7.異世界感皆無の異世界
数ある作品の中から、私の作品を見つけてくださり、ありがとうございます。
読んでいただける方に楽しんでもらえるよう頑張りますので、どうぞよろしくお願いします。
「で、どうしてシャクヤクさんは、僕の宿までついてきてしまったんでしょうか。」
「其方はわらわに野宿せいというのかえ?」
「えぇと、今日、初めて会ったシャクヤクさんの懐事情については存じ上げませんが、それにしても、僕のお部屋までついてくる理由が思いつかないのですが……。」
「何を言うておる。其方はわらわの胸を揉みしだいたじゃろう。つまりそういう関係ということじゃ。」
「えぇと、ちょっと待っていただけますか?話が大分飛躍してきているような気がするのですが、僕はシャクヤクさんにぶつかりはしました。それは申し訳ありませんでした。ですが、その後に昼食を御馳走させていただきました。私はそれで貸し借りはなしということになったと思っていましたが、その解釈で相違ありませんか?」
「そのとおりじゃ。」
「で、どうしてシャクヤクさんは、僕の宿までついてきてしまったんでしょうか。」
というやり取りを何回繰り返したのか忘れた辺りで、とうとうシャクヤクがキレた。
「其方は細かい男じゃのう。そんなことでは女子にもてぬぞ!」
「えぇと、大きなお世話です……。」
「そんなに言うのならわらわにも考えがあるぞえ。」
「そう言われましても……。」
「わらわは今から其方とパーティーを組んでやることにしたぞえ。其方は見たところ、剣士じゃろう。その剣、ただの剣ではないことくらい、わらわくらいになるとわかるのじゃ、それは竜鱗で出来とるじゃろう、それも、そんじょそこらの竜ではない。ババ様の鱗を使っているのではないのか?」
「ババ様?竜鱗?って、その前に、私剣士じゃありませんので。」
「なんじゃ、其方、それ程に立派な剣を携えておるのに、剣士ではないのか。」
「魔法使いです、一応。ていうか、問題はそこではない気がするんですが、竜の鱗を使った剣を見て、ババ様の鱗と言いましたよね。」
「そうじゃ。」
「ん?んん?シャクヤクさんの御婆さんは、この鱗の持ち主だった?」
「そうじゃと言っておろう。」
「あ、わかった、これはつまり、原材料になる鱗を何らかの方法を使って入手した、鱗の所有者だった、つまり、どこかのお金持ちのお孫さんということですね!」
「わらわのババ様に生えてる鱗を、何故わらわのババ様が金を出して買わねばならぬのじゃ。」
「ん?んん?んんん???それは、つまり、シャクヤクさんの御婆様が竜であるという意味になってしまいます。そして、その血縁者であるシャクヤクさんも竜であるということになりますので、どこかで情報の解釈に誤解があるのでは?」
「わらわのババ様は古竜じゃ、かつては金竜と呼ばれておった竜じゃ。そしてわらわはその金竜の卵から生まれた赤竜の卵から生まれたわらわじゃ。わらわも赤竜じゃ。」
「…………………………………………。」
「…………………………………………。」
「…………………………………………。」
「…………………………………………。」
「…………………………………………。」
「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!!!」
「なんじゃうるさいのう、わらわは竜じゃと言うとろうが、其方ら人間と違って耳も良いのじゃ、大声を出すでない。」
「あ、すいません、あまりの衝撃的事実に、理性を失いかけてしまいました。ていうか、シャクヤクさん竜なのに、人間の言葉がわかるんですね。いや、既にもうその段階じゃない、シャクヤクさん竜の姿に戻れたりするんですか?」
「あたりまえじゃろう。」
「え?じゃぁ、寝ている間にくしゃみをしたら竜になるとかないですか?」
「あるわけないじゃろうが、」
「じゃあ、竜ってそもそも、人の姿をしてそこらに普通にいるものなんですか?」
「とりあえず、わらわが知っている限りでは、竜谷から人化して出たのはわらわだけじゃな。」
「なぜにそんなレアケースを引き当てるんだ俺は……。」
「わかりました、シャクヤクさんとパーティーを組むことを了承します。そして、シャクヤクさんが竜であることも、百歩譲って受け入れましょう。ただし、実年齢については不明ですが、見た感じ若い女性に見えるシャクヤクさんが、若干16歳の元気な盛りである俺と同室で寝るということは許容範囲外ですので、とりあえず、シャクヤクさん用に部屋を借ります。そこで寝泊まりしてください。ただし、竜の姿に戻って宿壊したとかはなしでお願いします。おそらく一瞬で破産して、明日から路頭に迷うことになると思います。」
「失敬な、わらわをなんじゃと思うておる。部屋を壊したりなどせんわ。」
こうして俺は、人間一人と一匹の竜で、パーティーを組むことになった。
別にパーティーとしてギルドに申請しなければならないことはない、が、共同で依頼を受ける際には、申請しなくてはならないというルールがある。
その理由は色々とあるらしい……。
「晩飯はどこで喰うのじゃ?」
「晩御飯は店で食べるのではなくて、買ったものを持ち帰って宿で食べようと思います。俺はいまいちこの辺りのお金の価値を理解していないので、細々とお金を使ってみて、1ミルの価値がいかほどか、見極めたいと思っています。」
「面倒くさい事をするんじゃのう。金の価値などどこも変わらんじゃろうに。」
「まぁ、そうなんでしょうけども、ただ、地域差による物価の変動は世の常ですから。好きなものを購入していただいてもかまいませんが、俺達はパーティーということなので、シャクヤクさんの使ったお金は控えておいて、依頼の報酬がでてからしっかり回収させていただきますからね。」
「フィンは本当に細かい男じゃのう。わらわが断言してやる、お前は女子にもてん!」
「だから、大きなお世話ですって……。」
俺達は、街の商業施設をまわって、今夜の食事を買ったり、必要そうなものを買ったりしながら、街の中をぶらぶらと散策して歩いた。
ここで重要なのが、なんと、この世界には“おにぎり”や“お惣菜”などのデパ地下定番アイテムが豊富に揃っていて、おにぎりについては、中の具材にもよるが、大体1個2ミルから3ミル程度。
お惣菜も内容によって差はあれど、一人前で大体5ミルから10ミルの範囲内で購入することが出来た。
これで缶ビールでもあったら、最高なのにと思いつつも、流石に缶ビールはないだろうと思っていたら、売っていた、しかもキンキンに冷えたのが……。
この世界はいったいどうなっているんだろう……。
この世界は日本人が作ったとでも言うのだろうか。
普通異世界ファンタジーって、チートスキルを駆使して、米やら味噌やら醤油やらを必死に作って感動するとか、そういうシーンが必ずあると思うのだが、この世界では最初からそれらの日本人に欠かせない食文化が定着しているようで、買ってきたお惣菜も、とんかつ、千切りキャベツっぽいもの、おにぎり(シャケっぽいもの入り)、キュウリの浅漬けっぽいもの、サバの味噌煮っぽいもの、食後のデザートにと、たい焼きを2個、缶ビール×6で26ミル。
これはもう1ミル100円で間違いない!今後は1ミルを100円だと思って生きていこうと決めた。
ちなみにシャクヤクさんは俺のほぼ倍のお金を使っていた。
俺達は、一通りお店も見て回ったので、宿に戻ることにして、来た道を引き返し、二人で荷物を抱えて歩いていると、何やら気配を感じるので、後ろを振り返るも誰もいない。
気のせいかと、何の気なしに視線を足元に振ると、そこにはなぜか、小さな5歳くらいの、青い髪の子供がいて、どうやら俺達についてきてしまっていたらしく、ズボンの裾を掴んでジーっと見つめていた。
子供に色々とありていの事を尋ねるも、なかなかどうして答えてはくれない。
と、俺達もほとほと困り果てていたところで、その子のお腹が「ぐ~っ」と鳴った。
親のことを聞いても、家の事を聞いても、頷きすらしなかった青髪の子供だったが、たい焼きを見せて、食べるかと尋ねると、すごい勢いで頭を上下に振り、全力で肯定してきたので、たい焼きを一つ手渡すと、これまたものすごい勢いで食べてしまった。
その後もおにぎり、たい焼きと、俺の夕食の主食までも平らげてしまったところで、やっと満足したのか、聞き取れるかどうかの声で一言だけ「おなかいっぱい。」と言った。(なんか今日は腹ペコの呪いでもかかってるんだろうか……。)
俺は周囲の店の店員に、この子のことを訪ね歩くも、誰も初めて見た子だと言うので、迷子を預かってくれるような場所はないかと尋ねると、今帰ってきた道を、引き返して、さらに少し進んだところに、孤児院を兼ねた児童相談所があると言われた。
児童相談所って、もう完全に日本じゃないか……。
言われてみれば、この商業施設の区画割にしてみても、非常に効率が良く、とても買い物がしやすい構造になっていて、最早郊外型のショッピングモールに来ている感覚だった。
まぁ、そんなことは置いておいて、この子供をこのまま放置するなんてことは出来ないので、俺達は、この子を児童相談所に連れていくことにした。(最早児相で良い気がしてきた……。)
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