59.それぞれの収斂
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「それにしても、こんな巨大な船など、私本当に見た記憶はありませんわ。この船の起動に私の言葉が必要というのは、どうにも解せませんわね。」
「そうは言っても、ライブラさんが自信をもって師匠だと言い張っておりましたので、なんとか思い出すなり思いつくなりしていただかないと……。」
「これは認識阻害の結界だけのようですわね。」
「えぇ、最初は防御結界も重ねがけしようかとも思ったんですが、こんなデカい船を持ち運べる人もいないでしょうし、そもそも見えないでしょうし、うちの敷地内に置いてあるので、屋敷への防御結界だけでも十分だろう、ということです。」
「そうですわね、そもそも動かないのであれば、持って行けたとしても、巨大なオブジェくらいにしかならないでしょうしね。」
「とりあえず、中に入ってみませんか?」
「そういたしましょうか。」
俺は師匠を船の中に案内すると、船底から順番に状態を確認しつつ、甲板に向かって上がっていった。
「しかし、船のような形をしてはおりますが、船底部に出入口が設けられているあたり、海上を航行するつもりは一切ないようですわね。」
「あるいは、起動すれば、魔法による結界のようなものが発動する可能性もありますが、そもそもが神の領域に至る船らしいので、空を飛ぶつもり満々なんじゃないでしょうかね。」
「それにしても、見つかりませんわね。何か言葉を必要としているとしても、それならば、相応の設備を用意しているはずではございませんの?」
「そうなんですよ、俺もこの船、隅から隅まで何度も確認しているんですが、それっぽい所が見当たらないんですよね。っていうか、見ての通り、甲板までの階段があるくらいで、他には設備も何もないじゃないですか……。」
「まったくもう、どうせ、こんな船を用意したのだって、お姉さまの仕業なのでしょうけど、いったい何を考えてらっしゃるのか……。」
師匠がぶつくさと愚痴を漏らす、すると、突然船の中全体が、ぼんやりと鈍い光を発し、何もない巨大な空洞であった船の中に、内燃機関を模した半透明の3D構造体が現れた。
だが、それは現実の機械とは異なり、物理的な質量を持っているようには到底見えず、空間に浮かぶ光の彫刻のようだった。
師匠はその光の中心に目を凝らし、眉間に皺を寄せた。
「これは……幻影のように見えますけど、物理的な干渉が可能な構造物ですわね。」
「物理干渉?」
「えぇ。お姉さまがよく使っていた術式の一つに、魔法によって魔素を物質化するというものがございましたが、その魔法によって作られた構造物と見て、間違いありませんわ。物理的なキーではなく、記憶に反応する装置。つまり、私が何か思い出したことを、発言することで、船が何かしらの反応をする仕組みですの。」
「なるほど……。じゃあ、やはり師匠の“神様との記憶”が鍵ってことなんですね。」
「そういうことになりますわね。まったくもう、お姉さまったら……。」
師匠が再びぶつくさと呟いた瞬間、船内の構造体がゆっくりと回転を始めた。
その動きは、まるで師匠の思考に呼応しているかのようだった。
「お姉さまが、私に残した言葉……。そういえば、昔、船の話をしておりましたわ。豪華客船、そうですわ、そんなことを言っておりましたわ。」
師匠は目を閉じ、静かに言葉を紡いだ。
「いつか、ケイラとシェラと私の三人で、豪華客船にのって、ゆっくりと船旅がしたいわね。楽しいし、美味しい物も沢山食べられるわよ。と。」
その瞬間、船内の光が強くなり、構造体の中心に、塔の壁画に似た文様が浮かび上がった。
《起動条件確認。目的地座標設定確認を開始します。》
《目的地座標確認異常なし。》
《出発準備完了。》
船内に響く、無機質な声。
俺は師匠と顔を見合わせた。
「……やっぱり、師匠じゃないとダメだったみたいですね。」
「まったくもう……お姉さまったら、どこまで私を振り回すおつもりなのかしら。」
船内の壁面に、光の線が走り始める。
それはまるで、塔の壁画が船の内部に転写されていくようで、それらが船の構造に組み込まれ、電子機器の基盤のような模様を浮かび上がらせた。
「師匠、これって……。」
「えぇ、これはもう、旅立ちの準備が整ったということでよろしいんじゃなくて。」
船内の空気が変わった。
まるで、世界そのものがこの船の起動を察知したかのように、空間がわずかに震え、外の空が、わずかに色を変える。
「このそらの色って、明らかに警告色のような気がするんですが、大丈夫ですかね、コレ……。」
「えぇ、これは……“位相の揺らぎ”ですわ。神獣が現れる前兆ではなく、世界が新たな均衡を模索している証。」
「つまり、船の起動と世界の位相に関連性があるということですか?」
「そうなりますわね。そもそも、塔が神獣の受け皿になっている時点で疑うべきでしたわ。つまり、お姉さまは、塔が生まれることすら予見していたということですの?まったくもう、あの方の頭の構造はいったいどうなっているのでしょう……。早い話、これは、世界の構造そのものを再構築する儀式ということですわ。」
「じゃあ、次に向かう場所は……」
「当然、神界!」
「当然この船を手にし、塔を建てた俺が行く必要があると……。」
「えぇ。そして、あなたがこの神獣との戦いに、終止符を打つカギになるということですわ。世界の“逸脱”を“必然”へと変える時が来たということですわね。」
俺は船の甲板に立ち、遠くを見渡した。
この船が向かう先は、まだ誰も知らない場所。
神の意志によって成り立つ神界。
「師匠、準備はいいですか?」
「えぇ、いつでも。」
「じゃあ、行きましょうか。」
…………………………………。
…………………………………。
…………………………………。
「師匠、これ絶対しーん……。ってやつですけど、何か出発の為の言葉が必要なんじゃ?」
「そんなこと言われましても……。あっ!いやでも……。」
「何でもいいですから、思いつくもの全部行っちゃいましょう!」
「出発進行!」
シェラは顔を真っ赤にして俯きながら言った。
すると、船は明らかに反応を示していた。
《転移シーケンス起動確認、30秒後に転移を開始します。》
俺は思わずミシャが今より幼かったころに遊んだ時の、彼女の笑顔を思い浮かべた。
「ずいぶんと、また、ベタな言葉ですが……。」
「仕方ないじゃありませんの、私とお姉さまが一緒に暮らしていたのは、私が子供の頃なのですから。」
「ところで師匠、今、転移って言ってましたけど、これってちゃんとここに、帰ってこれますよね?」
「えぇ、もちろんですわ。お姉さまが設計したシステムであれば。帰還の術式も、きっとどこかに隠されておりますわ。」
「じゃあ、信じて行きましょう。」
「えぇ、信じて。」
船全体が光に包まれる。
そして、俺とシェラの足元に、蛍光ピンクに紫を混ぜたような色の魔法陣が浮かびあがり、俺達を眩い光に包む。
目を開けると、俺達二人は白い世界に立っていた。
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