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レベル1の俺が死んだらレベル999の最強チート美少女も死ぬらしい~異世界スローライフしたい俺と、帰りたい彼女の命がけバディ生活~  作者: 古池ケロ太
第1章

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第15話 俺にとって、君は

 宿を出ると、あたりはすっかり夜の帳に包まれていた。

 村のど真ん中を貫く通りは、土がむき出しのまま、しんと静まり返っている。

 ひんやりとした夜気が肌を撫で、どこか遠くで、犬か何かの鳴き声が響いた。


 その冷えた地面の上に、あいつは立っていた。


「……太刀川」


 背中を向けたまま、うつむいた姿。


 こっから、どう話を切り出すべきか。

 そんなことを考えかけた矢先――太刀川が、ふいにこちらを振り返った。


「……ごめんね」

「え?」


 沈んだ顔。

 その目に浮かぶのは、戸惑いなのか、不安なのか。


「こないだから、ずっとよそよそしい態度とっちゃって……。星野君、やな思いしたでしょ」

「お、おう。いや、別に……っていうか、急にどうしたんだよ」


 太刀川は、うつむいたまま口をぎゅっと結ぶ。

 そして、ほんの少しだけ間を置いて――ぽつりとこぼした。


「……特別だって、思ってた」

「ん?」

「アタシにとっての星野君。星野君にとってのアタシ。異世界に来て、命がつながって、一緒にいろんなこと乗り越えて……。お互いにとって、お互いが特別だって信じてた。――勝手に」


 そこまで言って目を伏せる。

 それから、ひとつ深く息を吐いて、


「でもこの前……ロキシィが星野君に、キ、キスしたのを見て――はじめて、違うんだって思ったの」


 少し声が震えていた。


「星野君は、この世界で生きてく人なんだって。私とは違う景色を見て、私とは違う誰かと別の道を歩いてくんだなって。そんな当たり前のことに、今さら気づいたの」


 太刀川が、自分の気持ちをこんなにさらけ出すのを見たのは、たぶん初めてだった。


「そしたら、なんだか急に置いてかれたみたいな気がして。上手く話せなくなって、自分から距離とって……結局、余計に星野君を遠ざけて……アタシ、なにやってんだろって」


 照れ笑いとも泣き笑いともつかない顔で小さく笑い、


「……ごめん。わけわかんないよね。自分でも何言ってんのか、よく分からない。バカみたい」

「太刀川……」


 太刀川は一歩、俺に近づいた。


「でもね、知りたいの。怖いけど……どうしても知りたい」

「……何を?」

「アタシたちって……一体、何なのかな」

 

 どくん、と心臓が跳ねた。


「ただのクラスメイト? 相棒? それとも……もう少し、特別だったり、するのかな」


 月明かりが目の前の少女の姿を照らしている。

 不安げな瞳で、それでも俺の顔をまっすぐに見つめてくる。


 俺は、息を呑んだ。


 今さら何言ってんだよ、太刀川。


 俺たちは――お前は、特別だ。

 特別に決まってる。


 異世界に来たあの日。

 路地裏でお前が「絶対に守る」と手を伸ばしてきた瞬間から、お前は俺の唯一無二になった。


 だけど――それが何だってんだ。


 俺たちは、いつか必ず別れる。

 いや、別れるための方法を探してる。

 それが最初からの目的で、約束だからだ。


 だったら、考えるだけムダだろ。

 どうせ離れ離れになるんだから、最初から向き合わないほうがいい。

 そうしないと――辛いだけじゃねぇか。

 

 なのに、なんでだ。

 なんで今さらそんなこと聞くんだよ。

 そんな、悲しそうな顔で。


「太刀川……」


 その先に続く言葉なんて考えもしないまま、名前を口にする。


 そのときだった。


「くくくっ……いいなぁぁ。いいなぁ、お前らぁぁ」


 夜気を裂く、不気味な笑い声。

 振り向いた先――街灯ひとつない通りの真ん中に、いつの間にか一人の男が立っていた。


「青臭くてよぉ、ウソ臭くてよぉ……ブチ割ってやりたくなるよなぁぁ……」


 骨が浮き出た痩せっぽちの体を、ボロボロのシャツとズボンが覆っている。

 顔半分を覆う青黒い乱れ髪。その奥で赤くぎょろりと光る目玉がじっとりと俺たちを見据えていた。


 なんだこいつ、いつからこんな近くにいた?


「……誰?」


 太刀川が警戒をむき出しにして問う。


 男は答えなかった。

 代わりに、枯れ枝みたいな指が、ゆっくりと持ち上がる。


 指し示したのは俺――正確には、俺の腰にあるブックホルスターだ。


「いちおうの確認ってヤツだけどよぉぉ……そん中に入ってるの、黒の書だよなぁぁ……?」


 粘りつくような声に、背筋が冷たくなる。

 俺は無意識にホルスターを手で覆った。


「だったら、なんだよ?」

「くくくっ、そうかぁ。よかった、よかったぁぁ……く、くくくっ……」


 歯並びの悪い口をぐにゃりと歪ませ、男は薄気味悪く笑った。

 なんなんだ、こいつは?


 その指先が、ゆっくりと俺の顔へと向けられる。

 そして。


「じゃ、死ね」


 ビュンッ!


 一瞬で空気が裂けた。


「——!」


 刃物のように鋭く伸びた指先が、まっすぐ俺の眉間を貫こうと迫る。

 まるで死ぬ直前のスローモーション。

 景色が恐ろしく鮮明で、ゆっくりと、はっきりと、近づいてくる。


 よけろ。

 よけろよ、俺。


 脳が発する指令に、だけど、ノロマな身体はまったく反応せず――

 俺の視界は、唐突に暗転した。


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