第2話「冷蔵庫の逆襲! 俺の食生活が監視されている!」
「おい、相川蒼」
「……なんだよ」
「俺は、お前に心から言いたいことがある」
「なんだよ、改まって」
「野菜を食え!!」
「うるせぇ!!」
俺はコンビニの唐揚げ弁当を片手に、冷蔵庫とにらみ合っていた。引っ越してきて数日。俺の一人暮らしは、想定していた自由な生活とはまったく違う方向に進んでいる。
なぜなら、俺の部屋には、異常なまでに口うるさい冷蔵庫がいるからだ。
「お前、昨日も唐揚げ弁当だっただろ? その前の日も」
「だから何だよ! 大学生の食生活なんてこんなもんだろ?」
「ふざけるな! バランスが大事なんだよ! 俺の中に野菜がほぼ皆無ってどういうことだ!?」
「野菜は……まあ、正直あんまり好きじゃないし……」
「何を言ってるんだ! お前、人間としての尊厳をどこに置いてきた!?」
「お前が言うなよ、家電の分際で!!」
「家電だから言うんだろうが!! 俺の中身はお前の体そのものなんだぞ!!」
「いや、さすがにそれは違うだろ」
「お前の食生活が悪化する→体調を崩す→病院代がかかる→食費が削られる→冷蔵庫の中がますます貧相になる……この負のループを断ち切らなきゃいけないんだよ!!」
「お前の心配ポイント、そこなの!?」
こうして、俺は渋々ながらスーパーに行くことになった。
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近所のスーパーにて
「ふぅ……」
近所のスーパーに来るのは、実は引っ越してきて初めてだ。今までの食事はすべてコンビニか外食で済ませていた。
「よし、まずは野菜だな」
「いや、野菜って言われても……何買えばいいの?」
「ピーマン、人参、玉ねぎ。この三種の神器があれば、だいたいの料理はなんとかなる」
「料理しないんだけど?」
「今からするんだよ!!」
「えぇぇ……」
俺はカゴに適当に野菜を放り込んだ。次に肉コーナーへ移動し、鶏肉を手に取る。
「お、なんか料理できそうな雰囲気じゃない?」
「フッ……甘いな」
「なんだよ、その不穏な笑い方」
「問題はここからだ!!」
「え、まだ何かあるの?」
「食材を買うだけじゃダメだ! 冷蔵庫の収納を学べ!!」
「収納!? そんなの適当に突っ込めばいいだろ!」
「貴様……今なんて言った!?」
「いやだから、適当に……」
「貴様ァァァ!! 冷蔵庫の中を適当にするということはな!!」
「な、なんだよ」
「すべての食材の鮮度を無駄にするってことなんだよ!!」
「知らねえよ!!」
完全にスーパーのど真ん中で冷蔵庫と口論している不審者になっている俺。隣で買い物をしていたおばちゃんが「最近の若い子は……」みたいな顔でこっちを見ている。
「とにかく、食材を買ったら収納ルールを守ることが大事だ」
「……収納ルール?」
「そうだ。肉や魚は中段、野菜は下段、頻繁に使うものは手前、調味料はドアポケット!」
「そんなの意識してたことない……」
「だからお前の冷蔵庫は地獄絵図みたいな状態になってるんだよ!!」
「地獄絵図って言うな!」
結局、俺はスーパーで言われるがままに食材を買わされ、帰宅することになった。
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帰宅後、冷蔵庫チェック
「ほら、お前の中に食材入れてやったぞ」
「よし! これで俺の冷蔵庫としての尊厳は保たれた!」
「お前、さっきから尊厳って言いすぎだろ」
「さて、問題はここからだ」
「ん?」
「お前、ちゃんと収納したのか?」
「いや、適当に……」
「だから適当にするなって言ってるだろ!!」
「うるせぇ!! どこに置いても冷えるんだから同じだろ!!」
「お前……冷蔵庫の機能、理解してるか?」
「え?」
「食材ごとに最適な温度があるんだよ!! 野菜は低温すぎると傷むし、肉は適切な位置に置かないと菌が繁殖しやすくなる! つまり……収納の仕方で食材の寿命が変わる!!」
「マジで……?」
「マジだ」
「……めんどくせぇ」
「めんどくさいって言うな!! 俺の仕事の価値を下げるな!!」
なんか、意外とちゃんとしたこと言ってる気がする。
「……まあ、言いたいことは分かったよ。ちょっとくらいは整理する」
「よし、それでこそ俺の相棒だ!」
「相棒って言うな!」
俺の一人暮らしライフ、ますます自由が奪われていく──。
──続く。