5.海戦だと思ったら空戦だった件
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俺は今、ウェザリア大陸の北西部、パラディオールにあるミヤビという街から西に100キロ程進んだ辺りにある、シャデリーという港町に立っている。
この街は、かつては大陸を渡る人にとって、重要な渡航手段である海路の拠点として栄えていたが、今では転移魔法陣の普及により、その役目を終え、漁業を中心とした一次産業の街として知られている。
そういうわけで、この街の特産品でもある、海鮮料理の店が軒を並べる一角に来ている。
それでは早速、自慢の料理に舌鼓を打つこととしよう……。
的な話だったら本当に良かったんだが、残念ながら俺は今、眼前に広がる大海原の、何処にいるのかもわからない謎の魔物を討伐すべく、とある漁師の漁船に乗り込もうとしていた。
いや、良いんだよ、魔物の討伐はいずれやってみようとは思ってたし、最初の討伐がAランクパーティー推奨の高難易度の依頼でも良いさ。
でもね、人間には得手不得手があってだね、俺はめっぽう船に弱いんだ、そう、船酔いマイスターなのさ。
なので、俺はこれから魔物と戦って死ぬんじゃないんだよ、船酔いに殺されに行くのさ……。
まぁ、ここに来る前に、一通りライブラとの事前ミーティングはしっかりやってきたし、必要になりそうな魔法も一通り覚えたし、その過程で一つ素晴らしい魔法も覚えたよ。
その魔法はその構造に至るまでのイメージが出来さえすれば、大概の物は作れるという超便利魔法で、使い方によっては、最強チートにもなりかねない程の優れた魔法だと俺は信じ切っている。
そして、今の俺は、偶然にも漁師さんと同じく、ラバという素材で出来た胴付き長靴のような物を着込んでいる。これは、ライブラさんに教えてもらったのだが、この世界には、ラバという木があって、その樹液が、ほぼゴムと同じ性質とのことだったので、ラバの樹液を原材料に作った胴付き長靴で、絶縁バッチリ、どれだけ雷魔法を使用しても、俺は感電しないように対策されているのだ。
そして、事前の漁師さん達に対する入念な聞き込みによって、スフィラという魔物は海面を歩くように移動はするけど、飛んだことはないとのことだったので、スフィラが現れたら、氷魔法で矢倉のような足場を作って、高い所から一方的に攻撃をするという、完璧すぎる作戦も立ててあり、尚且つ、足場はトゲトゲにしておいて、普通ならこれで近づかないはずだが、その予想を裏切って足場に取りつこうとした場合、足場が急激に冷却されて、スフィラごと、周囲一帯を凍り付かせるというトラップまでも考案してあるので、スフィラ対策に関しては万全のはずだが、やはり問題は俺の船酔いということになる。
船に酔う人はいるだろう、船酔いで嘔吐する人もいるし、なんなら吐いてしまえば楽だよというアドバイスをドヤ顔でする人だっているが、問題はそこじゃないのだ!
俺は酔うのもそうだが、嘔吐という行為自体に抵抗があるのだ!
という話をライブラさんに力説したら、船に乗っているように装って、実は飛行魔法で飛んで移動すれば良いという提案を受けたが、それも却下。
三半規管への刺激という側面ももちろんある、しかし、俺は船と海面から漂う潮と魚の生臭さ、あれだけで酔えるのだよ!
ということで、苦肉の策として編み出した手法が、漁師さんを囮にして、俺は上空を移動、スフィラらしき影が現れたら、急降下して、スフィラの周囲を氷魔法で取り囲み、スフィラの行動範囲を制限すると同時に、氷足場を作ってそこに降り立ち、スフィラを一方的に攻撃して撃破するという結論に至った。(自己完結)
もしこれが、勇者とか、英雄的な扱いの人であれば、そんな決断はしないのだろう。
しかし、俺は異世界初心者の初魔物討伐イベントなので、そんなプライドなど1ミリもない。
ということで、漁師さんにお願いして、船を出して貰えるようお願いし、なんとか引き受けてくれる人を見つけることが出来た。
引き受けてくれた漁師さんは、漁師というだけあって、屈強な体躯に威勢の良さを兼ね備えていて、俺なんかよりもよっぽど魔物討伐が似合いそうなオーラを漂わせていた。
そして、いよいよ魔物をおびき寄せて討伐と相成ったわけだが、俺は一応分類としては魔法使いに当てはまるはずなのに、杖もなく、着ているのは胴付き長靴に雨合羽、万が一の時の護身用として、神様から預かった剣を帯剣し、なんとも言えない不格好な装いとなったが、それでもライブラさんが絶対いける的なことを言うので、それを信じて立ち向かうことにした。
「ねぇライブラ、漁師さんめっちゃはりきってるけど、あんなに先行して大丈夫かな。」
[告:現時点で周囲に強力な魔物の反応はありません。
つまり、現段階では、索敵範囲内に強力な魔物が存在していないことになります。
突然転移魔法等で出現する可能性があるので注意してください。]
「えぇ!?海の中にいるんじゃないの?」
[告:その推測自体が誤りである可能性があります。]
「マジかよ、どうすんだよ、練りに練った作戦が通用しないってこと?」
[告:回避してください。]
「え!?どこ!?」
[告:頭上です、2秒後に接敵します。]
「え?」
俺は思わず上を見上げると、そこには頭から若芽を生やしたような美人のお姉さんが上空から急速落下してくるのが見えた。
俺はなんとか回避して、海面で船を走らせる漁師さんに向かって、大声で逃げるように言うと、魔物が落下して、大きな水柱が上がる辺りを注視した。
すると次の瞬間、その水柱の中心から、長く鋭い爪を交差して構えるスフィラが飛び上がってこちらに向かってくるのが見えた。
「飛ばないって言ってたの誰だよ!」
俺は再び回避するが、スフィラが爪で斬りかかり、俺の雨合羽を斬り割いた。
ほんの少し薄皮一枚に到達したその傷に、ピリピリとした痛みを感じたので、俺は一瞬毒を疑った。
[告;海水の塩分による痛みと推測します。]
そんな俺の思考を読んで、ライブラさんが答えを教えてくれる。
声に出していたら、ちょっと恥ずかしかったかもしれない……。
スフィラは、俺が今いる高度くらいまではジャンプして到達できるらしかったが、どうやら飛行することは出来ないらしく、飛んだ後は一度海面に着水する必要があるようで、俺に攻撃を躱されると、海面に落下し、再び俺目掛けて飛びあがってくるという攻撃を繰り返していた。
「なんとなくパターンは読めたけど、あの爪厄介だな……。」
[告:帯剣している“黄竜剣”の使用を推奨します。]
「あぁ、なるほど。」
俺は海面を凝視して、スフィラが飛び上がってくるタイミングを読もうと努めた。
何度か回避を繰り返しているうちに、スフィラが俺目掛けて飛びあがってくる時の、高度が一定であることが分かったので、一度、それ以上の高度まで上昇してみることにした。
すると、スフィラは俺目掛けて飛びあがってきた物の、俺に届かずに落下を始めたので、チャンスとばかりに、落下するスフィラを急降下して追いかけ、首筋から袈裟斬りに胴体を斬った。
するとスフィラを斬った切り口が、電気がショートした時のように、《バチっ!》と音を
たてると、斬られたスフィラは黒い霧状になって霧散していった。
消滅したスフィラから、何か宝石のような物と、宝箱が落ちていくのが見えたが、このまま追いかけても、手が届くころには海中だろうと諦めようとすると。
[告:ドロップアイテムを回収しますか。]
とライブラさんが言うので、俺は大声で「拾ってくれぇ~!」と叫んだ。
[告:ドロップアイテムを回収しました。
リストの確認をしますか?]
と言われたが、今じゃないと思ったので、「陸にもどってからぁ~!」
と言うと、それ以降ライブラさんは黙ってしまったが、俺は俺でそれどころではなく、飛行魔法のコントロールに不馴れな俺は、そのまま海面に激突すれすれのところで、なんとか停止することが出来た。
陸に戻ると、漁師の皆さんがお出迎えしてくれた。
口々にありがとうとか、よくやったななどと褒め称えてくれたのは、素直に嬉しかった。
転生する前、日本でサラリーマンをやっていた頃は、これほどまでに誰かに賞賛された経験などなく、ましてや、自分自身で何かを達成したという実感を抱いたことも無かった俺は、これ程までに素直な感情を持っていたのかと、改めて気づかされたような気がした。
ムーシルトのギルド支部長ガーランドには、依頼の期限は3日と言われており、達成したらすぐに報告するよう言われていたが、漁師の皆さんがスフィラ討伐のお祝いに、今日は驕りだと、海鮮料理をたらふく用意してくれたので、ムーシルトに戻るのは、明日にすることに決めたのだった。
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