第2話 レベル999の彼女
ということで街についた。
街の様子についてはあえて説明しない。
異世界ものと聞いて思い浮かべるその景色が正解だ。
ああ、この雰囲気。初めて来たのに実家に戻ってきたような安心感だ。
「うわっ、すご! 街の中に馬とか牛とか歩いてるんだけど! みんなの来てる服も、なんか布っぽいし、こう、中世ヨーロッパ風っていうの? ゲームみたいな感じだよね」
「やめろはしゃぐな細かく描写するなテンポが落ちる」
この調子でいちいち反応されてたら、日が暮れるぞマジで。
「それで、これからどこに行くの?」
「ギルドだ。ステータスを測ってもらう。ここで暮らすにしろ帰る方法を探すにしろ、自分の能力を知っとくことは大事だからな」
「えっと、そもそもギルドって何……」
「いいからついてこい」
ということでギルドにやってきた。
なんでギルドの場所が分かったかは省略。
受付のカウンターにちょこんと立っていた可愛らしい感じのお姉さんに以下略。
「はい、ステータス測定ですね〜。こちらの石板に手を乗せてください〜」
「話が早くて助かります」
「なんで日本語が通じるの?」
「聞くな」
俺は差し出された薄い石板に右手を乗せた。
ポゥ、と光が浮かび、手を離すと板に文字が浮かび上がってきた。
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レベル:1
パワー:5
スピード:7
タフネス:9
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「……あの、一応聞きますけど。これ、強いんですか?」
「えっと、ランクでいうとFですねー」
がっくり来た。
いやまぁ、Fランクがどんくらいの階級なのかも分からんのだが、お姉さんの口調が商店街のガラガラで「6等賞でーす」とティッシュを渡してきたおっちゃんのそれと同じだったので、それ以上は聞かないことにした。
戦闘系で成り上がるのは無理か。
スローライフ志望なんで戦闘力は必須じゃないんだが、それにしたってゴブリンの襲撃とか隣地とのいざこざがあったとき、自衛できる力は欲しかった。
まぁ、しゃーない……。
「あ、スキルの確認もしてくださいね〜」
おっと、そうだよな。
どれどれ。
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【スキル】
・古代文字解読
・魂の鎖
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「古代文字解読……」
学術系かな。インドアっぽいのはいい感じだが、スローライフとはあんまり結びつかない感じがする。
でもって、二番目のはなんだこりゃ。
「この魂の鎖ってのは何ですか?」
「ちょっとよく分からないですね。上司なら知ってるかもしれませんが、ちょっと今は席を外してまして。戻ってきたら聞いてみましょうか?」
「はい。すんませんけど、お願いします」
「分かりました。ではお次、そちらのお嬢さん、どうぞ〜」
「え、アタシ? アタシは別に……」
「せっかくだしやってもらえば? 帰る方法を探すのに使えるスキルがついてるかもしれないぞ」
「……よく分かんないけど、それなら」
太刀川は石板に手をかざし、なぜかそこでピタリと止まった。
「どうした?」
「……個人情報、盗られないかな?」
「いいから早くしろ」
テンポ崩しの天才かお前は。
恐る恐る石板に手を触れる太刀川。
俺がFなら、こいつはGとかかな。
いや、たしか体育の成績もよかったから、ワンチャンEくらいはあるかもしれない。
ん? なんでこんなところに唐突に水の入ったコップがあるんだ?
まぁ、いいか。ちょうど喉が乾いてたんだ。ありがたくいただこう。
俺がコップの水を口に含んだところで、太刀川のステータス値が浮かびあがった。
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レベル:999
パワー:999999
スピード:999999
タフネス:999999
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ブ――――――――――――――――――ッ!
「え、え、Sランクです! 信じられない! こんな数値、見たことありません!」
お姉さんの絶叫が響き渡った。
いや、マジか!
ベッタベタな吹き出しムーブしちゃったよ、おい。
「おいおい、ウソだろ!」「あのお嬢ちゃんが?!」「すげぇ! しかもかわいい!」
たちまちギルド内が騒然となる。
口々に驚きと賞賛の声を上げるモブ冒険者のおっさんたち。
大騒ぎの中心にあって、しかし、当の太刀川はキョトンと、
「え、なに? なんでみんなそんなに騒いでるの? アタシなんかしちゃった?」
うわぁ……。
これ、無自覚チート系の主人公がよく言うセリフだよ。
自分が言うのはいいけど、人に言われると死ぬほど腹立つわぁ……。
石板は、続いて太刀川のスキルを映し出した。
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【スキル】
・魂の鎖
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え? こんだけ? てか、俺のと一緒?
「星野君、これってどういうこと?」
「俺に聞かないでください」
「なんで敬語?」
「ははっ、FランのゴミムシがSランク様にタメ口など、恐れ多くて――」
「ちょっと、そういうのやめてよね。……ってどこ行くの!」
「それだけのステータスがあれば、こんなゴミムシなんて必要ありませんよね。短い間でしたがお世話になりました」
「ホントに冗談やめてってば! こんなとこで一人で残されたら、アタシどうしたらいいのよ……」
本気で泣きそうな顔になったので、立ち去るのはやめにした。
冗談じゃなくて本気だったYO! とか言ったら多分怒るよね。やめとこ。
「とりあえず、魂の鎖ってのが何か教えてもらいたいから、しばらく待っとこうぜ」
「わ、分かった。ところでさ……」
太刀川は急に俺の腕を引き、壁際に引っ張りこんだ。
そわそわと視線をさまよわせたかと思うと、頬を赤らめ、両膝をこすり合わせる。
「何だよ」
「お、お手洗いってどこかな……」
はい?
「お手洗いって、トイレ? 異世界に来て早速トイレ?」
「ちょ、大きい声で言わないでよっ……。生理現象なんだからしょうがないでしょ……いいからどこ?」
「いや、そこまでは分かんねーよ。受付の人に聞いてみれば?」
「わ、わかった……あ、あと」
「なんだよ今度はもう」
「それって、たぶん水洗じゃないよね……。どうやって使えば」
「知らん! 異世界のヒロインはトイレなんか行かないから知らん! それも聞いてこい!」
ピュー、と音がしそうな速度で、Sランク様は受付へ駆け込んだ。
……そうか、ここは尿意のある世界観なのか……。
あとで俺も使い方聞いとこ。
「しかし、どういう展開だよ、おい」
異世界生活を満喫したい俺がFランクで、帰りたいあいつがSランク?
才能の適材適所がなってねーぞ、神様よ。
「これからどうすっかな……」
例の黒い本を手の中でもてあそびながらつぶやく。
コイツの正体もよく分からんし、困ったことばっかりだ。
「なぁ、兄ちゃんよ」
「ん?」
振り返ると、ガラの悪そうなチンピラ3人組が、こっちを向いてニヤニヤしていた。
「アンタ、さっきのSランクの嬢ちゃんの連れだよな? ちょいツラ貸してくれよ」
ねぇ、神様。
あなた、俺になんか恨みでもあるの?