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レベル1の俺が死んだらレベル999の最強チート美少女も死ぬらしい~異世界スローライフしたい俺と、帰りたい彼女の命がけバディ生活~  作者: 古池ケロ太
第1章

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第30話 塔の上のタクミ姫

 こんばんわ。ワタシ、タクミ姫!

 世界で一番かわいいお姫様なの。

 それでね、それを妬んだ悪〜いメイドに、高い塔に閉じ込められちゃった。

 くすんくすん、チクショー!


 でも大丈夫。ワタシには素敵な王子様がいるの。

 そう。今にきっとジュン王子が助けに来てくれるわ。

 得意の空手パンチでドゴン! バゴン! バギュルルルル! そんでもって――

 

「変な独り言はやめてもらえますか」


 ……と冷たくツッコんできたのは、扉の前の黒髪ボブカットメイド・リンだ。

 俺は窓枠にもたれたまま、苦笑いで答える。


「や、ほら。なんか囚われのお姫様みたいなシチュエーションだな、って思ってさ。ラプンツェルみたいな」

「何を言っているか分かりませんが、とにかく気持ち悪いです」


 心底おぞましいものを見るような冷たい目。

 俺がそーゆー性癖の人だったなら、一発で陥落してただろう。危なかったぜ。

 

「そもそも助けなど来ません。何度も同じことを言わせないでください」

「そりゃどうかな。なんせアイツはクソ真面目だからな。約束を破るとは思えねぇよ」

「アイツ?」

「元の世界に帰してやる、って約束したヤツのこと。……そんとき、アイツも俺に約束したんだよ。俺のことを絶対に守る、って」


 冷血メイドはじろりとこちらをにらみつけた。


「また『約束』ですか。懲りませんね、本当に」

「なんとでも言ってくれよ。……てかさ、あんたこそ、なんでそんなに約束って言葉に反応すんだ? ちょっと異常じゃね?」


 希望を否定するだけなら、そこまでトゲのある言い方はしないはず。

 約束ってワードに、なにか強い拒絶感がある。そんな気がした。


 リンは深くため息をつくと、どこか遠くを見るように目を細めた。


「………私には、兄がいました」

「いた?」

「別に死んではいません。ただ、疎遠になっただけです」


 少しの間、言葉を切る。

 昔のことを思い出すみたいに。


「私たちはこの国の出身ではありません。ここからずっと東方の生まれです。幼いころ、内戦で両親を失い、故郷を追われて……兄と二人、流れ着くようにこの王都まで来ました。

 この国では、私たちのような東方の人間は差別の対象でした。まして、親のいない子どもなど、何をされても、誰も助けてくれません」

「………」

「兄は、私を守ると約束してくれました。たった二人きりの兄妹だから、絶対に守ると。

 兄は戦いの才能こそなかったけれど、とても頭が良くて、それでギルド監査局に入ることができました。

 監査局の仕事は決して高給ではなく、暮らしは貧しかった。それでも、私は幸せでした。 兄は、約束を守ってくれた 。そう思っていました。

 ――あの日までは」


 そこまで話したところで、リンはほんの少し、呼吸を止めた。


「私が家に一人でいたときです。突然、見知らぬ男たちが侵入してきて、私を暴行しました。

 特に理由はありません。職を失った腹いせだったそうです。もっとも、私は何日も意識を失っていたので、すべて後から聞いた話ですが」

「………」

「意識を取り戻したとき、兄の姿はありませんでした。監査局の人から、兄が局を辞めたこと、居場所を私には決して知らせるな、と言い残したことを聞かされました」

「………」

「兄は、きっと、私が足手まといになったのです。兄のように賢くもなく、強くもない。暴力に屈するしかない弱い妹だから――捨てた」

「………」

「それから、私は戦いのスキルを磨きました。信じられるのは自分だけだと、痛いほど思い知らされたから」

「……」

「その後、兄がギルドに入ったと聞きました。そこでの待遇は監査局よりも良いそうです。

 ………許せなかった。私を捨てて、監査局を裏切って、自分だけ安全で心地よい場所に逃げた兄が、許せなかった。

 だから、私は死に物狂いで努力して監査局に入りました。

 兄とは違うことを証明するために。私は逃げない、裏切らないと証明するために」


 ふぅ、と大きく息をつく。


「……どうですか。約束などというのは、このように都合が悪くなれば簡単に破られるものです。そんなものに運命を預けるのは、愚かではありませんか?」


 半生を語り終えて、そこで得たものを俺に問いかけてくるリン。

 そんな彼女の話を聞いて――俺は。


「ぐう……」

「………まさか寝てますか?」


 ………ハッ? いかんいかん。


「や、起きてまひふぁよ? ふああふふ(あくび)」

「分かりました。刺しますね」


 チャキ、とアイスピックを構えて近づいてくるリン。

 いかん、誤解を解かなければ!


「いや、違うって! ただ、ろくに寝てないのに、長い話されて眠くなっちゃっただけだって!」

「なるほど、では殺しますね」

「状況悪化した!? ってか、裁判まで殺さないんじゃなかったっけ!?」

「はぁ……もういいです。愚かな貴方に理解してもらおうと思った私が、一番愚かでした」


 リンは呆れ顔でアイスピックをしまった。


 さすがに寝たのはまずかったか……。

 

 でも、まぁ、とりあえず分かったのは。


「兄貴のこと、まだ好きなんだな」

「――?」


 リンは大きく目を見開いた。

 鉄面皮が初めて破れた瞬間だった。


「おお、あんたでもそんな顔するんだ」

「な、何を根拠にそんなことを……」

「いや、嫌いなやつのこと、こんな長く話さないでしょ」

「……!」

「だから本当は約束、まだ守ってほしいと思ってんじゃないかな~、と」

「ろ、ろくに話も聞いていないくせに、何を勝手な……っ!」


 リンが顔を赤らめ、声を荒げたそのときだった。


 窓の外から、わずかな気配を感じた。

 俺は窓を開け、眼下の街並みを見下ろした。


「……来たぜ」

「……何がですか?」

「決まってんだろ。白馬の王子様だよ」


 塔の真下。細い道を疾風のように駆けてくる影。

 待ち望んでいた、その姿。


 ジュン王子は塔の上の俺を見つけると、必死の顔で叫んだ。


「星野君っ!!」


 思わず、笑みがこぼれた。

 囚われのお姫様ってのは、こういう気持ちなのか。


 キュンときちまったじゃねーかよ。



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