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レベル1の俺が死んだらレベル999の最強チート美少女も死ぬらしい~異世界スローライフしたい俺と、帰りたい彼女の命がけバディ生活~  作者: 古池ケロ太
第1章

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第28話 魔王になってでも

 全員で地下牢を脱出して、ゴツゴツしたお城みたいな監獄の正門を抜けた。

 夕日は沈みかけていたけど、二日も地下にいたアタシには、ひどくまぶしく感じた。


 門を出て、監獄と市街地を隔てる広場みたいな場所に出たときだった。


「そこまでだ!」


 太い鞭みたいな声が響いた。

 建物の陰から、大勢の男たちが一斉に現れた。


「貴様らは完全に包囲されている! 全員、両手を上げてその場にひざまずけ!」


 すごい数。ざっと百人はいるかもしれない。

 みんな、濃い茶色に金の縁取りが入った、立派な軍服を着ている。

 弓を構える者、剣を抜く者、ロキシィと同じ魔法使いの杖を手にした者までいる。


「あらら、もうバレちゃった。さすが王都の守護兵さんたちね〜」


 イタズラが見つかった子供みたいに、舌を出すラウラさん。

 いや、笑ってる場合じゃないと思うんだけど。


「ギルド長ラウラ・シルシェイド! 王都のど真ん中で堂々と監獄破りとは血迷ったか!」

「あ~、名前まで知られちゃってるわ……まいったわね~」

「いや、ラウラさん、全然まいった顔してないじゃん」


 ロキシィの言う通り、ラウラさんはユルい顔で頬をかくだけ。

 なんでこの人は、いつもこんなに余裕なんだろう……。


 とにかくここは突破しなきゃいけない。

 アタシは一歩前に出て構えをとった。


「ラウラさん、ここはアタシがなんとかします。いったん下がって……」

「ダメよ」

「え?」

「王都の守護兵は、ほとんどが貴族の子息たち。ヘタに手を出したら話がこじれちゃうわ」

「で、でも……」

「いいから、ここは私に任せて」


 ラウラさんは銀髪をなびかせて、スッとアタシの横に出た。

 兵士さんたちの顔が、一気に緊張する。


「こ、こいつら、あくまで抵抗する気か!」

「全員、構え!」


 兵士さんたちは問答無用で矢をつがえ、杖を構えた。

 隊長っぽい大きな帽子の人が、間髪入れずに号令をかける。


「撃てェ!!」


 矢と、炎・風・氷の魔法が一斉に放たれた。

 視界が一瞬で、殺到する光と色に塗りつぶされる。


 ――ダメ、全員は守りきれない!


 アタシは思わず両目をぎゅっと閉じた――


 ドドドドゥンン!!


 耳をつんざくような連続音。


 けれど――痛みも熱も来ない。


「……?」


 おそるおそる目を開けると、目の前に黄金に輝く半透明の壁――いや、半球状のドームがあった。

 それはアタシたち全員をすっぽり包み込むように広がり、すべての攻撃をはね返していた。


 振り向けば、ドームの中央、ラウラさんが不敵な笑みを浮かべて立っていた。

 片手を腰に、もう片手を横に広げて、まるでこの場すべてを支配するみたいに。


 正面の隊列から、どよめきの声が上がった。


「こ、これが……ラウラ・シルシェイドの『無尽(むじん)結界(けっかい)』か……」

「この世の一切の攻撃を通さないという、究極の防御技………」

「はい、丁寧なご解説ありがとう。結構有名なのね、私のスキルも」


 満足そうに胸を張ってみせるラウラさん。

 すごい自慢げだ……


「ええい、何をモタモタしておる! さっさとこの反逆者どもを捕えんかぁ!」


 と怒鳴りながら、兵士さんたちの後ろから、顔も体も丸っこい感じの人がやってきた。

 あれ? たしかにこの前、ギルドに来ていたおじさん?


「これはこれは、ご無沙汰しております。アホデス監査官」

「誰がアホデスだ! 私の名前はバカデスだ! ………って、それも違うし! ゲルネスだし! 自分で間違えちゃったよ!」


 ……変な人だった。


「おい、守護隊長! 早く次の攻撃を指示せんか!」

「し、しかし、あの結界が張られてしまったらどうしようも……」

「口ごたえするな! これ以上、私の顔に泥を塗るつもりか! ここでこいつらを逃がしたら、王家が黙っておらんぞ!」

「んも~、自分の出世に響くからって、現場に八つ当たりはやめてほしいですわぁ。兵士さんたちも呆れてますわよ?」


 ラウラさんは完全におちょくりモードだった。

 おじさんは「ぐぎぎぎ……」と丸々した顔を赤くして、ラウラさんをにらみつける。


「そもそも! お前たちのギルドは前から気に食わんのだ! ならず者の寄せ集めが!」


 ぴくん、とラウラさんの眉が動いた――ように見えた。


 おじさんは、私の後ろにいるアイギスさんを指さして叫んだ。


「そこの甲冑の女! 知っておるぞ! ストラトス家から勘当された落ちこぼれだろう! よくもまぁ、未練たらしく騎士の格好をしていられるものだな! 恥を知れ、恥を!」

「……!」


 アイギスさんの顔がたちまちこわばった。

 それは、彼女にとって決して向けられたくない言葉だった。


 おじさん――いや、ゲルネスはそれに満足したみたいに口角を吊り上げ、さらにロキシィに太い指を向けた。


「そこのチビはもっとひどい! 調べてみれば、貧民街の生まれというではないか! 街の隅っこでゴミを漁って生きてきたドブネズミが、ろくな教育も受けずに魔法使いだと? 笑わせるな!」

「な……!」


 ロキシィの目に怒りが宿り、唇が震えた。


「これが貴様らギルドの正体だ! 行き場のないクズどもが集まり、傷をなめ合っているだけの掃きだめ! 正義も秩序もない、ただのならず者集団に過ぎん! ぬはははは!」


 うっぷんを晴らすみたいに下品に笑うゲルネス監査官。


 目の前が真っ赤になった。腹の底から熱いものが煮えたぎって、喉元までこみ上げてくる。

 握った拳が震えているのが、自分でもわかった。

 あんな言葉をぶつけられて、黙っていられるはずがない。


 アタシは前に出ようと一歩を踏み込み――

 細く白い腕に止められた。


「ラウラさん……?」


 ラウラさんはアタシににこりと笑いかけた。

 空を見上げて、ふぅ、と小さく息を吐く。


 次の瞬間、視線は鋭い刃のようにゲルネスを射抜いた。


「ブチ殺すわよ、ブタ野郎」


「な……」


 これまで見たこともないほどの殺気に、ゲルネスがのけぞる。


「勘当? 貧民街? だからどうしたっていうの。この子たちが生きてきた道に、恥じることなんて何一つない。貴方なんかじゃ想像もできないほどの逆境の中で、何度も転び、何度も立ち上がって、ここまで来たの。私はそんな彼女たちを、心の底から誇りに思ってる」


 ラウラさんの言葉は、怒りをはらみながら、それでも温かく優しかった。


「貴方にとっての正義が、生まれや育ちだというのなら、私は喜んで悪の側につくわ。魔王になってでも、命をかけてこの子たちを守る」

「ラ、ラウラさん……」「ラウラ殿……」


 ロキシィとアイギスさんの目には、にじんだ涙が光っていた。


 この人は、ただの上司なんかじゃない。

 ギルドにいる全員の人生を、まるごと受け止めてるんだ。


 ラウラさんは、アタシたちを包囲するすべての兵士たちを見渡し、声を張り上げた。


「ここにいる全員に告ぐわ! 私の仲間に手を出すなら、命を捨てる覚悟で来なさい! 何百人いようと私は一歩も引かない。この子たちには、指一本触れさせない!」


 その声は広場のはるか外まで届き、空気を震わせた。

 兵士たちは誰一人声も出せず、ただ立ち尽くすしかなかった。

 ラウラさんの気迫が、場のすべてを圧倒していた。


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