第33話 旅立ちの手紙
「そっか……ラウラさんたちが……」
「うん。二人で街を出ろって……」
太刀川の嗚咽が収まるのを待って、大方の事情を聞くことができた。
「つーか、お前な。勝手に思い込んで、勝手にへこむのやめろよ。誰も責めたりしてないだろ」
「う……。ごめん……」
聞けばコイツ、「自分が死にたくないから俺を守るんだろう」って言われて即答できなかったせいで、俺が失望したと思っていたらしい。
アホか。
誰だって死ぬのは怖ぇよ。
そんなんで責めるわけあるかよ。
「まったく、根が真面目なヤツは、これだからタチが悪いな」
「だ、だって……」
「でもまぁ、そういうところも……」
「え?」
「いや、なんでもない! 忘れろ!」
きょとんとした顔で首をかしげる太刀川。
ヤバいヤバい、変なこと口走るとこだった。
「つか、そのナップザックみたいなのは何なんだ?」
「あ、これはヤンさんが持たせてくれたの。黒の書が入ってるんだって」
太刀川は背負っていた袋を下ろし、中を開いた。
確かに黒の書が入っている――が。
「なんか、他にもいろいろ入ってねぇ?」
「ホントだ。なんだろ……」
探ってみると、さらに色々と出てきた。
黒の書を入れるブックホルスター。
俺と太刀川の着替え。
お金。
地図。
そして――
「これ……手紙?」
「だな。ラウラさんからみたいだ」
横長の封筒にはラウラさんの名前があった。
封を開けると、中には数枚の便箋。
異世界に来たばかりの俺でも分かるくらい、丁寧な文字が書かれていた。
――――――――――――――――――
ジュンちゃん、そしてタクミ君へ。
この手紙を読んでいるということは、無事に王都を離れたのですね。
まずは、そのことに心から安堵しています。
こんなふうに二人きりで旅立たせることを心苦しく思います。
護衛もつけず、頼れる大人もいない。
そんな状況に追い込んでしまったことを、どうか許してください。
それでも私は、貴方たちに託そうと決めました。
この国の東の果てにある『魔導図書館』。
そこにいるハウゼルという人物を訪ねてください。
詳しいことは話せませんが、黒の書が開いた今なら、彼が呪いを解いてくれるはずです。
図書館の場所は同封の地図に記してあります。
ただ、王家はきっとすぐに貴方たちを捕えようと、追っ手を差し向けてくるでしょう。
目立たず、慎重に行動してください。
黒の書の契約者であることは、決して明かしてはなりません。
貴方たちの旅路が、どうか無事でありますように。
心からそう願っています。
私たちのことは心配しないで。
貴方たちを送り出す代わりに、私たちはここで戦うと決めました。
それぞれが、自分にできる形で未来を切り拓くために。
ジュンちゃん。
初めて会ったときのことを覚えていますか。
バッシュ君を倒した貴方に、私は拍手をしましたね。
あれは、貴方が強かったからではありません。
負けそうになっていた貴方に、タクミ君が声を送った。
すると、貴方はそれまでにない力を発揮し勝ってみせた。
貴方たち二人の絆の強さに、私は深く心を打たれたのです。
この先、多くの困難が待ち受けているでしょう。
けれど、貴方たちは互いを信じ支え合える人たちです。
どんな試練であろうとも、きっと乗り越えてくれると信じています。
最後に一つだけ、伝えさせてください。
私は、貴方たちの味方です。
どんなときも。どれほど遠く離れていても。
必ず、また会いましょう。
ラウラ・シルシェイド
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ぐすっ、と太刀川の鼻をすする音がした。
「また泣いてるし……」
「だ、だって……ふぐっ……」
俺は泣き虫ジュンちゃんの顔に袖を押しつけ、ガシガシと拭った。
「いたたっ、もう、乱暴!」
「贅沢言うな」
まったく、絆がどうとか、あんな恥ずかしいこと書かれまくって、こっちの気まずさも察してほしいもんだ。
「ラウラさん、無事だといいな」
「うん……ヤンさんも、ロキシィも、アイギスさんも……」
「ああ、きっと大丈夫だって」
ラウラさんは俺たちを信じると言ってくれた。
なら、俺も彼女たちを信じる。
今、やるべきことはみんなを心配することじゃない。
示された道を歩くことだ。
魔導図書館――
それがどんなところか分からない。
だが、そこに行けば、黒の書の呪いが解ける。
もしかしたら、元の世界に帰る手がかりがあるかもしれない。
「ね、星野君」
「ん?」
「がんばろうね。ふたりで」
「ああ」
太刀川がそっと笑った。
まだ赤い目をしているくせに、どこか誇らしげに。
見上げれば、空はすっかり夜の色に染まり、淡い月が天の川に泳いでいた。
まるで、遠く離れた誰かが――
俺たちの行く先を、静かに照らしてくれているようだった。




