暗殺者の俺は裏社会で幹部を務めている同級生に告白してみた
【作者より】
本作品は『 毒親に捨てられた私は聖夜の夜に復讐という名の円舞曲を踊る(https://ncode.syosetu.com/n4923ln/)』と『月下の殺戮者(https://ncode.syosetu.com/n6303la/)』のコラボ作品です。
『裏社会で幹部を務めている私は同級生の同業者に告白される(https://ncode.syosetu.com/n6941lu/)』の男性視点です。
とある路地裏に入ってすぐのところにバーがある。
俺、来栖 直の実の姉である来栖 和が昼はランチ、夜はバーを経営しているこじんまりした店舗だ。
「いらっしゃい……」
「姉さん、突然きて申し訳ない」
「え、いいけど? なんか情報がほしいの?」
「いや、そうではないのだが……」
俺はカウンター席の右端に腰をかける。
その会話は普通のバーのやり取りとは異なり、少し物騒な雰囲気の会話だと思われるが、同業者の姉弟だからこそできる会話の内容だ。
その時は店内に客がいなかったので、それが救いだった。
「じゃあ、なんの用?」
「ただ飲みにきただけ」
「なーんだ……いつもの? それとも……」
「いつもの白ワインで……」
続くかのように店内のベルが鳴り響く。
姉さんが「いらっしゃいませ」と声をかけた。
店内に入ってきたのは何処かのバンドのギタリストやベーシスト、ヴォーカルでも通用しそうな外見の小柄な男性が入ってくる。
ギターとかの楽器ケースではなく、鞄を持っているからおそらく違うとは思うのだが――
しかし、次の姉さんの問いで一瞬にして覆された。
「ご注文は?」
「結構ですわ。電話したらすぐに出ますので」
あの外見で上品な口調だから元は何処かのご令嬢に違いない……って、女性ではないか!?
髪が短いから違和感なく小柄な男性ぽく見えた。
それに失礼だが、化粧のせいか少し怖い印象。
普段から周囲から目つきが悪いと言われている俺でも怖いと思っているのだから、相当かもしれない。
店内が空いていたせいか彼女は俺とは反対側のカウンター席の左端に腰をかける。
その隣の席に鞄を置き、手袋を外し、コートをかけた。
ネイルも黒か……
そのせいか指が長く見えてしまうし……とにかく神秘的な雰囲気。
黒背広のポケットからスマートフォンを取り出し、触っている。
「こちら、神永。今、お時間はよろしいでしょうか? ――」
彼女は誰かと通話を始めた。
綺麗な鎖骨……仄かに香るコロン? 香水は上品な香りはいいとして、胸元には小さめだが、墨を入れているような感じがする……
これは蝶の刺青だろうか?
ブラウスかYシャツかどちらか分からないが、襟を立てていて胸元と刺青がよく見える。
明らかにお嬢様系の雰囲気ではない!
アイラインは濃く、口紅まで黒なのか……
よって、髪から爪の先まで真っ黒ではないか!?
ところで、一体彼女は何処で黒い口紅を手に入れているんだ?
通話は続いており、頼んでいた白ワインがカウンターに置かれている。
ワインを一口含み、会話の内容を聞いているが、バンドのメンバー同士のものではなさそうだ。
下手したら俺と彼女は同業者かもしれないと――
「――はい。では、失礼いたします」
彼女は通話を終え、スマートフォンをしまっている。
外見からは全く誰だか分からないし、面影すらなく感じた。
手がかりになるのは上品な口調や所作くらいだな……
あ、でも、電話をかけていた時に名前と言っても名字は言っていた。
声は少し低くした感じが否めない。
しかし、それらをひっくるめてピンときた。
「まさか、君がね……」
俺は彼女の方を見て、気がついた頃にはワイングラスを回しながら話しかけていた。
女性はじっと俺のことを見ている。
俺は君のこと、もう思い出したよ?
あとは君が思い出してくれることを待つだけ……
「あの……どちら様でしょうか?」
「覚えてない?」
え? ちょっと待て?
中学一年と二年の二年間、同じクラスだったのに覚えていないって、どういうことだ?
人生には出会いと別れがたくさんある。
もう中学を卒業してかれこれ十年くらい経過しているし、俺が声変わりし始めたのは中学三年の頃からで不幸なことに別のクラスだったこともあり、顔を合わせる機会がなかったから思い出すのに時間がかかっても仕方がない。
もしかしたら、彼女の記憶の歯車は止まったままなのかもしれないな。
「く、来栖くん?」
彼女の口からようやく答えが出てきた。
歯車は噛み合い、ゆっくりと動く。
「正解。一、二年の頃同じクラスだった神永さんだよね?」
「ええ、こちらこそ正解よ。ごめんなさい。声だけだと全く気がつかなかったわ」
彼女の名神永 由佳。
俺と彼女は中学時代のクラスメイトだった。
偶然かもしれないが、姉さんには失礼だけど、こんなところで異性の同級生と再会できるなんて嬉しい。
「いや、気にしなくていい。俺は君の声と口調、仕草だけで分かったのにな……あと電話していた時に名字だけ言っていたし。それでピンときた」
「そういう貴方こそ気にしているじゃない?」
正解が出てくるまでに時間がかかりすぎる。
「バレたか」と苦笑する俺。
「表情でバレバレよ! 私が部外者や敵組織の人間ではなくてよかったわね!」
「そもそも何故、君がここに?」
「組織の会合終了の報告の電話のため、偶然このバーを見つけて入っただけよ! 私は用件が済んだから出るところ! 何か問題でも?」
「組織の会合? 何かの幹部会か?」
「そうよ。もしよかったら名刺を受け取って」
俺たちはカウンター席の両端で会話をしている。
彼女は自分の名刺らしきものを右端にいる俺の方に向かって滑らせた。
「名刺、ありがとう。まさか君が俺と同業者だと思っていなかったから意外だった」
「そ、それは……」
言葉を濁させる彼女。
俺は彼女に気づかれないよう、ワイングラスとともに左から三番目の席まで近づく。
そして、緊張している素振りを見せないように「隠さなくていい」と告げた。
「えっ!?」
「俺も似たようなものだから」
本当のことを言わせていただくと、距離はもちろん、胸が高鳴っているのは事実だ。
俺も彼女も――
「すみません。私にもワインをいただけませんか?」
「二種類ありますが、どちらに?」
「赤ワインで――」
あのー……ワインを注文しているけど、貴女は本当ならば帰る予定だったのでは?
中学卒業して十年くらい経過しているから話は尽きないと思うし、せっかく再会したのだからもう少しだけ……と思ったのかもしれない。
あれから二人でワインを飲みながら過去の話をした。
時々、姉さんから突っ込みが入ったけどな。
中学時代に互いに見てきたのは仮初めの姿だったのだろう。
しかし、本当の自分は狂気に満ちた暗殺者の血を引き継いでいる身――
そして、彼女はご両親にの躾や礼儀作法に厳しく、それについていけずに中学一年の冬休みに入る頃、捨てられたとのこと。
マフィアの首領によって救済されたあとの学生生活はずっと表と裏の二重生活を送っていたことを知った。
成人になった歳のクリスマスに両親を自らの手で殺めたと――
受け取った名刺によると、彼女は救済されてからずっと現在に至るまでマフィアの一員……今では幹部を務めており、暗殺のスキルを持っている。
上品さと冷酷さのどちらも併せ持っているのは言うまでもない。
今では互いに裏社会に染められている。
そこから足を洗う者は極めて稀の世界だ。
「――姉さん。そろそろ帰るよ」
「あ、気をつけてね! 由佳さんも!」
「はい」
俺たちは帰り支度をし、バーを出た瞬間――
「目を閉じて」
「ん?」
彼女は静かに目を閉じる。
物音を立てないよう、跪いて彼女の左手の甲にキスをした。
目を開けて驚いている彼女。
「無難なところにしておいた」
「え?」
「本当は……」
「何?」
「ずっと……す……好きだったんだ」
バーの入口で突然の告白だからいきなりすぎて驚くのは当然だ。
「体勢はそのままにしていなさい?」
「何故?」
「私が貴方の身長に届くはずがないから。この高さが丁度いいのよ……」
彼女は俺の両肩に手を乗せ、何かがちょんと頭に触れた。
「わ、私も無難なところにキスをしたわよ!」
「さっき、頭にちょんと触れたのがそれ?」
「そう。私も同じような境遇の人ってなかなかいないし、分かってくれる人が顔見知りというだけでも嬉しかった」
「それって……つまり……」
「これで私が貴方のことが好きっていうことが分かったでしょう? 黒い口紅を使っているから髪の毛の方が無難でしょう? 日が跨がないうちに帰りましょう」
彼女は照れくさそうにこう答える。
ツンとしたり、照れたりして君は感情が忙しいな……
薄暗い夜道を途中まで手をつないで帰るけれど、会話をするのは少し恥ずかしくて互いに無言だった。
◆◇◆
あれから、屋敷に戻った俺は彼女の連絡先を登録し、電話をかける。
『もしもし。どなた様でしょうか?』
「もしもし、来栖です」
『電話登録してくれてありがとう。神永です』
「いえ。君の好きなところや惹かれたところ話していなかったと思うが……」
『いいわよ? いくつでも聞くわ』
「中学時代からだけど……君の凛とした姿が好き……なんだ……」
『それは例え、私が優等生でなくても?』
彼女は笑いながらこう問いかけた。
俺は「ご名答」と答える。
「最初は男性に見えてしまったところを謝罪する……」
『気にしないわ。それはよくあることだから。私は幹部になってから髪はショートボブくらいに切っているし。化粧でも怖い、返り血を浴びるとさらに怖いと言われることもあるから慣れているわ』
彼女のあの外見で見下されると威圧感が凄かった。
ブラウスかYシャツ以外すべて黒いので、さらに怖さが増すのだと思うのだが……
『すでに日が跨いでしまっているけれど、休まなくて大丈夫かしら?』
「そろそろ休むとするよ」
『「おやすみなさい」』
同時に通話が終了した。
お試しで電話をかけてみただけだったが、彼女も何処に惹かれたのか気になっていたと思うので伝えてみてよかったなと感じた瞬間だった。
最後までご覧いただきありがとうございました。
2026/03/04 本投稿




