54 透明人間(2)
プリンセスもマーガレットも極力気にしないようにしてはいたが、身の回りのあちこちで女子生徒たちが被害に遭っているのを目の当たりにして、このままでいいのかと思い始めてはいた。
そんなある日プリンセスが廊下を歩いていると背後に何かを感じた。魔法というよりもアルテミス星人としての直感で違和感を感じ、振り向くと誰もいないが、何かの気配を感じた。
急に殺気のようなものを感じ、スカートの前を押さえた。すると微かではあるが
「ちぇっ」
と舌打ちのような音がした。
そのあとその何かが自分から離れていくのが感じられた。その時初めて自分もまた被害者になりかけていたことに気づいた。
アルテミス星人特有の鋭い感覚がなければ他の被害者たちと同じになっていただろう。
危うく難を免れたが、もしそうなっていたらと思うと、それも他の生徒や男性教師たちの前でそうなっていたらと思うと、そしてこの問題は普通の人間にはどうにもならないと思うと、さすがにこの問題を野放しにはしておけない、真剣に取り組まなければならないと思い始めた。
この不思議な現象をどうしたらいいのか、プリンセスには皆目見当がつかなかった。そこで爺に相談をすることにした。
以前は研究に没頭している時に話しかけられることを嫌がっていたが、例の卑劣なSNS事件で活躍して以来、爺には変化が見られ、どうもプリンセスが壁につきあたっている時には研究を中断してでも力になろうと思うようになったらしいのだ。
要するにプリンセスに協力することによって彼の研究にも幅ができ、しかもプリンセスや人々のために彼の知識が役に立つことが喜びにもなっているらしい。
プリンセスは爺の他にモンちゃんとマーガレットにも声をかけ、2人はミルクティーを飲みながら、モンちゃんはホットミルクを飲みながら検討を始めた。
プリンセスが自分の経験も含めて知っていることを話すと、マーガレットも友人の話などから補足をした。すると爺が口を開いた。
「大変難しい問題ですな。ただちょっと思い出したことがあります。関係あるかどうかは分かりませんが」
プリンセスは
「どんな些細なことでもいいの。話してちょうだい」
「私はこの地球という惑星に来てから、自分の研究に没頭する一方、併行してここの様々な研究機関や研究者とも連絡を取ったりして連携してきたのじゃ。
もちろんリモートなどで顔を出さざるをえない時は普通の人間の顔に変装してじゃが。そんな中で、ある懇意にしている研究者からの情報なのじゃが、ドクターフォリーという、かなり変わった博士、変わったというのは控えめすぎますかな、その数々の奇怪な行動ゆえに狂っていると言われ、研究者たちから爪弾きにされている人物が一ヶ月ほど前に新発明をしたというのです」
マーガレットが興味津々といった感じで
「どんな発明なの?」
「透明マントじゃ」
「透明マントって透明人間になれるっていうこと?」
「そうじゃ。そのマントを羽織れば透明になれるということで、その仕組みは私も一応理解はしておるのじゃ。光の屈折率を利用するのじゃ。ただ実際に作るのにはかなりの困難を伴うのじゃが、ドクターフォリーはそれを作ることに成功したらしいのじゃ」
「そう?では今回の不可解なスカートめくり現象に何か関わりがあるかもしれないのね?」
「さあ、そこまでは分かりかねますが、ただ最近そのマントが行方不明でドクターフォリーが困っているという情報が入ったのじゃ」
するとマーガレットが
「どうしたのかしらね。でもまた新しいのを作ればいいんじゃないかしら?」
「ええ、それがそのマントを作るにはかなり希少な物質も使うし極めて複雑な構造なので難しく、何ヶ月もかかるらしいのじゃ」
そこで急にプリンセスが
「ドクターフォリーには子供とかいるのかな?」
「高校生、つまりあなた方と同い年の男の子がいるそうですが、それが何か?」
「その男の子ってどんな性格なのかな?」
「さあ、会ったこともないのでとんと分かりかねますが。うーん、そうだ、かなりのいたずらっ子だという話を聞いたことがありますな」
「その男の子がマントを盗み出して自分の部屋に隠していて学校で時々それを纏って(まとって)透明になってエッチないたずらをしているって可能性はないかしら?」
「そうですな。その線で調べてみてもいいかもしれませんな」
「爺、ドクターフォリーの住所は分かる?」
「ええ、分かりますじゃ」
「では先ずパピヨンちゃんに偵察してもらいましょう」
ここはドクターフォリーの自宅。同じ敷地内に研究所もあり、自宅と研究所は屋根つきの廊下でつながっていて簡単に行き来できるようになっている。
ドクターフォリーの自宅の2階には息子のドロールの部屋がある。パピヨンちゃんはしばらく彼の部屋の窓の上に潜んでチャンスを待っていた。ドロールが帰ってきた。
「ああ、今日もアチくてたまったもんじゃねえや。エアコンのスイッチを入れて、と、あっそうだ、その前に窓を開けて部屋の空気を入れ替えた方がいいってパパが言ってたっけ」
ドロールは窓を勢いよく開けた。その瞬間パピヨンちゃんが部屋に紛れ込んだ。羽ばたいて部屋の隅に向かうと急に羽をつかまれてしまった。
「こりゃ綺麗な蝶々だな。見たことないぞ。こりゃいいや。俺の蝶の標本コレクションに加えるとしよう」
パピヨンちゃんは虫かごに入れられてしまった。




