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レベル1の俺が死んだらレベル999の最強チート美少女も死ぬらしい~異世界スローライフしたい俺と、帰りたい彼女の命がけバディ生活~  作者: 古池ケロ太
第1章

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第16話 マッドマン

「くっ……」


 太刀川の切迫した息遣いが耳元を打つ。


 ドクンドクン、と激しく鳴る自分の心音もやけに鮮明だ。


 ――い、生きてる………?


 一瞬、視界が真っ暗になったのは、太刀川の手の平が目の前にあったせいだった。


 男の指が俺の頭を串団子にする寸前。

 太刀川がとっさに横から手を伸ばし、止めてくれたのだ。


 ナイフみたいな指先を素手で受け止めたのに、その手には傷ひとつない。

 そういえばこいつ、防御力(タフネス)もカンストしてるんだった。


「素手で止めんのかよぉぉ……。ど〜ゆ〜カラダしてんだぁぁ?」

「そっちこそ………!」


 太刀川は男の指をバッと振り払った。

 男がゆらりと後ろに下がり、間合いをとる。

 その指は1メートル以上の長さに伸び、ゆうゆう地面に達していた。

 たしかにまともな人間の体じゃない。


「星野君、下がって!」


 鋭い声が緊迫感を物語る。

 こいつのこんな声は初めて聞いた。


「くくくっ……お前、面白ぇなぁぁ………。さっきまでと別人みてぇだ。そいつが殺されそうになった途端、まるっきり顔つきが変わりやがった」


 男は異様なほど背中を丸めて、両腕をだらりと下げ、太刀川をねめつけてきた。


「誰なの、あなた? 何が目的?」

「お前がそれを知る必要はねぇなぁぁ……どうせこれから死ぬんだからよぉぉ〜〜」


 この男はさっき、俺が黒の書を持ってることを確かめてきた。

 狙いは黒の書か。

 けど、なんでだ?

 いつかのチンピラ3人組と同じで、売っ払おうって魂胆なのか?


「どうしたの、タクミ!」「主君!」


 騒ぎを聞きつけて、ロキシィとアイギスさんが宿から飛び出してきた。


「わ、なにコイツ、気持ちわるっ!」

「何者だ、貴様!」


 猫背男は、深くため息をついた。


「ピーチクパーチク、うるせぇ女どもだなぁ………。お前らに用はねぇんだがなぁぁ……。………でも、まぁ、邪魔するってんなら――」


 にぃ、と口元が裂け、目に殺気が宿る。


「全員ブチ割ってやるぜぇ………!」


 夜気が歪んだ。

 みしり、と音がするような強烈な圧力。

 枯れ木のような男の体が、何倍にも分厚く見える。


「うっ……」「く………!」


 他のみんなもそれを感じたんだろう。

 誰が指示を出すでもなく、俺たちはほとんど本能的に陣形をとった。


 前衛に2人。

 武闘家――太刀川。

 剣士――アイギスさん。


 後衛も2人。

 魔法使い――ロキシィ。

 役立たず――俺。


「いや、誰が役立たずやねん!」

「びっくりした! 急に何よ、タクミ!」

「すまん、なんでもない………」


 思わずセルフでツッコんでしまった。

 せめて遊び人くらいになりたいわ……


「何者かは知らぬが、主君とタクミ殿に害をなすなら、私が相手になろう! 我が名はアイギス! 貴殿も名乗られよ!」


 騎士道精神をたぎらせ、アイギスさんが口火を切る。

 男は血色の悪い唇を歪め、せせら笑った。


「くくくっ……なんだァ、そりゃあ? 騎士ゴッコなら、よそでやるんだなあぁ」

「無作法なやつめ。なら、推して参る!」


 言うが早いか、アイギスさんはなんと真正面から斬りかかった。


「ちょ、待て! あんたがかなう相手じゃないって!」


 返り討ちに遭うのが目に見えて、俺は制止の声を上げた。


「えああああっ!」


 ズバッ!!


「……え?」


 目を疑った。


 バカ正直に振り下ろした両手剣は、まったく無抵抗の猫背男の肩口に入り、そのまま反対側の腰まで斜めに切り裂いていた。


 いわゆるひとつの、一刀両断。

 ズズ、と男の体が斜めにズレて――泣き別れになった2つのパーツが地面に崩れた。


 誰よりも一番驚いたのは、アイギスさん本人だった。


「りょ、両断するつもりは………!」


 よろけるように後ずさり、青い顔でぶった斬った相手の体を見つめる。

 斬りかかっといて「そんなつもりじゃなかった」も何もないもんだが……当人もまさか、こんなあっさり倒せるとは思ってなかったんだろう。


「アイギスさん、あぶない!」


 太刀川の声に、アイギスさんが「え?」と振り返る。

 信じられないことが起こった。


 地面に転がった男の下半身が突然立ち上がり、


 ドボオッ!


「げふっ!!」


 アイギスさんの腹を痛烈に蹴り上げた。


 ひとたまりもなく吹き飛び、あお向けに倒れるアイギスさん。


 ――完全に失神している。


「な、なっ………?」


 驚く俺たちの前で、さらに目を疑う出来事が起きる。


 落ちて動かなくなっていた上半身が、ドロリと溶け出した。

 まるで泥のように――いや、泥そのものになって土の地面に広がってゆく。

 それはやがて仁王立ちする下半身へと集まり、脚をはい上がってゆく。


 胴体の切り口の上にドロドロの塊が乗っかり、粘土細工のように、だんだんとその姿が人の形を成してゆく。

 胸、両腕、首、そして頭。


「くくっ……くくくっ……」


 下半分だけ再生した顔から、嘲るような笑い声が漏れた。


「もう聞こえてねぇと思うけどよぉぉ、せっかくだから名乗っといてやるよぉ、騎士さんよぉぉ………」


 声もない俺たちの前で、男が完全に元の姿を取り戻す。

 倒れ伏したアイギスさんと、そして俺たちに向かい、


「俺ぁ、クラボスクってんだぁ。スキル名は――」


 どろり、と溶けるような笑みを浮かべた。


「『泥人間(マッドマン)』、だ」


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