第14話 『そのとき』が来たら
というわけで、村の宿にやって来た。
宿の食堂で丸テーブルを囲み、四人揃っての夕食だ。
急な訪問だったにもかかわらず、女将さんは山盛りの料理を用意してくれた。本当にありがたい限りだ。
「ぷはーっ! おいし〜!」
キノコスープを豪快に飲み干したロキシィが満足げに息をつく。
こいつ、ちっこい体でよく食うな。どこに栄養流れてんだ?
「あ〜あ。それにしても、肝心の本を開く方法は結局わからずじまいね〜」
「だなぁ。謎だけが深まったというか、散々煽られるだけ煽られて終わったというか……」
とにかく「すげー」「やべー」みたいな空気だけが膨らんで何も進んでない気がする。
「主君。顔色がすぐれませんが、大丈夫ですか?」
アイギスさんが心配そうに身を乗り出す。
太刀川は「あっ」と小さく声をあげ、慌てて顔を上げた。
「だ、大丈夫です。……うん、平気平気。明日、他の村の人にも聞いてみましょう」
無理に口元をゆるめてみせたけれど、その笑顔はどこか上滑りしている。
手にしたフォークも、気づけばずっと皿の上で止まったままだ。
大丈夫かよ、こいつ……
「にしてもさぁ。そこまでして本を開かせないなんて、中にはいったい何が書かれてるのかなぁ?」
「主君が望む通り、元の世界に帰るための方法であればいいのだがな」
「へ? アイギスさん、何それ?」
「知らぬのか? 私もラウラ殿から聞いた話だが――」
かくかくしかじか。
「ええ〜っ? 別の世界から来たぁ? やだぁ、そんなおとぎ話みたいなこと、あるわけないじゃ〜〜ん♪」
ケラケラ笑うピンク髪の魔法使い。
いや、お前が一番ファンタジーな存在のくせして何言ってんだ。
「でもぉ、それがホントだとしてさ。タクミはこっちに残りたくて、ジュンは帰りたいのよね?」
「まぁ、そうだな」
「ってことは、『そのとき』が来たら、二人はお別れってことよね?」
「えっ……」
カシャン、と小さな音が響いた。
太刀川のフォークが皿の上に転がっていた。
黒い瞳が、今にも崩れそうに揺れている。
「あ……え、っと。そう、なのかな……」
「そりゃそうでしょ。そんな簡単に行き来できるなら別だけどさ、違うんでしょ?」
「あ、うん……たぶん」
消え入りそうな声でそう答え、太刀川は顔を伏せた。
なんだよ。
そんなの最初から分かってたことだろ。
――なんで今さら、そんな顔をするんだ?
ロキシィはチェシャ猫みたいな笑みを浮かべ、
「じゃ〜あ、そのあとはわたしがタクミを独り占めってわけだぁ♪」
「………!」
「あはっ、ロキシィちゃん、ますますやる気出てきちゃった♪ ほらほらタクミぃ、いっぱい食べて精力つけて黒の書のナゾ、解いちゃお〜♪」
「えっ、ちょ、もががっ!」
ロキシィはいきなり後ろから抱きついてくると、二人羽織みたいに俺の口に食べ物を突っ込んできた。
バカやめろ、最強チート様がまた殺意の視線を向けてきちゃう!
これが最後の晩餐になっちゃう!
「………ごちそうさま」
……あれ?
太刀川は静かに席を立った。
ほとんど手つかずの料理を残し、幽霊みたいな足取りで扉の外へと出て行く。
「お、おい、太刀川……」
「あれぇ? なーによ、張り合いな〜い」
ロキシィがつまらなそうに、俺から身を離す。
俺はカカシみたいに突っ立ったまま、閉じた扉を見つめていた。
「タクミ、何ボーッとしてんの?」
「え?」
「追いかけなさいよ、は・や・く!」
「いでえっ!」
杖で脇腹を小突かれ、そのまま問答無用で食堂から追い出される。
なんなんだよ、もう!
「んん? ロキシィ殿、今のはどういうことだ? なぜタクミ殿を追い出した?」
「ま、不戦勝なんてゴメンだってことぉ〜」
「? 何がなんだかわからんが……」
「アイギスさんも早く恋人作ったほうがいいんじゃない?」
「な、なにを破廉恥な! 私は剣一筋、主君一筋にだな………!」
「はぁ〜………。どいつもこいつもガキばっか………」




