45.煉獄カリン塔は甘くない……。
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ワタクシ、只今“煉獄カリン塔”の20階ラウンジにて、夕日に染まる雲海を眺めております。
なんとも美しい光景が広まっております。
風は穏やかで、空気は澄んでいて、遠くには雷雲が走り、下界の天候が一望できる。
このフロアは、戦闘も罠もない完全な安全地帯──
ただ、空を見下ろし、雲を眺め、優雅な気持ちになって、殺伐モードから気持ちを切り替えるための場所。
えぇ、何故こんなところで寛いでいるのかというと、先程まではね、48階にいたんですよ。
えぇ、厳しい修行を繰り広げておりましたよ。
でもね、アホほどキツいんですよ、このダンジョン……。
誰だよこんな鬼畜ダンジョン作ったの……って、俺か~い!
ということで、只今、雲海を眺めながら、己の命の危険と引き換えに得た経験値を、じっくりと噛み締めております。
仲間たちは、まだ10階にも到達できていない。
リースは「火力不足がエグい……」と嘆き、
レイアは「短剣でダメージを出せるイメージがわかない」とぼやき、
メリルは「怖い……」と真顔で言っていた。
プルは「ニャー!」から「シャー!」になっていた。
シャクヤクさんは「この塔は、悪趣味じゃ……。」と毒舌を吐いていたが、まぁ、仕方ない……。
この塔、俺が本気で自分自身を鍛えるために作ったんだから、普通のパーティーがいきなり登れるわけがない。
それに、彼らが低階層で苦戦している間、俺は高階層で、神獣級の魔物と対峙しているのだから、その程度のぬるい魔物で文句を言うなと……。
48階のフロアボス──
あれは、もはや神獣の模倣というレベルではない。
この間対峙した神獣のデータを取り込んだ、塔独自の進化体だった。
空間を切り裂いて距離を詰めるとか、魔法を使おうとすると、魔力を逆流させて相殺しにくるとか、時間や空間を歪ませてくるなどなど、普通に反則だろと突っ込みたくなるような芸当を、いとも簡単に、当たり前のようにやってくるとか、もう意味わからんと言いたくなるような強さで、今の俺では、当然一撃で倒せるような相手ではない。
むしろ、俺の魔法攻撃が通るかどうかすら怪しい。
戦闘開始から数分で、俺の魔力は半分以上削られ、空間の歪みによって回避行動が遅れ、時間のズレで詠唱が狂い、何度かガチで死を覚悟した。
だが、俺は生きている。
師匠から“マスト”を課された者として、悠長に死んでるわけにもいかない。
俺は、この塔の設計者であり、運営者であり、最初の被害者でもある。
この塔、利便性と鬼畜さの落差が激しすぎる。
20階までは、まぁ、頑張れば来れなくもない難易度に設定した。
だが、それ以降は全階層、鬼畜モード。
48階なんて、もはや神獣模倣体なんて侮っていたら即死するレベルだ……。
しかし、そうはいっても、まだ48階なのだ、この塔100階まであるんだが、今死と隣り合わせの階が、まだ48階なのだ……。
俺、そんな強烈な設定にした覚え無いんだけど……。
迷宮核は、ある程度自己学習する。
だが、それはあくまで設計者の意図を補完するためのものであって、
勝手に神獣のデータを取り込んで、魔物を進化させるような仕様は……。
「……いや、あるかもしれないな……。」
俺の魔力、神獣との戦闘データ、塔の構造、魔物の挙動……。
全部、俺を通してライブラさんに記録されている。
そして、迷宮核が、何らかの方法で、ライブラさんからその記録を受け取っているとしたら?
つまり、俺が強くなるために、迷宮核とライブラさんが勝手に手を組んで、俺の強化用鬼ハードプログラムを構成している可能性……。
……やめてくれ。
俺、塔を作っただけなのに……。
仲間たちは、そんな塔の低階層で、今も奮闘している。
リースは、火力不足を補うために、矢に属性魔力を付与する練習をはじめた。
「折角この弓給弾のロスが少ないのに、属性付与に時間かけたら意味ないし、だからといって属性による相性効果が無いと、火力が足りなすぎるし、もうひたすら練習するしかないんだよな……。」
彼女は、魔力の流れから、属性の癖を読む技術を模索している。
レイアは、短剣の扱いに限界を感じ、
「そろそろ武器、変えた方がいいのかな……」
と呟いていた。
彼女は、軽装のまま火力を出す方法を探している。
二刀流か、魔剣か、それとも……。
メリルは、塔の構造解析に没頭していた。
「この罠、魔力の流れが逆転してます。通常の解除手順では対応できません」
彼女は、塔の“意図”を読み取ろうとしている。
まるで、塔が生きているかのように。
プルは、今日も元気に罠に引っかかっていた。
「ニャーッ!?また落とし穴ニャ!?この塔、絶対悪意あるニャ!!」
でも、彼女の感覚は確実に研ぎ澄まされてきている。
罠の気配を感じる速度が、少しずつ早くなっている。
シャクヤクさんは、塔の壁を睨みながら。
「この配置、作った者の性格、相当極悪じゃな。」
と毒を吐いていた。
でも、彼女の動きは、以前よりもずっと鋭くなっている。
俺は、そんな彼らの成長を、塔の管理者画面というか、
迷宮核の“観測視点”とライブラさんをリンクさせ、エアリアルモニターで眺めている。
彼らがどこで苦戦し、どこを突破し、どこで笑っているか。
全部、俺の塔の中で起きていることだ。
だからこそ、俺は考える。
この塔、少しだけ優しくしてもいいんじゃないかと。
たとえば、49階以降の魔物の挙動を、
殺意100%から殺意85%くらいに下げるとか。
カフェフロアに、マッサージ施設を追加するとか。
ホムンクルスに「お帰りなさいませ、ご主人様♡」と言わせる機能を追加するとか。
……いや、違うな。
この塔は、“煉獄”なんだ。
精神力を鍛え、魂を浄化することで、フィジカルまでをも強化するための場所。
己を甘やかしてどうする!
でも、せめてギルドに配るビラには、こう書いておこう。
「命惜しくば、20階以降は行くべからず。フリじゃないんだからね!」
と……。
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