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異世界に転生したらものの5分で最強セージにエンカウントした俺のその後の話  作者: すずき 虎々


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41.アンヘリオン

数ある作品の中から、私の作品を見つけてくださり、ありがとうございます。

読んでいただける方に楽しんでもらえるよう頑張りますので、どうぞよろしくお願いします。

 朝日が、窓辺のカーテンを透かして差し込む。

 俺は、湯気の立つマグカップを手に、ソファに腰かけていた。

 テーブルの上には、読みかけの本と、焼きたてのパン。


 静かな朝、リースはまだ寝ているようだが、レイアは庭で剣の素振りをしている音が、かすかに聞こえる、昨日、ダンジョンで手に入れた“コテツ”が馴染むように、訓練を怠らないという姿勢が、レイアの人柄を物語っている……。

 メリルは部屋に籠って、先日俺が書いてあげた人体の構造についての図解や、各部位の役割についての解説を熟読しているようだ。

 シャクヤクは、めずらしく、朝から台所で何かを煮込んでいるが、鍋の中身は色が既に食用な感じではなくなっていて、サイケデリックという言葉が似合いそうな色合いになっていた。


「……平和ではないのか?」


 俺は、マグを傾けながらつぶやいた。

 おそらく、シャクヤクさんの鍋さえなければ、平和だなとつぶやいていたのだろう……。

 昨日までのアルカエリの話が、まるで遠い夢のように思えた。


「ただいまニャ〜!」


 玄関の扉が勢いよく開き、プルの元気な声が響いた。

 両手に買い物袋を抱え、しっぽを左右にふわふわと揺らしながら入ってくる。


「おかえり、プル。早かったな。」


「今日は八百屋さんが空いてたから、すぐ買えたニャ。それと……ギルドの支部長さんが、フィンに来てほしいって言ってたニャ。」


「ガーランドが?何かあったのか?」


「詳しくは聞いてないニャ。でも、顔がちょっと怖かったニャ……。」


「……わかった。行ってくる。」


 俺は立ち上がり、上着を羽織った。


「何かあったのかえ?」


 シャクヤクが鍋の蓋を開けながら尋ねる。

 その瞬間、なんともおぞましい匂いが漂った……。


「さあな。でも、あの人がわざわざ呼ぶってことは、ただ事じゃないかもな。」


「其方であれば、気をつけずとも良かろうが、一応気を付けるのじゃぞ。」


「あぁ、行ってくる。」


 ギルド支部は、朝の受付で少しざわついていた。

 冒険者たちが何やら情報を交わし合い、ざわざわとした空気が流れている。

「フィンさん、支部長がお待ちです。」

 受付の女性が、少し緊張した面持ちで案内してくれる。

 俺は頷き、支部長室の扉をノックした。


「入ってくれ。」


 中から、低く落ち着いた声が返ってくる。


「失礼します。」


「よく来てくれたな、フィン。」


 ガーランドは、分厚い資料の束を机に広げたまま、顔を上げた。

 かつては実力のある冒険者として名を馳せた男。

 今はギルド支部長として、街の安全を預かる立場にある。


「何かあったんですか?」


「ああ。ヴェール地方のサイヒルで、魔物の災害が起きた。」


「……大量発生ですか?」


「いや、違う。単体だ。」


「単体……?」


「そうだ。一体だけで、村ひとつを潰したようだ……。近くにいたSランクの冒険者が討伐に向かったが、戻ってこなかった。後で確認されたんだが、死んでたよ。」


「……。」


「俺も最初は信じられなかったが、現地からの報告は一致してる。“見たことのない魔物だった”ってな。」


「その魔物の特徴は?」


「まだはっきりしねぇ。情報が錯綜してやがる。ただ、目撃者の話じゃ、黒い霧をまとっていて、魔素の密度が異常だったらしい。」


「……それって、ただの魔物じゃない可能性もありますね。」


「ああ。俺もそう思ってる。だから、お前に話しておきたかった。」


「今のところ、討伐依頼は?」


「まだ出してない。まずは情報を集めてる段階だ。だが、いずれ動いてもらうことになるかもしれん。というより、お前以外じゃそれこそエンシェント・ノーブル・セージにでもお出まししてもらわないと、厳しいかもな……。」


「わかりました。」


 ガーランドは、椅子にもたれながら、深く息を吐いた。


「……すまんな。朝っぱらから呼び出しちまって。」


「いいえ。こういう話は、早い方がいいですから。」


「お前のそういう所、助かるよ。」


 俺は立ち上がり、軽く頭を下げた。


「何かわかったら、また連絡ください。あ、そうだ、リースにここに詰めてもらいましょう。何か進展があれば、俺に伝わるのも早いだろうし。」


「ああ。そうしてくれると助かるよ。すまんな。」


 ギルドを出た俺は、空を見上げた。

 雲ひとつない、青空だった。

 だが、胸の奥に、ひっかかるものがある……。

 単体でSランク冒険者を倒す魔物、その存在が、何を意味するものは……。


「……嫌な予感がするな。」


 風が、静かに吹き抜けた。




 風は止んでいた。

 サイヒルの村は、まるで時間ごと焼き払われたかのように、静まり返っていた。

 地面には、黒く焦げた土と、崩れた家屋の残骸。

 井戸は砕け、石垣は崩れ、畑は踏み荒らされていた。

 それでも、どこか整然としているように見えるのは、破壊が“意図”ではなく“結果”だったからなのかもしれない。


 焼け焦げた洗濯物が、干された時のままの状態で、折れた物干し竿に引っかかっている。

 倒れた荷車の車輪が、片方だけ空を向いていた。

 割れた食器が、食卓の上にも、床にも散らばっている。

 生きている人の気配はない。

 鳥も鳴かない。

 虫の羽音すら、ここには届かない。


 それは、村の中心にいた。

 黒い霧のようなものが、地面から立ち上っている。

 霧というには重すぎ、煙というには動きすぎる。

 それは、まるで“存在そのものが滲み出している”かのようだった。

 その中心に、“何か”がいた。


 形は定かではない。

 見る者によって、角の数も、脚の数も違って見えるだろう。

 だが、確かに“そこにいる”という感覚だけは、誰にでも伝わる。


 “それ”は、世界を見ていた。

 目があるかどうかはわからない。

 だが、確かに“視線”があった。

 その視線は、空から村を見下ろしていた。

 まるで、神のように。

 あるいは、神の視座に立つ者のように。


 “それ”は、言葉を持たない。

 だが、世界を“理解”していた。

 人間の営みを、歴史を、記憶を、感情を──

 まるで、風の流れを読むように、空気の震えを感じ取っていた。


 “それ”にとって、死は終わりではない。

 静寂の回復。

 秩序の修復。

 世界が本来あるべき姿に戻ること。


 だから、“それ”は破壊した。

 意図せず。

 ただ、そこに在るだけで、世界が“正されていく”。


 どこからか音がした。

 遠くから、馬の蹄の音。

 複数の足音。

 金属の擦れる音。

 人間の気配。


 “それ”は、ゆっくりと顔を上げた。

 顔があるのかは、誰にもわからない。

 だが、確かに“世界が見上げられた”感覚が、空気に走った。


「〇※、ΦД¶§。」

 声ではない。

 言葉でもない。

 ただ、世界に染み出すような“意識”が、そこにあった。


 “それ”は動かない。

 動く必要がない。

 世界の方が、勝手に近づいてくるのだから。

 黒い霧が、わずかに揺れた。

 まるで、呼吸するように。

 まるで、眠っているように。


 ──そして、再び、沈黙が訪れた。

 風が吹いた。

 だが、霧は揺れなかった。

 それは、風よりも重く、

 存在よりも深く、

 神話よりも古い“何か”だった。


最後まで読んでいただきありがとうございます。

感謝の言葉しかありません。

よければ次のお話も読んでいただけるとありがたいです。

どうぞよろしくお願いいたします。

このお話が面白いと思っていただけたなら、評価やコメントなどいただけるとありがたいです。

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