52 無気力→事件に関わりたくない→女子校生活を楽しみたい
最近のプリンセスは無気力気味だ。どうしてなのか自分でも分からない。
ハルオ君との失恋の辛さに耐えられずにアルテミス星から脱出し、爺に導かれてこの地球という惑星にやってきて湖底にあるシャトーに住んでいるのだが、どういうわけか数々の事件に巻き込まれて現在に至っている。
ある時は瀕死の状態に陥ってしまったことさえあったが、どうしてここまで無理をしてこの惑星のこの学校の生徒のために力を尽くしてしまうのか、自分は一体何をしたいのか最近わからなくなってきたのだ。
本当はハルオ君のいないこの惑星で彼のことを忘れてのんびり気ままに暮らしたいと思っていたはずなのだ。それがどうしてこんな風になってしまったのか。
これからもどんな悪人が登場するか分からない。というか、これまで何度も登場した黒い覆面とスーツの男が何者なのかすら分かっていない。
ある時は宇宙人さえ現れたりしたが、もし自分が恋に敗れてここに来なかったら学生たちは宇宙へ拉致されてしまったことになるが、自分が命をかけて彼らを宇宙人の魔の手から救ったことは誰も知らない。
もちろんそのことで感謝されたいと思っているわけではないが、当の本人たち、つまり学生たちは自分達が校舎ごと宇宙に連れ去られそうになったことや、プリンセスが苦闘したことも何も知らないのだ。
もちろんプリンセスは自分自身がアルテミス星人であることや、魔法を使えることを隠してごく普通の女子高生になりすましているわけだから当然と言えば当然なのだが、何か釈然としないものを感じたりもするのだ。
またある時、あのオーストラリアでの研修の時はオーストラリアのロボットが破壊活動を始めてしまい、地球の危機とさえ思われたが、被害は一部の建物が壊されただけであり、ファイヤーオパールの精とプリンセスの2人が力を合わせたおかげで更なる破壊は免れたが、人々は暴れ出したロボットがどうしていきなり爆発してしまったのかを知る由もない。
こういった様々な事件に遭遇していると事件の解決に集中せざるおえないので、辛い失恋のことを忘れることができるという利点はあるのだが、このまま振り回されてばかりでいいのだろうか。
そんなことを考えているうちに、そもそも自分が異星人であり、魔法を使えることは隠していて誰も知らないのだから、身の回りの出来事にいちいち関わらなければいいのではないか、という結論に達した。
そうだ、趣味に打ち込もう!プリンセスは中学生の頃からヴァイオリンを習っていた。不思議なことにヴァイオリンはその構造がアルテミス星のものと全く同じだったのだ。
この惑星に来てからプリンセスが気に入っていた音楽は、クラシックとジャズだった。クラシックではモーツァルト、ブラームス、ベートベン、ショパンが気に入ってよく聞いているのだが、とりあえず今はこの惑星のヨーロッパという地域で400年ほど前に流行っていたというチャルダッシュという曲に取り組むことにした。
この曲は当時あまりにも流行りすぎて、ある国では法律を作ってこの曲の演奏を禁止したほどだったという、いわくつきの曲だ。最初は味わいのある始まりで、途中からは速くなったり、重音が聞き応えがあったり、かと思うとハーモニクスと呼ばれる不思議な奏法が登場する。
この奏法を使って出した音は、指板を固く押さえて出す普通の音より 柔らかく澄んだ音になるのだ。
プリンセスは、最近は読書とヴァイオリンの練習に没頭している。ある日いつものようにヴァイオリンでパガニーニのカンタービレという伸びやかな曲を練習していると、妹のマーガレットが部屋に入ってきた。お気に入りのギンガムチェックのスカートを履いている。彼女は幼少時からピアノを習っていて得意である。
「ピアノ伴奏してあげるわね」
2人で合わせて楽器を弾いているととても楽しく、大いに盛り上がった。弾き終わった後ふと 天ぷらうどんの事件の時にヴァイオリンを使った魔法を使ったことを思い出し、仕方がなかったとはいえ、ヴァイオリンをそんな風に用いたことに後悔の念を感じた。
これからは音楽と読書の世界に没頭したいと思う。どうしてこの学校、というかプリンセスの身辺でばかり様々な事件が起こるのかは不明だが、今度何かあった時は関わらないようにしようと思った。
何かあれば学校の先生や警察が何とかすればいいのだ。これまでだってかなり学校に貢献してきている、十分すぎるほどに、とプリンセスは自分に言い聞かせた。




