設定資料①
銀河の海には、数えきれないほどの星が浮かんでいる。
それぞれの星は孤立しているように見えながら、重力と時間の流れの中でゆるやかにつながり、互いに影響を与えながら長い歴史を刻んでいる。
ある星では文明が栄え、
ある星では生命がまだ海の中で揺れている。
またある星では、知性を持つ種族同士が争い、世界の形そのものを変えてしまうほどの戦争が続いていた。
その星の一つが、帝国の支配する領域に存在する惑星だった。
その惑星には、人間が住んでいる。
都市があり、貴族がいて、学問があり、
そして戦争があった。
人間は長い歴史の中で文明を築き、国家を作り、技術を発展させてきた。
だがその進歩の裏側では、常にもう一つの種族との争いが続いていた。
魔族。
彼らは人間とは異なる生態を持つ存在であり、人間社会では長く敵対種族として認識されてきた。
人間の記録では、魔族は荒野や地下、あるいは未開の大地に現れ、人間の領域を侵す存在として語られている。
しかし魔族の本質は、人間の理解よりもはるかに複雑だった。
魔族の身体構造は、人間とは根本的に異なっている。
彼らは強い生命力を持ち、環境への適応能力が極めて高く、個体によっては人間の常識を超える身体能力を持つことも珍しくない。
だが、最も奇妙なのはその精神構造だった。
魔族は、人間とは異なる形で意志を持つ。
その意志は強く、個体ごとの独立性が高く、しばしば人間社会の秩序と衝突する。
そのため、人間の文明は長い時間をかけて彼らを「敵」として認識するようになった。
帝国の歴史の中でも、魔族との戦争は何度も繰り返されている。
国境は変わり、都市は焼かれ、英雄が生まれ、また多くの命が消えていった。
その戦争の記録の裏側で、ある一人の科学者が研究を続けていた。
サカモト博士。
帝国の研究機関に所属する彼は、戦争そのものよりも、魔族という存在の生態に強い関心を抱いていた。
なぜ魔族は人間とは違う身体を持つのか。
なぜ彼らは人間と同じ知性を持ちながら、まったく異なる社会を形成するのか。
博士は魔族の細胞構造、遺伝子、神経系を調べ続けた。
その研究の中で、彼は一つの仮説にたどり着く。
魔族の身体には、人間には存在しない構造がある。
それは、生命のエネルギーを扱うための特別な器官だった。
博士はそれを、仮に「器」と呼んだ。
この器は、生命の精神活動によって生まれるエネルギーを蓄えることができる可能性があった。
もしその仕組みを解明できれば、生命の構造そのものを理解できるかもしれない。
だが、魔族の研究には限界があった。
彼らは人間の敵であり、研究対象として自由に扱える存在ではない。
捕獲できる個体も少なく、詳細な実験を行うことは難しかった。
それでも博士は研究を続けた。
魔族の生態を観察し、細胞を解析し、生命の構造を探り続けた。
そして長い年月の末、彼は一つの結論に至る。
生命は、必ずしも一つの形に固定される必要はない。
もし生命の構造を根本から作り直すことができれば、
既存の生物とはまったく異なる存在を作り出すことも可能なのではないか。
その考えから、博士はある実験を始めた。
それは、既存の生命とは異なる新しい生命体の設計だった。
彼が生み出した生命体は、極めて単純な構造をしていた。
細胞の形は固定されず、
体の境界も曖昧で、
環境によって姿を変えることができる。
それは有機物にも、無機物にも適応でき、
条件さえ整えばどんな形にも変化する。
博士はその生命体に、
単純な名前を与えた。
スライム。
スライムは、生命としては異常な存在だった。
形を持たず、
構造を固定せず、
環境に応じて姿を変える。
だがそれは、完全な生命ではなかった。
スライムには、決定的に欠けているものがあった。
自我。
どんな姿にもなれるその生命体は、
自分という存在を理解することができなかった。
博士は考えた。
もしこの生命体に、
精神を与えることができればどうなるのか。
その答えを見つけるため、
彼はさらに研究を続けることになる。
だがその頃、世界では別の動きが始まっていた。
帝国と魔族の戦争は、
以前よりも激しさを増していた。
魔族の出現は増え、
人間の都市は防衛を強化し、
軍は新しい兵器を求めていた。
文明は進み、
科学は発展し、
戦争は終わらない。
その混乱の中で、
博士の研究は静かに進んでいく。
そしてまだ誰も知らない。
この小さな実験が、
やがて一つの存在を生み出すことになることを。
それは、
どんな姿にもなれる生命。
そして、
自分という形を探す存在。
この物語は、
その存在が世界の中で一つの形を見つけるまでの記録である。




