52.あ・お・は・る・か・よ!
数ある作品の中から、私の作品を見つけてくださり、ありがとうございます。
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煉獄カリン塔20階ラウンジ。
雲海は、いつもと同じようにどこまでも広がっていた。
しかし、誰もがその美しい光景など、この場には存在していないかのように、窓の外に気を取られている者などいなかった……。
レイアは、ソファに横たわったまま、ピクリとも動こうとはしない。
メリルの回復魔法で傷を塞いだことで、致死量の出血は避けられ、その後の俺のクリエイトによる造血処置で、命は繋ぎ止められ、回復しているはずだった。
しかし、一日経っても意識は戻っていない……。
呼吸も脈も問題はない、熱も昨日は少し高めだったようだが、今は平熱にまで下がったように感じるが、それでも、彼女は目を開けない。
「……大丈夫、だよニャ?」
プルが、誰にともなく呟いた。
その問いに、誰も答えることが出来なかったが、その代わり、メリルが静かに魔力で癒し続けていた。
俺は、レイアの隣に座っていた。
何も言わず、何も考えず、ただ、彼女の顔を見守ろうとしたが、つい初めて会った時の事が脳裏をよぎる……。
「大丈夫、大丈夫、大丈夫……。」
俺は、自らの不安を掻き消そうと、念じ続けた。
昨日の戦闘の記憶が、頭の中で何度もループする。
バルグルの突進、空中での軌道変更、避けたはずの一撃、そして、赤く舞い散ったレイアの血……。
「フィン君……。」
リースが声をかけてきたが、俺は、顔を上げなかった。
すると、彼女は俺の肩にそっと手をおいて、優しく諭すように言った。
「レイアは大丈夫、あの時だって、ちゃんと戻ってきたじゃない。フィン君がレイアの命を繋ぎとめてくれたんだよ。もっと、あの娘の事も、フィン君自身の事も、信じてあげようよ。」
「そう、か……。そうだよな。レイアは強い、あの時みたいに、必ず戻ってくる。俺の魔法も知識も、伊達じゃない……。」
「そうだよ、フィン君凄いんだよ。あの娘、フィン君がいなかったら、今もう、この世にはいなかったかもしれないんだから、フィン君もレイアも凄いんだから!」
リースの両の瞳には、大粒の涙が浮かんでいたが、その涙を零すまいと、必死に耐えているように見えた。
シャクヤクさんは、何も言わず、動かず、ただ、窓の外を眺めているように見えた。
「……これ、見てください。」
メリルが、何かを差し出してきた。
細い、透明な糸。
空気に揺れて、光を反射していた。
「バルグルがいた場所の柱に、これが残っていました。多分、これで軌道を変えていたんですよね。」
俺は、それを受け取る。
自分の髪の毛よりもまだ細くて、透明な糸。
触っているという感触など、ほとんどなく、それほどに、細い。
「あぁ、これがバルグルの糸だ。昨日は見せなかったが、アイツはこれを周囲の柱に絡め、敵をどんどんと囲い込み、最終的には柱に縛り付け、身動きが取れなくなってから、ゆっくりと敵を串刺しにするんだよ。」
「嫌な戦い方……。」
沈黙が、再びラウンジを包んだ。
「フィン君。」
リースが、もう一度声をかけてきた。
「レイアは、きっともうすぐ目を覚ますよ。」
「あぁ……。」
「それに、あの時、フィン君がいなかったら、誰も生き残れなかった。」
「……そうかもな。」
でも、俺は知っている。
あの時、俺は“怒り”で我を忘れていた……。
仲間を“守るため”ではなく、レイアを壊されたことへの“意趣返し”。
それが、俺の中に、重く圧し掛かっていた……。
「……俺、大分取り乱してたよな。」
「うん。でも、良かったと思うよ。レイアの為にあんなに怒ってくれて、私は嬉しかった。」
「そうか……。」
レイアの指が、少しだけ動いた。
メリルがすぐに駆け寄り、興奮したような大きな声で言った。
「今、レイアさんの指が動きました!意識、戻るかもしれません。」
皆が、少しだけ顔を上げた。
プルが両耳をピンと立てて「ニャ……」と小さく鳴いた。
シャクヤクさんは、窓から目を離し、こちらを見ている。
俺は、レイアの顔を見た。
その瞼が、ゆっくりと開いた。
「……フィン君……?」
その声は、かすれていた。
でも、確かに、彼女の声だった。
「ああ。俺だ。皆もここにいる。」
「……ごめん、私……」
「謝らなくて良い。生きていてくれただけで十分だよ。」
レイアは、少しだけ笑った。
その笑顔は、昨日見せたのと変わらないものだった。
俺は、何も言わず、彼女の右手をそっと握ると、レイアもその握った手を包み込むように、左手を乗せた。
すると、リースが俺達二人の間に入り、両腕でがっちりと、抱きしめる。
「もう、あんまり心配かけるな!」
「ごめんね、リース……。」
「フィン君、一度帰ろう。私達はまだ、準備が足りてなかったんだ。」
「あぁ、そうだな、そうしよう。帰って休もう。焦る必要なんてないんだしな。」
屋敷に戻った俺達は、入浴を済ませ、それぞれ戦利品の整理や、夕食の準備、などをしていた。
俺は、自室で休んでいるレイアの容体を確認するため、レイアの部屋へと向かった。
俺は、レイアの部屋の前まで来ると、ノックをした。
少しの間をおいて、中から返事が聞こえた。
「はい。」
「フィンだ、入るぞ。」
「どうぞ。」
俺はレイアの部屋に入ると、ベッドで横になっているレイアの横に座った。
「具合はどうだ?痛むところはない?」
レイアは、俺を静かに見つめて言った。
「少し、傷口が痛むというか、なんか突っ張るような感じがする。起き上がろうとすると、少し痛むかも。」
「そうか、メリルのヒールじゃ、うまく付かなかったのかもな。その、もし嫌じゃなければ、傷口を見せてくれないか。いや、もちろん、嫌なら、メリルか誰かを呼んでくる。」
「大丈夫、フィン君だったら、良いよ。」
「そ、そうか……。じゃあ、少し見せてもらうぞ。」
そう言うと、レイアは自分で、胸から腹にかけて袈裟斬りに斬られた傷を見せる為に、パジャマのボタンとゆっくりと外した。
「ゴメンな、少し触るぞ。」
「うん。」
「なんか、傷の塞がりが中途半端かもしれないな。少し魔力を込めるぞ。あ、ここじゃないか、痛いの。」
「うん、ていうか、フィン君、目開けて、見ても良いよ。」
「そ、そうか……。じゃあゴメン、目開けるな。」
「どう?綺麗?」
「あぁ、すごく綺麗だ……。」
「傷のことだよ?」
「あ、あぁ、そうだよな、そっちだよな。う、うん、わかってる。あ、ここ、少し骨が再生しきれていないのかもしれない、違和感だったり、痛みはないか?」
「うん、少し痛いかも。」
「よし、今すぐ治してやるからな。これで良し。どうだ?」
俺が治療を終えて、顔を上げると、レイアはいきなり俺に抱き着いてきた。
「フィン君には助けられてばかりだね。フィン君の隣に立てるように頑張ったんだけどな。まだ、足りなかったみたい……。」
「焦らなくて良い、自分を追い込みすぎるな。それに、女の子を守れるくらいの男でいられるのも、悪いものでもないんだよ。恰好つけさせろよ。」
「うん、わかった……。」
自分自身で、タコのように赤くなった顔を見ずに済んだのは、不幸中の幸いとでも言うのだろうか。
でも、この瞬間を、俺は不幸だとは感じられそうもないだろう……。
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