53 透明人間(1)
近頃プリンセスは学校生活や趣味を存分に楽しんでいた。また休みの日にはシャトーのある湖の周囲を散策し、豊かな自然を満喫するのだが、そんなことをしているうちに絵画にも興味を持つようになり、印象派のモネやポスト印象派のゴッホやゴーギャンにも興味が湧いてきて、彼らに関する書籍を読んだり絵を鑑賞したりするようになっていた。
最近複製画をよく眺めている姉の様子を見て、妹のマーガレットは
「モネさんて睡蓮の絵をたくさん描いてるよね」
「モネはフランスのジベルニーに家を買って、好きな蓮を浮かべた大庭園を作って、死ぬまで睡蓮を描き続けたんだって。その発想がすごいわよね。ゴッホって知ってる?」
「少し知ってる。ゴーギャンをモデルにした小説を読んだことがあるんだけど、そのゴーギャンとフランスのアルルで2ヶ月間一緒に住んで、競い合うように絵を描き続けて、そのあげく仲違いをしてゴッホは耳たぶを切り落としたっていう話、有名よね」
「生前はゴッホの絵はほとんど売れなかったらしいけど、貧しさと世間の無理解の中で情熱的に絵を描き続けたというところが惹かれるのよね。ねえ、私の部屋に来てよ」
「何かしら」
プリンセスの部屋に入ると、それまでは何も無かった壁にいつのまにかゴッホのひまわり、夜のカフェテラス、モネの睡蓮の絵がかかっているではないか。
「複製とは言っても素晴らしいわね。ところでお姉さま、話は変わるけど、最近学校で奇妙な出来事が起こってるって友達が言ってるの」
「今までもいろんな奇妙なことがあったわよね。でも学校の問題は先生たちがなんとかすればいいのよ。今の私はそういったことに振り回されたくないの。
私は音楽と美術に没頭しているの。だからそんな話全然興味ない。だから聞きたくないわ」
「そう?まあ、私もこれまでいくつかの事件に関わって結構大変な思いをしたから、ボランティア活動にもっともっと励むことにして、今のところ恋人ではないけどハルオ君とも楽しくやっていきたいし、姉さんとも高校生活やここシャトーでの生活をもっとエンジョイしたいと思ってるの。
だから私も噂話のことは忘れることにするわ。ところで私もゴッホのドラマチックな生涯に興味が湧いてきたの。何か読もうかな」
「ゴッホは友人の画家ベルナールや、金銭面や精神面で常に支援してくれた弟のテオにかなりの手紙を書いていて、彼の書簡集を注文してあって明日書店に買いに行くの。それ、貸してあげようか?」
「是非お願い。一緒にゴッホの話とかして盛り上がろうね」
その頃学校では奇妙な現象が続き、段々無視できない大きな問題になりつつあった。それはこの学校の女子生徒が校舎の廊下を歩いている時、教室にいる時などに急にスカートがめくられてしまうという現象だ。
小学校あたりではイタズラ坊主が女の子のスカートをめくってしまう、いわゆるスカートめくりがあるが、高校生ともなればそんなことをすれば問題になるだけでなく、女子生徒全員から総スカンを喰らうことになることは分かっているからかもしれないが、そんなことは誰もやらないだろう。
では誰がそんな卑劣なことをやっているかというと、それが皆目見当がつかないのだ。
つまりスカートがめくられた時、そこには誰もいないのだ。
スカートは後ろからめくられることもあれば前からめくられることもあり、その場には誰もいないし急にその現象が起きるので、原因がさっぱり分からないし対策の立てようが無いのだ。
この学校は女子校ではあるが、女子同士であっても他の女子の前で自分のスカートが急にめくれて下着を見られてしまうのは嫌だし、ましてや男の先生と話している時にその目の前でそうなってしまうなんて屈辱的だ。
そんな被害が毎日数人ずつあり、被害に遭った生徒は不愉快な気持ちになるのはもちろんのこと、悔しくて泣いてしまい、しかもそのことがなかなか忘れられなくてトラウマになってしまう者もいた。中には2度も被害に遭った生徒もいる。
そこで被害者を代表して岡京子及び数人の女子生徒が生徒指導部長の石塚先生のところへ行き、被害の状況を詳細に説明し、何とか対策を立てて問題を解決するように懇願した。
すると石塚先生は
「ふーむ。被害状況はよく分かったけど、君たちは別にスカートをめくられただけで、痛い思いをしたわけでも何かを失ったわけでもないじゃろ。だったら別に気にすることはないじゃろ」
すると岡京子たちは憤慨して
「最低!先生、今の言葉は教師の言葉とは思えません。これを今度の生徒総会で問題にしますから」
この学校は生徒は女子だけだが、教師はほとんどが男性で女性教員は数人しかいない。そのせいかこの問題について教師たちの動きは鈍い。
それは何故か。特に若年から中年の男性教員は口では生徒たちに同情し、何とかしなきゃと言うのだが、内心かわいい女子高生の生の下着が自分の手を汚すことなく見られるので、出勤するのが楽しみになっている者も少なくなかったのだ。
そこで女性教師たちが本気になって取り組んではいるが、とにかくどうしてこんな現象が起きているのか、誰がやっているのか、とにかく何も見えないし分からないのでほとほと困っていたし、なんと若い女性教員のスカートが他の男性教員たちの目の前でめくられてしまうといったところまでエスカレートし、女性教員たちはみんなズボンを履くようになってしまっていた。
ただ校則により女子生徒のズボンは認められていなかったので、相変わらず被害は続いていた。




