42.ディメンション・ブレイク!
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ギルド支部の執務室。
窓から差し込む朝の光が、書類の山を照らしていた。
リースは、静かに椅子に腰かけ、書類の束を読み込んでいた。
俺の提案で、彼女はこの数日、ギルドに詰めている。
支部長ガーランドと俺の繫ぎ役として、情報の整理と伝達を担う役目だ。
「……やっぱり、こういうのは性に合わないな。」
小さくぼやきながらも、手は止めない。
彼女の前には、サイヒルの地図と、各地から届いた報告が並んでいた。
「リースさん、急報です!」
扉を開けて飛び込んできたのは、若いギルド職員だった。
顔色が悪い。
「どうしたの?」
「サイヒルに向かった調査隊……全滅です。」
リースは、手にしていたペンを止めた。
「……全滅?」
「はい。今朝、現地に向かった別部隊からの報告です。調査隊の痕跡は確認されましたが、生存者は……いませんでした。」
「……。」
リースは立ち上がり、地図に目を落とした。
調査隊が向かったルートに、赤い印をつける。
「何か、残されていた?」
「隊長の通信石が、砕けた状態で見つかりました。それと……“空間が歪んでいた”という証言が。まるで、そこだけ世界が違っていたような……そんな感覚だったと。」
「魔素の濃度は?」
「測定不能です。測定器が焼き切れたそうです。」
リースは、静かに息を吐いた。
「これは、やっぱり“ただの魔物”じゃないんじゃない?」
「リース、少し話せるか?」
俺は出先から戻ると、ギルドに立ち寄り、ギルドで詰めているリースに話しかけた。
「フィン君。ちょうどいいところよ。調査隊が……」
「聞いた。さっきライブラが異常な魔素の上昇を検知したから確認したら、既存の魔物とは一致しない波形だったと報告を受けた。」
「ライブラが?」
俺は頷きながら、ライブラの文言を一字一句違えずに言った。
「魔素波形が既知の魔物種と一致しません。分類不能、危険度はS級を凌駕─とのことだ。」
「……ライブラがそう言うなら、間違いないわね。」
「ただ、ライブラの情報は原則俺にしか届かない。だから、俺が直接動くしかない。」
「わかってる。だから、君に伝えたかったの。」
俺は地図を見下ろし、赤い印を指でなぞった。
「ここに、何かがいる。それも、“ただの魔物”じゃない。まさか……神獣?」
リースは静かに頷いた。
「準備は?」
「すぐにでも動ける。だけど、おかしい、これがもし神獣なら、マスターが動いていないのが不自然すぎる、俺は一度魔力を解放しただけで、マスターに勘違いされて、殺されかけてるからな。今回は慎重に行く。俺ひとりではうまくやれないだろうから、皆にも手伝ってもらう必要があるだろうな。」
「了解。支部長の方には私から伝えておく。」
俺は、地図から目を離し、窓の外を見上げる。
「ライブラさん、この状況、君はどう見る?」
[回:神格の痕跡あり。
構造は不定形、意識は多層。
推定種は神獣です。
接触は非推奨です。]
「だろうな……。」
風が、窓を揺らした。
サイヒル近くの村跡に足を踏み入れた瞬間、空気が変わるのを感じた。
風は止み、音を忘れた世界が息を潜める。
俺は、仲間たちと共に、沈黙の中を進んでいた。
レイアは剣を抜かず、手を柄に添えたまま周囲を警戒している。
メリルは魔力の流れを読むように目を閉じ、こめかみに汗を浮かべていた。
プルは、しっぽをぴんと立てて、耳をぴくぴくと動かしている。
シャクヤクは、無言で俺の背後を守っていた。
「あそこだけ、空気が違うニャ。」
プルの声が、霧に吸い込まれていくようだった。
村は、すでに“村”ではなくなっていた。
焼け焦げた家々、崩れた井戸、黒く染まった地面。
だが、それ以上に異様だったのは──
「あそこ、空間が歪んでいませんか……。」
メリルが、低くつぶやいた。
「見えるか?」
「見えるというより、あそこ、村の中心。空間が屈折しています。」
俺は目を凝らした。
確かに、そこだけ空気の密度が違う。
まるで、世界が“沈んで”いるような感覚。
「ライブラさん、何かわかりますか?解析的な……。」
[回:空間構造に異常を検出しました。
局所的な重力の偏り、魔素濃度の異常を検出しました。
空間屈折の中心に神格的存在を検出しました。
名称:不明。
推定種:神獣。]
「神獣が来ちゃうんだねぇ……。」
俺は、ゆっくりと間合いを詰める。
「皆、下がれ、俺が相手をする。巻き込まれないところまで下がって、防御に徹するんだ。俺がダメそうなら直ぐに逃げろよ。」
仲間たちは、無言で後ろに下がった。
魔力の流れを読む者、結界を張る者、召喚陣を描く者。
それぞれが、俺の背を見つめる……。
村の中心に近づくにつれ、霧が濃くなる。
黒い霧。
重く、湿っていて、視界を奪う。
その中に、“それ”はいた。
形は、定かではない。
見る角度によって、姿が変わる。
角があるように見えたかと思えば、羽のようなものが揺れている。
脚が六本にも、一本にも見える。
だが、確かにそこに何かがいる……。
「これが、神獣……。」
俺は、息を呑んだ。
その存在は、ただ“在る”だけで、世界を圧倒していた。
「ライブラさん、一応コミュニケーションって取れそうか確認出来たりする?」
[回:試行可能。
言語的接続は困難。
意志の波形を直接受信する事は可能ですが、解析には時間がかかるので、直接的なコミュニケーションを取ることは難しいと推察します。]
「出来るだけ早くやってみてくれる?」
次の瞬間、頭の奥に“音”が響いた。
「〇※、ΦД¶Σ§ω。」
言語として認識することは難しそうだ。
意味も、文法もつかみきれない……。
ただの音にしか聞こえないが、“意志”だけは伝わってくる気がした。
「拒絶、か……。」
霧が、わずかに揺れた。
それは、呼吸のようでもあり、警告のようでもあった。
「来るぞ。」
俺は、黄竜剣を抜いて中段に構える。
霧の中に、確かな“殺意”を感じた。
黒い奔流が、地を這い、空を裂く。
その中心に、光を吸い込むような“目”が、ひとつだけ、浮かび上がった。
「ライブラさん、弱点なんかはありそう?」
[回:解析中。
構造が不定形のため、物理的干渉は無効化される可能性が高いと推察します。
魔力的干渉による反応を検証します。
……………………
……………………
……………………]
「時間を稼ぐしかないみたいね……。」
俺は、霧の中へ踏み込んだ。
片手で剣を構え、もう片方の手には魔力を巡らせる。
「エンブレイザー!」
俺は神獣がいると思われる周囲一帯を焼き尽くそうと、範囲火炎魔法を放った。
しかし、直撃を与えたはずの神獣は動かないどころか、俺の放った魔法を魔素毎吸い込まれたように感じた……。
今度は、そこにあり続ける神獣めがけて、黄竜剣を振った。
霧を裂くように、魔力を纏った一閃。
しかし、手応えは感じられなかった。
「無効化されてるのか?」
霧が、俺の腕を包み込む。
すると、魔力が吸われていくような感覚を覚えた。
[告:接触の継続は危険です。]
「……っ!」
俺は、霧の中で膝をついた。
魔力が、引き剥がされていく感覚。
意識が、現実から引きはがされる感覚を覚える。
すると、その時、空気が、震えるような感覚を覚えた……。
『他にも何か来る……。』
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