すれ違う光。




 きっと、——いつか




 心の中で、そう何度も感じてしまう寂しさがあった。


 それがどこから来ているものかはわからなかった。


 例えば、夏の終わりの夕暮れや、桜が咲く春の訪れ。


 そういう時間の流れの中に、取り逃してきたもの——




 わからなかった。



 自分がどこにいるのか。


 どこから、やってきたのか。




 「行こう」



 不意に見上げてしまう視線の下で、彼女はただ微笑んだ。


 まるで、できすぎた物語の主人公のように。


 落ちていく砂時計の、静けさのように。


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