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レベル1の俺が死んだらレベル999の最強チート美少女も死ぬらしい~異世界スローライフしたい俺と、帰りたい彼女の命がけバディ生活~  作者: 古池ケロ太
第1章

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第29話 その背に託されたもの

「――ジュンさん」


 そのとき、そっと背中に触れる手があった。

 ヤンさんだった。


「ギルド長が兵たちの注意を引いてくれています。今のうちに、これを」


 差し出されたのは、ナップザックみたいに背中に背負える形の革袋だった。


「これは……?」

「黒の書が入っています。これを持って、タクミさんを助けに行ってください。――貴方が、一人で」

「え?」


 戸惑うアタシにかまわず、ヤンさんは顎で正面を指し示した。


「正面に見えるあの灰色の塔がグラマン塔です。タクミさんは、あそこの最上階にいます」


 たしかに、天を突くような塔がそびえていた。

 走れば、数分の距離だろう。


「で、でもアタシ一人って……。助けに行く人は多いほうが――」

「無理です。この状況では、兵を傷つけずに突破はできません。貴方の、そのスピードに賭けるしかないのです」


 そういえば、さっきラウラさんも言っていた。

 兵士たちは貴族の子息だから、ヘタに手出しできない、と。


「そして――ジュンさん。タクミさんを助け出したら、私たちのところへ戻らず、この王都を脱出してください」

「……えっ?」


 それって……ここでお別れってこと?


「ど、どうしてですか?」

「ここまで表立って反逆してしまっては、もはや王都にはいられません。貴方たち2人と黒の書を、王家の手の届かないところに逃がします」

「それなら、みんなで逃げれば………」

「ギルドには私たち以外にも多くの仲間がいます。彼らを見捨てて逃げるわけにはいきません」

「……」

「大丈夫。ギルド長には作戦があります。貴方はタクミさんを連れて、城壁の外へ出ることに専念してください」


 そう言って、ヤンさんはそっと袋を背負わせてきた。


「ヤンさん………」

「我々のことはご心配なく。死にはしませんよ。私には、ギルド長と果たさなければならない『約束』がありますから」


 そう言って。

 ヤンさんは切れ長の目を、優しく細めた。

 

「――また、図書室で一緒に本を読みましょう」


 この人が笑ったところを、アタシは初めて見た。


「ジュン! 勝負は預けるからね! 抜け駆けすんじゃないわよ!」

「主君、どうかご武運を!」

「ロキシィ……アイギスさん……」


 二人とも、たぶんラウラさんの『作戦』を聞いているんだろう。

 笑って声をかけてくる。

 

 ラウラさんに目を向ける。

 兵士たちに向き合ったままの彼女は、こちらに背を向けたままで、その表情は見えなかった。

 それでも――横に差し向けた手を、小さく振ってくれた。


 胸の奥がぎゅっと痛んだ。

 でも、迷ってるヒマなんてない。

 覚悟を決めるときだった。


 アタシは息を呑み込み、


「――行きます!」


 それを合図に、ラウラさんがパチンを指を鳴らした。

 黄金のドームがパキィン! とガラスの割れるような音を立てて砕け散る。

 アタシは全身に力を込め、石畳を蹴った。


「! 黒の書の女が出たぞ!」

「構え! う、撃……えっ?」


 兵士たちの声が、アタシのずっと後ろから聞こえてくる。

 一瞬で彼らの頭上を飛び越し、置き去りにしたからだ。


「は、速いっ!」「バケモノか、ヤツは!」


 そんな声も、もうほとんど聞こえなくなる。

 アタシはただ前に、風を切って一心不乱に駆けた。

 グラマン塔へ。

 星野君がいる場所へ――



 ※※※


 ジュンさんの背中が、兵たちの列の向こうへと消えたあと。

 ギルド長は、ぷはぁ、と全部を吐き出すような息とともに、その座に座り込みました。


「おつかれさまでした。ギルド長」

「まったくよ。やせ我慢は体に悪いわ〜」


 兵たちのいる手前、口外はしませんが、ギルド長のスキルは効果が強力な反面、五分も持続しないのです。

 お年を考えると、よく頑張ったと言えるでしょう。


「誰がトシですって?」

「おや、失礼。口に出ていましたか」

「まったくもう……。さて、あとは大人しくお縄につきましょうか。兵士のみなさ〜ん、さっきは偉そうなこと言ってごめんなさ〜い。私たち、投降しま〜す」


 ぽかんとする兵たちに向かって、ギルド長はひらひらと手を振りました。


「う〜ん、どんな牢屋に入れてもらえるのかしら? 広さは問わないけど、紅茶のセットは忘れずに用意してちょうだいね?」

「そんな牢屋ありませんよ……」


 私は深くため息をつきました。


 ――さて。


 あとはジュンさん。そしてタクミさん。

 貴方たちに託しましたよ――。

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