未確認世界放浪者(読み切り)
亜細亜大陸にある夢の国だと、そう聞いていた。この地獄を。
南満州の地で一人の日本人男性は、ただ当てもなく逃げ惑っていた。
今、何ができるのかを早急に考える必要でもあるのだろうか。
いや、そうではない。
何も考えることができないのだ。
それほどにこの男の心は憔悴しきっていたのだ。
というのも、その顔が心情を明確に表現していたからわかるのだ。
何か心残りのあるかのようにただ「死にたくない」と必死に叫んでいるようにも見えた。その光景は、だらしないように見えるが事情を知ればこの世にいる誰もがこの男に共感をするだろう。
なぜならば、拳銃を持った、中国人らしき風貌をした集団に追いかけられているのだ。一緒に逃げていた仲間はもういない。ただ一人で、まるで四面楚歌を体現するように逃げ惑っているのだ。
どこで間違えた、どこで踏み外したのだ、私の人生はこんなところで終わるものではない。貧乏だった。私の実家は貧乏だったのだ。
そんな中でも母は私を大事に育てていた。そして父はちょうどこの地にて戦死したのだという。だからこそ父の人生を尽くした地にて母への恩返しをしようと思ったのだ。
それがどうしてそんなことに。
確かに我々は侵略者だ。
許してくれなくてもいい。
恨んでくれたっていい。
それでも、この地に夢と希望を持ってきたのだ。
猶予が欲しい。反省する猶予を。自由に生きる猶予を。
もう、ここまでなのだろうか。もうどうなったっていい、ただ
死にたくない
ここまで来て死にたくない
父と同じ場所で死にたくない
母を置いて死にたくない
怖い
嫌だ
ただ、死にたくない
この男が思考した最後の言葉はこうだった。
なぜならば彼は既に脳天を貫かれていたからだ。
キィィィィン
耳をつんざくような音がした、鼓膜が破れたのかと思った。
ゆっくりと目を開けると、そこは地獄ではなかった。
いいやここが地獄なのかもしれない。
何故ならば私は死んだからだ。
あの、想像を絶するほどの激痛とともに。
生前も地獄にいたのに、死後も地獄とは我ながら笑える。
しかし、ここは本当に地獄なのだろうか、
私にはそれが分からないのだ。
それでもここがあの地獄よりは幾分ましだろうと思った。だからこそ口元に笑みが生まれたのだ。
卑しい庶民服を着た、東洋人のような風貌をした若い男性が街道のまんなかにてうずくまっている。彼はあたりを物珍しそうに見渡したのち、立ち上がり状況を確認しようとした。
周りには、まるで中世の欧州のような世界が広がっていた。奥では屈強な男たちが、何やらいそいそと会話しているのが見えた。そんな中、不運にもそこへ行商の馬車が通りかかった。
彼が反応できるはずもなく彼の躰は無残にもずたずたに引き裂かれてしまった。そうやってその見るも肉塊に化したモノはゴミ捨て場へと引きずられていった。
腐乱した臭気が漂うのを感じ、私は早急に体を起こした。どうしてこんなところにいるのだろうか。周りにはむき出しの生ごみが、山ずみになっていた。これまでの記憶をなにも思い出すことができない。ただ、強い激痛が体中を走るばかりなのだ。
知らない街にうずくまっていたことだけは覚えている。
「あんたは、どこから来たのかい。」
どこからか声が聞こえた。誰であろうか。そちらの方を向いてみると商人のような服装をした中年男性が立っていた。
男は鼻につくような言い方で
「まさか、平行世界。
いや、こことは全く違う地域から来たのじゃないだろうね。」
なんてことを言った。
確かにこんな場所は見たことがない。
怪しみながらも、とりあえず「そのようなものです。」と言い、
「いつの間にかここにいたのです。」と、付け加えた。
商人のような男は一瞬笑ったかのような顔を見せて、
「やはりそうか。この地ではよそ者は差別されてしまう。
だから少し危険かもしれない。ここは俺と一緒に来ないか。
もちろんただで寝止まらせるわけにはいかないが。
おっと、紹介がまだだったな。俺はデシィヴというものだ。
お前さんは?」
こんなことをいうのだ。見るからに胡散臭いのだが、とりあえず私は
「あ、エイロウといいます。」とだけ言い、この男の云う事に従うことにした。
デシィヴは、やはり商人であるらしく私にもそれらしい服装をさせて馬車に乗り込むように言った。どうやら、地方に物を売りに行くらしく、そのままオドロオドロとした原生林へ突っ込んでいった。
馬車の中でエイロウは考えた。この男は信用に値するのだろうかと。服装を整えてくれ、食料を分けてくれたことには感謝している。
しかし、赤の他人の私にそこまで親切をする義理はないだろう。そこまでされれば逆に胡散臭く感じないのだ。
私に利用価値があるとは到底思えない。はたから見れば私は、瘦せた、体力のない、貧しい人間である上、見返りなどが求められるというわけではないだろう。
そうすれば、今馬を引くデシィヴは本当に親切心で手を指し伸ばしたのだろうか。エイロウにはそれが分からなかった。
しばらくしてからである。
二人を乗せた馬車は軽快な馬の足音とともに、うねる森林の中を走っている。
その横から黒い影が通り過ぎるのを感じた。
そのすぐ後のことであった。その、幾つとも分からない黒い塊は、
エイロウの乗る馬車めがけて飛び込んできたのだ。
その黒い影の一つはエイロウの頸に跳び掛かり、すぐにそれを切り裂いていった。当の本人であるエイロウは、何も気づかずに気を失っていたため、その時はまだ、自分が瀕死の状況であったことを知る由もなかった。
「おい、おい!」
誰かが遠くで叫んでいる。この声はデシィヴであろうか。意識はかろうじてあるのだが、身体を動かすことができない。全身に力を入れて、どうにかして動かそうとしたその時だった。
「やっぱ、こいつ本物だよ。だって、心臓の音が聞こえる」
もう一つの男の声が聞こえるのだ。
そして、この男は信じられないことを言った。
「本当に致命傷を受けていたんだよな、デシィヴ」
「ああ。俺は、はっきり見たさ。こいつの頸が切り落とされるのを」
そして、私の意識が無いものだとたかを括り、どんどん喋り出す。
「だとしたら儲けもんだぜ。
異世界産の奴隷なんてどんな高値で売れるんだか。
しかも不死身ときたら桁違いの額になるだろうな。
にしても、都合の良い盗賊だったな。
こいつの頸を切った後、何も盗らずに逃げていくなんて。
まさかお前、」
デシィヴはニヤリと嗤いながら言った
「そうさ、フレッド。俺が買収したのさ。
盗賊の欲しいもんなんて、たかが知れている。
はした金を積んだだけで、快く引き受けてくれたよ。
こいつが起きたら、ただの盗賊だったって説明すればいい。
こっちの世界に来たばかりなんだから、
まさか、俺と盗賊がグルだったとは、思いもしないだろうよ。
まぁこいつを馬車で轢いちまったときに、確信はついていたんがな。」
自分を欺いた男たちが、ふたりで気色の悪い笑い声をあげているのだ。普通の人間ならば、すぐに卒倒してしまってもおかしくはない。しかしエイロウは仮にも三回は死んでいるのだ。精神力は人並みではない。だからこそ冷静に判断することができた。
自分が、騙されていたという事実に。そして、それと同時にこの胡散臭い男の正体がわかって、吹っ切れたようにも思えたのだった。そして脱出するすきを待ったのである。
翌日、目が覚めると私は西洋風の布団の上にいた。質素な割に所々凝った装飾があり肌触りの良い生地であったため、直ぐにそれが高価なものだと分かった。吟味する様子の私を見て、デシィヴは直ぐに私のもとへと飛んできた。
「済まなかった。許してくれ」
それが、開口一番に発した言葉だった。さすがに堪忍袋が弾け飛ぶかと思ったのだが、冷静にそれを押し潰した。
今、そうしてしまっては不自然であろう。
「まさか盗賊が飛び込んでくるなんて思いもしなかった。お前さんが無事で何よりだよ。商品はいくつか取られてしまったが、命あっての物種。本当に助かって良かった。済まなかった」
こう続け、頭を下げた。その脳天をぶち抜いてやろうかと思ったが、その感情も押し潰した。今は、まだ早い。ここを脱出するのが先である。いつ、私を売るのだろうか、いきなり売るとは思えない。しっかりと買い手を確認してから最も良い時点にて出品するのだろう。そもそもここはどういう場所であろうか。
朝食と思われる物体を口に放り込みながらエイロウはこう考えた。
ここが日本ではないのは確実なのだが、文献で読んだ西洋とは、どうにも違いがある。まるで中世の"南蛮"のようだと感じたのだ。
そうすると、ここは過去なのだろうか?
何らかの方法で時空転移してここへやってきたのだろうか。
いいや違う。デシィヴたちは、『異世界産』と、話していた。つまり異世界―天国や地獄のような場所―へと転移してしまったのではないだろうか。そもそもの世界が違うためこちらの概念が全く通用しない可能性がある。
そして、どうやら私はこちらに来てからも何度か死亡しているらしいのだ。彼らは私のことを『不死身』と話していた。
不死身ということが確認できたのであれば、
何度か致命傷を負っていることとなる。
そして、それが本当なのであれば、
あの記憶の中だけの痛みにも合点がいく。
何故ならば、肉体のほうは疾うに修復されているのだから。
理屈は全く分からない。
尋常小学校でも、ヒトは『ヨウブン』が不足すると、死んでしまうことを習った。しかし、その構造を理解する必要はない。その行為は今、必要がないのだ。
あの、見覚えのある道に私は立っている。デシィヴに、この町の紹介をしてやると言われ、ここに連れてこられたのだ。きっと、私の売買交渉をするに違いない。私が逃げたり、誰かに攫われたりしないように、敢えて連れてきたのだ。
それよりも、さっきから視線を感じる。ここらでは見かけない顔の系統だから、警戒されているのだろうか。しかし、服装はここのものを着ているはずである。そう簡単によそ者と分かるかどうか知らないが、本当に強い視線を感じる。そうであるならば一刻も早く、この町を出なければならないだろう。
そう考えている時のことであった。デシィヴが、ふと目を離したすきに、見慣れないみすぼらしい恰好をした軍人らしき集団が、エイロウの頭に麻袋をかぶせて荷車に積み、そのまま其れを持って裏路地へと駆けていったのだ。
一瞬のことであり、その場にいる誰も反応することができなかった。あの、デシィヴさえも。
「クソッッッ」
一人の商人の悔しがる声だけがその静まり返った大通りに響いた。
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気づくと、今度は今にも倒壊しそうな納屋の中にいた。そして瞬時に理解した。さっきの視線の正体は、彼らだったと。
「ヘイ、おまえジャパニーズだろ。分かるぞお前の顔は俺たちを殺した奴らと同じ顔をしているからな」
リーダー風の男はそう話した。
「でも別に、お前をどうしようということはない。
見ればわかる、お前、民間人だろ。そして、同じところからやってきた。
そしたらブラザーだ。
俺たちと一緒に戦わないか?このアンフェアと」
ほかの男たちもうなずいている。
どうやら彼らは、"亜米利加"兵団だったらしい。
そして、私と同じように一度、死亡したのだろう。
丁度、大東亜戦争をしていたのだ。
われらが大日本と亜米利加は、敵国同士だったということで、同胞の兵士に殺されたのだろう。しかし、終戦した今、いがみ合っている暇はない。彼らの言う通り、ここは共闘してこの不条理を倒さなければならない。
「そうか。勝ったのか我が合衆国は。やはり最強だな俺たちは」
終戦を知らせると、ほんの少しあった蟠りが解消したような気がした。そして知った。
リーダーのこの男は、ベンという名前であること。
この反乱同盟は多国籍だが、
最も多いのは亜米利加の元兵士であること。
様々な地点に、この同盟の拠点があるということ。
そして、近いうちにクーデターを起こそうとしていること。
そのクーデターを起こそうと計画を立てている時に、道に転がった私を見つけたらしい。そして、その後をひそかにつけていたという。おかげで私は助かったのだ。
そして、こんなことも言った。
「この世界にはサイキックかマジックか良くわからないが、物理法則を無視したようなことが、たびたび起こるんだ。
そして、俺たちも似たようなアビリティを使えるようになった。
例えば俺は一度見たものを絶対に見失わないようなものを持ってる。
だからお前を見つけられた。
でも、一番驚いたのは、お前のアンデッドだぜ。
痛みを感じるかどうかは知らねぇが、俺たち軍人からすると喉から手が出るほど欲しいもんだよ」
そこで「そんなにいいものですかねぇ」と私は言い、その悪い点も言ったのだが、それでも羨ましそうにするため、「渡せたら、むしろ貰ってほしいんですけどね」と言うと、自分の能力は大事にしろと怒られた。この暑苦しさは、慣れるとましになるのだろうか。
あれから何週間か経ち、クーデターの日時が三か月後と決定した。
概要としては、大国ラージ王国(エイロウが転移してきた国)の王城を陥落させることを目的とするらしい。どうやら超能力は、異世界転移者のほうが適性があり、人数が多少劣っていても勝機はあるらしい。さらに、異世界転移者を優遇するため、亡命国としての拠点となっているスモル共和国、そして、その軍事同盟も参加するらしい。
この二つの勢力(奴隷制を認めるラージ王国の強い軍事力、奴隷制に反対するスモル共和国周辺国家条約機構、通称SSTO)は互いに拮抗しており、その大きな勢力は、この現状を日和見ているミドル大公国などの奴隷制の有無が曖昧になっている地域を味方に引き入れるため様々な取り組みを行っている。
そして、その勝敗の決め手となるものが今回のクーデター(いわばSSTO側の宣戦布告だろう)ということで、より多くの支持者を集めたいのだという。ベンは、まるで合衆国の南北戦争のようだと言っていたが、私はそれを知らなかった。両戦力を確認すると、
ラージ王国は、
王家近衛騎士団 1000人
ラージ王国正規陸軍 500000人
ラージ王国正規海軍 200000人
ラージ王国正規空軍 5000人
ラージ王国特殊戦闘陣営 500人
国民義勇軍 1000000人
計 1706500人
SSTOは
スモル共和国兵 100000人
他同盟国兵 150000人
義勇軍(うち1/5が転移者)
50000人
計 300000人
これが、ベンのよく言う"デジャブ"というものなのであろうか、
まるで大東亜戦争開始時点の我が国との戦力差のように見える。
しかし、こちらにもアドバンテージはある。前にも言ったように、こちらには洗練された超能力兵が多数おり、十分に勝機はあるのである。
あるはずなのだ。
というより、勝敗を分けるのは単純な戦力差ではなく、日和見国を味方に引き入れることなのだ。そのため、この戦いで敗北寸前となったとしても逆転は可能であり、逆もまた然りということだ。
そして、その勝敗のキーポイントとなるのがどうやら私らしい。私にはアンデッドという超能力がある。そしてその能力を持つ私がどんなに非人道的な行いを受けたのかを説明すれば、建前を作ることが出来る。
さすれば戦力を増強することはたやすいことであろう。
こちらの超能力兵の特に強力なものの概要は
ベン ウォッチ(一度見たものを見失うことがない)
シー イクスチェンジ(人と人との能力を交換できる)
ディ アビリティアップ(単純な戦力増強)
イング アンダースタンド(理解力の上昇)
フレッグ スティール(能力以外の得意技を奪える)
そして
エイロウ アンデッド(不死身でありどんな傷も修復する
しかし、痛みは感じるため、精神力の強さが求められる)
私は正式な兵士ではないのだが、トップクラスに有用な能力を
保持している。だからこそ、この軍に貢献しなければならないのだ。
そして、ついにミドル大公国との交渉の日がやって来た。
今日が私の決戦日だ。
何故ならば、大国であるミドル公国を引き込めば、他の日和見国もついてくるからである。よって、この交渉により因縁あるこの戦いが終結することを意味するのだ。どうしても、この交渉だけは成功させなければならない。その使命感が私を突き動かすのだ。
こんな心持ちで、私はミドル公国の国境へと足を踏み入れた。出迎えてくれたのは執事のような男で、馬車にて私たちを中央議会のもとへと案内した。ミドー=シビア公爵は神妙な面持ちで私たちをじっと眺め、
「いらん、我等はこのような者たちにはつかん」
とだけ言い、手を払うような仕草をした。そこへ、
「まぁ、まぁ、ここは話だけでも聞きませんか」
と、物腰柔らかな声で対応したのがミドガル=パズル公爵である。
どうやらこの二人は因縁の相手らしく、王が不在であるこの公国をどちらが統治するか、常に牽制しあっているらしい。
ミドー公爵は
「フンッ 好きにすればよかろう」
といい、興味がなさそうに視線をずらした。
それでも私たちはこの大国を味方につけなければならない。
だからこそ声を上げて言った。
「無理を承知でお願いいたします。
どうか我々の為に少しでもお力を貸してはいただけませんか。
こちらには様々な超能力を持つものが多数おります。
もし、お力を貸して頂けるのであらば、こちらも、こちらの戦力を貴国の為に利用することを約束しましょう」
「それだけか。たったそれだけの対価で我が大公国が動くとでも。
そのような薄っぺらなものでは、条約を起こす気にもならない
まだ、それ相応の大義があるとするならば別だが」
という、ミドー公爵の声にほかの議員もうなずく様なそぶりを見せた。確かに、対価としては少なすぎる。超能力兵を行使できるとなると一見大きそうに見えるが、こちらから借用している傭兵のようなものであり、解剖許可などが下りることもなく、さらに取り締まりが難しく非常に扱いにくいものとなるのだ。そして、
「それだけかい、それだけでは要件が却下されてしまうのは直ぐに分かるだろう。だから、それだけの要件以外にも何かほかの対価や建前が、あるのではないかな」
というミドガル公爵の声によって私はついに決心がついた。
この切り札を使うことの。
「わ、私も転移者でありまして、超能力を保持しています。そして、その能力とは、」
「俺は、アンデッドだ。何をやっても死なない。だが、痛みを感じる。何度か死亡しているが、今ここに立っているのが事実だ」
ベンがにやりと笑った。最初から横取りするつもりだったのだろう。しかし、本当にいいのだろうか。不死身の影武者になるのであれば、最悪、死んでしまう可能性だってある。
私が不安そうな顔をするとベンはウィンクをした。
議会の空気が変わった。ざわめく声が聞こえる。
しかし、それだけ重大なことなのであろう。
不死身というものの存在は。
「「それは、本当のこと」」
「であろうか」「なのかい」」
両公爵の声が重なった。
「は、はい。事実であります」
「それは、どの様にして確認を取ったものかい」
「こいつらが、俺をラージ王国の商人から助け上げたんだ。
その時、服装は貴族のような恰好をしていたが、
首から上は奴隷のような表情だったらしい。
それで、その商人に不死身であるかどうかテストをさせられた。
雇った盗賊をまるで不運に現れたように配置し、俺を殺させたんだとよ。そのことも、俺が気絶していると勘違いした商人が目の前で喋ってくれたから分かったものの、気づかなければどうなっていたことか。
でも、この通り五体不満足だ」
「なんと非人いことを。お主らはその商人の名前を知らぬのか」
「たしか、デシィヴと呼べと言っていたと存じます」
その言葉を発した途端、また会がざわついた。
「デシィヴと言えば、あの守銭奴辺境伯のデシィヴか。良いうわさは余り聞かんが、まさか商人としても暗躍していたとは。」
「そうなれば、王が承認していないはずがない。国がらみでの行為であるということだ。なんてことだ。そんな国家が存在していいはずがない。ましてや大国だぞ」
ここが最善だと私は思った。
「これまでの話を聞いた中で、もう一度考えていただけますか」
「俺たちと一緒に闘ってくれ」
この問いかけに
「ああ、いい案ではないだろうか。何よりもそんな非人いことを平然と行うラージ王国が許せない」
と、ミドガル公爵。そして、
「それならば、対価としては申し分ない。
不死身の人間を持つというのは、国として拍がつくからな。
そして、非人道的な国家を制裁するという大義名分も申し分ないだろう。十分に宣戦布告ができる内容だろう。
本当に事実なのであるならばな…」
ミドー公爵が反論したが
「こんな場所で噓を付くことはないでしょう」
と、ミドガル公爵が丸め込んだ。
これで、交渉は成立ということであろうか。
私は、笑うのを我慢していたが、ベンは豪快な笑顔をうかべていた。
相変わらず常識がない男だ。
いや、ここでは私のほうが常識外れなのだろうか。指摘するようなものも居ないようであるし、私は転移してから世界の広さを知ったのであった。
「それでは、署名をよろしくお願いします。」
ベンと両公爵が契約書に署名をし、この秘密条約は無事に締結されたのであった。なんの蟠りもなく。だからこそ不自然に思えた。
それから数日がたち、クーデターまでの日時が一か月を切った。私は、いつも通りスモル共和国の首都ユナイトにて新しい一日を迎えようとしているところであった。ベンの声が聞こえた。
「おい、エイロウ、起きろ大変だ」
何事かと思ってベンについていくと、そこにはミドー公爵がいた。そして、公爵とは思えないほどみすぼらしい恰好をしていた。
「シビア=ミドーである。
覚えているだろうか。
本題から入ると私はもう公爵ではない。
ただの平民だ。パズル派に嵌められたのだ。
パズルは大公となり、今の大公国はパズル派の支配下にある。
つまり、前々の条約は棄却され、大公国は奴隷王国についたのだ。
私はここまで亡命できたのだが、捕まった同志も多数いる。
君たちの意見をさんざん否定した挙句、虫が良いと思うだろう。
しかし、一度決まった条約を棄却するのはどうにも良いものとは思えないのだ。どうか、私の話を聞いてくれないだろうか。」
と、言うのだ。
ミドー公爵が言うには、ミドガル公爵とラージ王国は元々賄賂によりつながっており、私たちが不死身の人間を交渉材料として連れてくることは、既に分かっていたらしい。
そして、条約を結ぶことによりSSTO側の機密情報を盗むことが目的だった。大義名分としては、不死身の人間など存在せず、ラージ王国は名誉棄損、ミドル大公国は騙されたということらしい。これもあのデシィヴが関わっているらしく腸が煮え返りそうな思いだった。道理で不死身であることをあまり疑わなかったのだ。
しかも、もうユナイトへと攻めてきているという。相手は私たちの特殊能力を全て把握しているのだろう。もう逃げることもできまい。私は、このことを皆に伝え、シーにはある頼み事をた。シーは驚いたような顔をしたが、決心を固めたようだった。もうできることと言えばこれぐらいのことしかないだろう。
「能力者はここに集まれ」
ラージ王国近衛騎士団団長は派手に破壊された建物の上に立ってこのように指示した。そして、
「魔法兵はこいつらに火魔法を最大火力でぶつけろ。手加減は無用だ。不死身のやつを見つけ出すのだ」
やはりこうなるのか、思った通りだ。私は騎士団長に負けないくらいに大きな声で叫んだ。
「シー、今だ。私の不死身をベンへと移すのだ。
これにてベンは二つ超能力を持つことになり、より抵抗しやすくなるだろう。そして、私たちがミドル王国へ伝えた通りの人間が不死身であれば、ラージ王国とミドガル大公の威信は低下するのだ」
シーは涙を浮かべながら能力を行使した。ベンが何か叫んでいたが、私には何を言っているのか分からない。何故なら、灼熱の業火の轟音によりベンの声と私の意識はかき消されていったのだ。
今までたくさんの痛みを味わった対価なのか暑さが丁度心地よい布団のように感じた。私は、死んでから人間らしいよい行動をしたのだろう。願わくば、元の場所に戻りたいがそれは過ぎた願いだ。
死ぬ前にこんなことを考えられるのは、この短い人生が素晴らしいものだったことを意味するのだ。
そう考えながら、私の躰と意識は灰になった。
「亜細亜大陸に行かないか、そこは未開拓の沢山の土地があってまるで夢の国らしいぞ。一緒に行こうではないか」
どういうことだ?
ここは私がアジア大陸へ向かう前の場所ではないか。
ここも一種の平行世界だろうか、いや違う。
きっと走馬灯だろう。それでも私は嬉しい。
最期に故郷を見ることが出来るとは、
神は最期まで私を見捨てていなかったのだ。
もちろんこう答えた。
「私は行かない。
「どうしてだよ」
友人は疑問を声に出し、私はこう返した。
「見知らぬ地を放浪するのは地獄だよ」
そしてまた口元に笑みが生まれた。
―終―
ただの一介の高校生の初期構成です
嗤わないで下さい
卑下しないで下さい
面白くない且つ不快に思われても
低評価または罵詈雑言を飛ばすなどということは
作者のメンタルに重大なダメージが入ることに繋がるため
頼むから止めて下さい




