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レベル1の俺が死んだらレベル999の最強チート美少女も死ぬらしい~異世界スローライフしたい俺と、帰りたい彼女の命がけバディ生活~  作者: 古池ケロ太
第1章

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第32話 ただいま

 世界が逆さまになった。


 重力が全身を捕らえ、俺を奈落へ引きずり落とす。

 顔を切り裂く風の中、さっきまで立っていた手すりがどんどん小さく遠ざかっていく。

 その逆に、百メートル下の地面が、信じられない速度で近づいてくる。

 死が近づいてくる。


 その一瞬、視界の中に鮮烈に浮かび上がった影――太刀川だ。


「星野君!!」


 ダンッ!!


 石畳を蹴って、彼女の身体が空へと撃ち放たれた。

 重力をねじ伏せ、途方もない高さを一直線に俺を目がけて跳んでくる。


 音が消え、世界が止まった。


 間近に迫る、太刀川の表情。

 歯を食いしばり、瞳を見開き、イケメンの面影なんてどこにもない――必死の顔。


 気づけば俺は、笑っていた。


 馬鹿げている。矛盾している。分かってる。


 それでも、こう思わずにはいられなかった。


 ――もう、死んでもいいな。


 次の瞬間、衝撃が身体を貫いた。

 空中で、太刀川が俺を抱きとめていた。


 太刀川はさらに身体を捻った。

 俺をかばうように、自分を盾にするように――


 彼女の肩越しに石畳が壁のように迫り、


 ドォンッ!!


「――!!」


 激しい衝撃。

 視界がぐちゃぐちゃに回転する。

 天地が入れ替わり、頭の中は完全に真っ白だ。


 それでも、太刀川の腕は俺を固く抱きしめたまま、決して離さなかった。


 やがて――回転が収まった。


 キンキンと甲高い耳鳴りが響き、他の音は何も聞こえない。


 ふっと、抱きしめる腕の力がゆるむ。


 俺は弾かれたように顔を上げた。


「大丈夫かっ⁈」

「大丈夫⁈」


 太刀川も俺とまったく同時に顔を上げ、同じ言葉を叫んでいた。


 太刀川の顔は埃まみれでひどい有様だった。

 いや、きっと俺も同じだろうけど。


「あ……と、とらえろ!」


 塔の上から落ちてきた俺たちを、兵士たちはしばらく呆然と眺めていたが、我に返ったように声を張り上げ、武器を構えて迫ってきた。


 やばっ。


「とりあえず逃げるよ!」

「おおっ……おおっ?」


 太刀川は瞬時に立ち上がり、なんの躊躇もなく俺を抱き上げて走り出した。


 って、これは――いわゆるお姫様だっこ?


「や、ちょっと太刀川さん⁈ 恥ずかしいんですけど!?」

「いいから黙って抱かれてて!」

「ひゃいっ……」


 乙女みたいな声を漏らした俺を、一体誰が責められよう。


 ってか、こういうやりとり、久しぶりだなオイ。


 兵士たちの罵声を背後に置き去りにしながら、俺たちは風のように駆け抜けていった。


 遠ざかる塔の上で、メイド姿の女が一人、人形のように身じろぎもせず、こちらを見つめていた。



※※※



 ということで、城壁の外に出た。

 城壁は、高さ10メートルくらいありそうなデカい鉄の扉で閉じられていたが、もちろん太刀川がワンパンでブチ破った。

 そこにいた警備兵っぽい人たちがギャーギャー悲鳴をあげていたが……まぁご愁傷さま。


 壁の外の草原を駆け抜け、数キロ離れた森の中に身を隠したところで、ようやくお姫様だっこから解放された。


「はぁっ……はぁっ……はぁ……」

「だ、大丈夫か? 太刀川……」


 さすがの最強チート様も息があがっている。

 膝をついた太刀川に、俺は腰を下ろし、手を差し伸べようとした。


 パンッ!


「え……?」


 平手打ちをくらった。


「………バカッ! バカッ!」

「え、ちょ、な? いててっ!」


 続けざまに平手を連発してくる。

 何がなんだか分からなかった。


「なんであんなバカなことするの! 落ちたら死んでたんだよ!?」

「や、やめろって! お前までダメージ受けてんじゃねーか!」


 俺の痛みが転写されるせいで、太刀川の頬がみるみる赤く腫れてゆく。

 もちろん手加減はしてるんだろうが、痛いことに変わりはない。

 それなのに、太刀川はなおも俺を叩き続ける。


「落ち着けって!」


 手首をつかんだところで、ようやく平手打ちが止んだ。

 向かい合ったその目からは、ぽろぽろと涙がこぼれていた。


「こ、こわっ……怖かった……」


 震える、かすれた声。


 胸の奥がきつく締め付けられた。

 他に手はなかったとはいえ、俺の行動がそんなにもこいつを傷つけていたことに、今さら気づいた。


「たちか……」


 何か言葉を紡ごうとしたそのとき、濡れた体温が俺の首筋に触れた。

 強く、抱きしめられていた。


「う、ううっ……ふぐっ……」


 耳元で彼女のすすり泣きが響く。

 こんな太刀川の姿を見るのは、初めてだった。


「ごめん………」


 それ以外の言葉が見つからなかった。


 太刀川は泣きやまない。

 それでも、嗚咽の中、しぼり出すようにこう言った。


「……おかえり」

「……ただいま」


 短い言葉に込められた温もりに、俺たちは静かに寄り添った。


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