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■第2話 あ。

(__…おかしい)


村に近いと言うのに誰の声も聞こえない。

普段なら村の門番のカエが、村から出ようとするイタズラざかりの子供たちと戯れる声が聞こえるというのに。


今この場に響くのは自身の足音のみで、森の生物の気配すら感じない。


(何かあったのか?いつ?この1週間の間に何が……!?)


自然と駆け足になり村へ向かうが、その門の前にいつもの門番の女性は居なかった。

門の先に見える村にも人の気配を全く感じることが出来ない。

いつものように子供たちがかける足音も、昼下がりに各家々から香る美味しそうな匂いも、暖かな村人達の笑い声も、その何もかもが静寂に呑み込まれていた。


「カエ……?皆?何かあったのか……?」


辺りを見渡しながら村へ続く架け橋を渡りきる。


だがやはり村には誰一人の気配も感じることが出来ず、それどころか辺りは瓦礫と少しの建物が残っている程度であった。

変わり果てた村の姿にアズの額からは冷や汗が流れる。

とりあえず周りを探すしか……と薬品の入った木箱を傍らに置き、声を掛けながら歩き回る。


「お、い……皆、どうしたんだ?

誰かいねぇのか!?おーい!!返事をしてくれ!

な、んなんだよこれは……皆してドッキリとかか……?」



__…ガタンッ


静寂を破るように 一件の家から物音が響いた。

それは、今日まさしく訪れる予定でもあったエマの家である。


「エマ!?いるのか!?開けるぞ!」


アズは扉を蹴破るように開けるとつかつかと中に入り、砂埃が舞う部屋を見渡しながら少女の姿を探した。


「エマ?おい、居るんだろ!早く出てきてくれよ……ッ!

今日義足直すっ……「誰ですか。」



__…後ろに誰かがいる。エマの声ではない。

知らない男の声。


息を飲み後ろを振り返ると、一人の男がベッドに横たわるエマから"青く光る何か"を抜き取り、ゆっくりと舌を這わせ味わうようにペロリと平らげていた。

あまりにも奇妙な光景に、アズは次の息をすることすら忘れる。


「んーん。あまり美味しくないですねぇ、この方は。」


ぎしり、とベッドを軋ませて降りてくる男。

まるで感情のない機械のように無表情で、しかし端正な顔に艷めく黒髪と赤く光る瞳はまるで……



「悪魔、か……?」


「違いますよ。」


思わず零れた言葉を即否定した男は、ゆっくりと近寄りアズの赤い髪に指を這わす。


「貴方、この村の住人ではないですよねぇ。

……この髪の色…」


ゾワッとアズの全身がさかだち、慌てて男と距離をとった。本能がこいつを危険だと判断している。


「_…ッテメェ!!この村に何をしやがった……!!エマに今ッ何をしたッ!?

返答次第ではテメェを今すぐここで殺す……ッ!」


アズがマナ工具に手をかけると、先程までただの箱だった物がバキバキと激しい金属音と共にその形を鋭い剣へと変形させた。

剣を静かに構え、いつでも懐に潜って貴様を殺せるぞと言わんばかりの殺気を放つ青年。


男の無表情だった顔は、それを見るなり驚きの表情へと変わる。


「ああ。ああ!……待ってください。私に敵意はありませんよ。この村は私が訪れた時からこの少女しか生きておりませんでしたし。

それに、彼女にだって悪いことはしておりません。


()()()()()()()()()()()()なんですから、むしろ今の状況でこそ有難いことでは無いでしょうか?」


ひらひらと手をあげ降伏を示す男に、アズは素早くその喉元に剣先を押し付ける。


「何を訳の分からない事を言っているッ!返答次第では殺すと言ったはずだが……!?」


ぐっと喉元に押された剣の刃が男の皮膚にめり込む。


「……、人の話を聞くような体勢ですか?これ……ッ。

……簡単な話ですよ、見てください。」


男が指さす方に視線を向けると、先程までベッドへ横たわっていた少女が目を見開いてこちらを見つめていた。


「エマッ!!」


アズが慌てて少女へ駆け寄りその肩を揺らすが、彼女は目を見開いたまま何も言わない。

それどころか開いた瞳からは、ぽろぽろと涙が流れ落ちていた。


「……たい」


微かにエマの唇が動く。


「……会いたい……」


肩に乗せた手がするりと落ちる。

(__…そうか、もう…)


「この村にはもう彼女だけです。……苦しいだけでしょう、こんな感情しか残ってないのですよ。」


「それを、テメェは食っていたと……?どういう原理だよ、意味わかんねぇ……」


「……、さぁ?私は生まれてこのかた、主食はこちらなもので。

しかしまぁ、恐らく貴方たちにとっては常識ではなさそうなので、この話はこれで終いにしましょう。」


乱れた服を整えながらこちらへ歩み寄る"悪魔"を睨みつけると、悪魔はやれやれといわんばかりに大袈裟に肩を竦めて見せた。


「その目……ああ酷い。私は人の村を襲う事など出来ませんよ。そのように世界に()()()()()されているのですから。

何度も言いますが、この村を襲った犯人は私ではありません。


……と、ほら。真犯人のご登場ですよ。」



ズドンッ!!!



「!!?んだこれ、……エマッ!!」

突如として激しい揺れが村全体を襲う。

慌ててエマを連れ出そうと手を伸ばした瞬間_








ぐしゃり。









「あ。」









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