60.鍵はファクトチェンジにあり
数ある作品の中から、私の作品を見つけてくださり、ありがとうございます。
読んでいただける方に楽しんでもらえるよう頑張りますので、どうぞよろしくお願いします。
そろそろこのお話も終わりに向かいつつあります、その後の事も考えてはおりますが、今は完結に向けて全力疾走したいと思います。
最後までお付き合いいただければ幸いです。
「ようこそ神界へ。」
俺達は、謎の船がマスターシェラの言葉によって起動したことを受け、船を発進させたつもりでいたのだが、アレは船が飛ぶのではなく、船の中が転移装置のような役割を果たしているようだった。
そして、今、背後から声をかけてきたのは、元俺の先輩で、元俺の師匠の姉で、現在は神をやっている絶世の美女。
「転移させるだけで、あの船の巨躯は必要でした?」
「まぁ、ノリというか、中に詰め込む術式をカモフラージュしてたら、いつの間にか大きくなっちゃって。シェラ、元気にしてた?」
「お姉さま、もう、何なんですか。ちょっとの間見なかったくらいに言わないで下さい。あれから、700年以上、時が経ってるんですよ。周りの皆も次々と死んでしまって、最後にケイラが死んでからも、もう500年以上経ってしまって、その間、私、一人で戦い続けていたんですのよ。」
「ゴメンね、シェラ、寂しかったよね。一人でよく頑張ってくれたわね。」
「シェラ、相変わらずお姉さまには甘えん坊さんね。」
「そんなことありませんわって、ケイラ?」
「シェラ、久しぶりだね。」
マスターシェラは、何も言わずにケイラと呼ばれる天使様を抱きしめた。
これほどまでに動揺している顔の師匠を見たのは、初めてだと思う。
そして、これほどまでに嬉しそうな顔をしている師匠を見るのも、多分初めてだ。
「ケイラもね、死んだ時にもう一度地上でやり直すか聞いたんだけど、ここにいるって言うから、天使になってもらって、ここで暮らしてもらっていたのよ。他にもね、ベルカーや、メイベル、マリア、ミラ、ニャカ達も、天使となってここで暮らしているわ。」
「私だけ一人だったんですか。」
「あなたもここで暮らす?地上のことは、もう大丈夫でしょう。ねぇ、晶君、いや、もうフィン君でも大丈夫そうね。」
「えぇ、そうですね。それに、神獣の件も、もう終わらせてくれるんですよね?」
「そうね、ただ、“はいこれでおしまい”というわけにはいかないわよ。今もなお地上に降りる神獣達は、皆冥界産の神獣なのよ。つまり、冥界と天界の間にある結界を強化しなければならないのだけれど、そこが一つ目の問題。次は、あの世界が、神の侵攻のターゲットであることだけど、そこについては大分解消されつつはある。そもそも私が始めたことだから、そこについては責任を感じてるんだけど、神様になっちゃうと、無暗に肩入れも出来ないから、どうしようかと思っていたけど、丁度良い時にフィンが現れてくれて助かったよ。本来なら、時間をかけて魂の見極めをしないといけないんだけど、晶の事はよく知ってるしね。うってつけの人選ということで。でも、勘違いしないでほしいんだけど、私がミスしたとかじゃないからね。君の死は。」
「先輩みたいに、ミスで殺されたんじゃたまりませんが、まぁ、でも先輩がっていうなら仕方ないので、またあそこの蕎麦屋のカツ丼で手を打ちますよ。」
「あぁ、もしかして、あそこ?伏古のインター降りてすぐの?」
「そうそう、あそこのカツ丼、先輩におごってもらってから、もうあそこ以外でカツ丼食えなくなりましたよ。」
「あはははは、美味しかったよね、あそこのカツ丼。」
「まさか、神様と桝屋のカツ丼談義をするとは、思いもしませんでしたけどね。」
「ははははは。」
神界の白い空間に、笑い声が響いた。
俺はふと、あの店のカウンター席を思い出す。
昼時は混んでいて、先輩と並んで座るのも一苦労だった。
それでも、あのカツ丼の味は、今でも記憶に残っている。
多分、他の人が食べてもあそこのカツ丼はうまいと思うのではないかと思うが、それは人それぞれなので、万人がそうとは限らないが、あの出汁の味と量が絶妙なバランスで、カツの柔らかさと歯ごたえのバランスがまた絶妙、極めつけは卵のとじ具合がこれまた絶妙だった。
当時は、カツ丼喰うなら桝屋で、天丼喰うなら山田、カレーはゲーセン横の名前忘れたけど、平日昼のみの営業の店で、全部乗せカレー一択だったが、ラーメンは定まらなかったな……。
あぁ、俺今神界にいるのに、カツ丼だのラーメンだのって、脱線っぷりが激しすぎる……。
白い世界に、静かな余韻が流れ、神様は俺を見ながら微笑んでいる、というよりは、ニヤニヤしている……。
そういえば、神様って心の中、覗けるんだっけか……。
シェラも、少し離れた場所でケイラと話し込んでいた500年ぶりくらいらしいから、それは積もる話もあるだろう。
すると、神様が、俺を真っすぐに見つめて、まじめな顔で話し始めた。
「フィン、君に頼みたいことがあるの。それは、全ての世界にとって、とても重要なことなんだけど。今の君には酷な話だとは思う。でも、やれるのは君しかいない。君が辛い思いをすることは目に見えているけど、それでも君に頼みたい。この世界の“逸脱”を、“必然”へと変える役割を。」
「それって、まさかとは思いますが、神様になるってことですか?」
「えぇ、そうよ。君ならきっと、世界を壊さずに守れる。」
俺は笑った。
そして、静かに頷いた。
「俺が神様になるとか、全く想像つかない話で、ちょっと現実味がないというか……。 ただ、神様になるってことは、この神界に留まるってことなんですよね?」
「えぇ。」
「せっかく手にした幸せを、家族を、仲間を、大切なものを全部、捨てろってことなんですよね……。」
「えぇ。」
「でも、その大切なもの全てを守るためには、俺がここに留まる以外、方法はないと……。」
「ごめんなさい……。」
「お姉さま、私ではどうでしょう。」
「シェラ、確かに貴女は自らの力で、人が到底たどり着けない頂まで上り詰めたことは認めるわ。でもね、それでも、貴女にファクトチェンジは使えないでしょ。これは、人の身でありながら、神の御技を行使するに至った者。フィンにしかできないことなの。」
「うわ、俺、初手からやらかしてたのか。だからあの時笑ったんですね。」
「笑ったという表現が適切かどうかはわからないけど、でも、嬉しい気持ちになったというなら、それは事実ね。運命を感じたのよ。」
「勘弁してくださいよ。こんな面倒事に巻き込まれるくらいなら、もう少し控え目なお願いにしたのに。」
「十分控えめだと思うわよ。私が転生した時は、神様にマウントとって、ゴリゴリに押し込んでのファクトチェンジゲットだったからね。でも、フィンが転生する時だって、限定付きのファクトチェンジだからと思って、ライブラを付けてあげたじゃない。」
「まぁ、確かにライブラさんにはお世話になりましたよ、なんならライブラさんがあれば、ファクトチェンジ要らなかった説までありますからね。そのくらいライブラさんには色々と助けてもらいました。 よし、わかりました。別れを告げる時間くらいはもらえるんですよね?」
「えぇ、もちろんよ。」
「俺、もうここへは転移で来れますよね、一度来たんだし。」
「大丈夫よ。」
「じゃあ、レイアとミシャ、あと、仲間達にも色々としてやりたいこともあるので、全部終わったら戻ってきます。」
「わかった、待ってるわ。」
「フィン、その、ゴメンなさいね、私、結局あなたに何もしてあげられてないですわよね……。」
「やめてください師匠。あ、そうだ!師匠もここで暮らすんですよね?」
「えぇ、そのつもりですわ。」
「なら、地上に残した師匠の財産とかないんですか?」
「ありますわね。」
「それ、ください。」
「かまいませんけど、あなたもここで暮らすのでは?」
「はい、まぁ、俺の残してきた財産もまぁまぁだとは思いますが、万が一の保険として、師匠の資産もミシャとレイアに残してやれば、まぁ、死ぬまで困ることも無いのかなと。」
「でしたら、ムーシルト城の裏手の森の奥に、使われていない小屋があるのですが、その小屋の地下に色々とございますので、それを使うとよろしいですわ。その一帯の土地の権利書もそこに一緒に置いておりますので、そこに住居を構えてあげればよいのでは?あなたがいなくなるのであれば、結界もいつまで持つかわかりませんし、城壁の中で暮らす方がよろしいですわ。」
「それは助かります、ありがとうございます師匠。」
「シェラ、それって、昔私達が住んでいた城裏の社宅の奥に昔からあった、あのボロ屋のこと?」
「えぇ、そうですわ。よく覚えておいでですわね、お姉さま。」
「それは覚えてるわよ、貴女達二人、よくあのボロ小屋で遊んできて、マリアやミラに怒られてたじゃない、ドレスを汚したって。」
「そ、そんなこともございましたわね……。」
「あ、その小屋の地下の更に地下に、私が隠した装備があるよ。シェラの弟子の家族や仲間なら、あげるよ、使ってよ。」
「よろしいんですか?」
「うん、まぁ、古いけど、なかなかの効果を持ったものだし、きっと役立つと思うよ。」
「ケイラ様、ありがとうございます。」
「様はやめてよ、気持ち悪い、背中がムズムズするよw」
「では、俺はこれで、失礼します。」
俺は転移で神界から地上へと戻った。
屋敷から少し離れた場所に着地した俺は、ムーシルトの城壁と、自分の屋敷を交互に見渡した。
おそらく、最後になるであろう景色を、目に焼き付けたいと思いながら、静かに、見渡したのだった。
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