まっさらな衣装と過去の欠片
6月下旬の週末、裏庭には湿った土の匂いが漂っていた。いつもと同じ風景だが、今日は少し特別だ。浩二がアパートから持ち込んだ大きな紙袋が綾子と宏美の前に置かれ、二人は中身に目を輝かせる。浩二は少し照れくさそうに笑いながら言った。
「ちょっと準備してきたんだ。新品のやつでさ、今日は派手にやろうと思って」
袋から取り出されたのは、真っ白な体操服、セーラー服、下着、靴下、そしてピカピカの通学靴。どれもまっさらで、折り目がくっきりと残っている。綾子は体操服を手に取り、白い半袖とエンジ色のブルマをじっと見つめた。ゼッケンまで丁寧に縫い付けられていて、新品の匂いがした。宏美はセーラー服を手に持つと、紺のスカーフを指で撫でて「ねえ、お姉ちゃん、これすごい綺麗だよ!」と声を弾ませる。
「全身新品で揃えたらどうなるか、試してみたくてさ。俺もこれでいくよ」と浩二は自分の分――白い体操服と濃紺のショートパンツ、白いブリーフとランニングシャツ――を手に持つ。いつもは使い慣れた衣類で泥に飛び込む三人だが、今日は違う。新品が泥にまみれる瞬間を想像すると、胸が少し高鳴った。
裏庭の物置で着替えを済ませ、三人は顔を見合わせた。綾子の小柄な体にぴったり張り付く体操服は、まだ糊が効いていて、ブルマの白いラインが鮮やかだ。宏美のセーラー服は少し大きめで、スカートの裾が膝上をふわっと揺れる。浩二はショートパンツの裾を軽く整え、「なんか緊張するね」と笑った。
「じゃあ、いくよ」浩二が一歩踏み出し、裏庭の泥エリアに近づく。綾子と宏美も後に続いた。足元の土は昨日の雨で柔らかく、すでに湿っている。浩二がまず膝をつき、手を泥に突っ込んだ。冷たく滑る感触が指先に広がり、白い体操服の胸元に小さな泥の粒が跳ねる。その一粒が合図となり、三人の動きが一気に解き放たれた。
綾子は勢いよく泥に座り込み、ブルマのエンジ色がみるみる黒っぽく染まる。新品のショーツが泥に触れた瞬間、彼女は小さく息をついた。「これ、気持ちいいね。いつもより張り付く感じがすごいよ」と呟きながら、両手で泥を掬って太ももに塗る。白いハイソックスもあっという間に汚れ、足首までべっとりと泥が絡みついた。
宏美はセーラー服のスカートを広げてしゃがみ、泥の上にぺたりと座った。「うわ、冷たい!」と笑いながら、スカートを泥に押し付ける。白いブラウスに跳ねた泥が小さな斑点を作り、スカーフの先が地面に垂れて茶色く濡れた。彼女は両手で泥を掴み、勢いよく胸元に塗りつけた。「お姉ちゃん、見て! すっごい楽しいよ!」と無邪気に笑う声が響く。
浩二は二人を見ながら、泥を両手にたっぷり取って体操服に塗り広げた。白いシャツがどろどろに染まり、ショートパンツも泥がしみ込んで重くなる。新品の靴をわざと泥に沈め、ぐちゅっと音を立てて引き抜くたびに、彼は満足げに笑った。「やっぱり新品だと違うね。汚れる瞬間がたまんないよ」と呟き、泥だらけの手で髪をかき上げる。
三人が泥にまみれる姿は、まるで子供の頃に戻ったようだった。でも、その中にはどこか大人びた興奮が混じっている。綾子は泥に寝転がり、体操服が濡れて体にぴったり張り付く。ブルマの裾からショーツの縁が少し覗き、彼女はそれを隠さず、浩二の方をチラリと見た。「ねえ、浩二君。これ、どうかな?」と少し恥ずかしそうに、でも嬉しそうに尋ねる。
「綾子、最高だよ。完璧」と浩二は目を細めて答えた。声には隠しきれない喜びが滲んでいる。宏美も負けじと泥をスカートに塗り込み、「私だって負けないよ!」と宣言。セーラー服のプリーツが泥で重くなり、動きに合わせてべちゃべちゃと音を立てた。
しばらく三人で泥を塗り合い、笑い声が響く中、浩二がふと動きを止めた。泥だらけの手を膝に置き、少し遠くを見るような目で呟いた。「俺さ、こういうの好きになったきっかけ覚えてる。小さい頃、風呂場でわざとおもらししてさ。シャワーで服がびしょびしょになって、張り付く感じがドキドキして。それから小学校の農業体験で泥んこになって、なんかスイッチ入っちゃったんだ」
その告白に、綾子と宏美が同時に顔を上げた。綾子は泥に寝たまま、目を丸くして浩二を見つめる。「おもらし?」と繰り返すと、口元に笑みが広がった。「私もさ、小さい頃、おねしょした服が濡れてくっつくの、ちょっと好きだったかも。浩二君と一緒だね」
「え、私も!」と宏美が手を挙げた。「お風呂でスカート濡らして遊んでたことあるよ。お母さんに怒られたけど、なんか楽しかったんだよね」
三人は顔を見合わせて笑った。浩二は「マジ? 君たちもか」と驚きつつ、どこか安心したように笑う。「変な趣味だと思ってたけど、こうやって一緒に楽しめるなら、悪くないね」と呟き、泥を手に取って綾子の腕に塗った。綾子は「キャッ」と笑いながら反撃し、宏美も加わって泥まみれの追いかけっこが再び始まる。
新品の衣類はあっという間に原型を留めないほど汚れ、通学靴は泥に埋もれて白さが消えていた。でも、三人にはその汚れが宝物のように輝いて見えた。まっさらなものが泥に染まる過程、その感触と興奮が彼らの絆をさらに深めていく。
夕暮れが近づき、裏庭にオレンジ色の光が差し込む頃、三人は泥の中で並んで座った。浩二が「またこういうのやれたらいいね」と穏やかに言うと、綾子が「浩二君、新品の下着もっと欲しいな」と笑った。宏美は「私、セーラー服もっと汚したい!」と目を輝かせる。
その時、垣根の向こうからかすかな物音がした。風に揺れる葉の音とも違う、誰かが近くを通ったような気配。三人は一瞬顔を見合わせ、笑顔が消えた。綾子が小さく「え、何?」と呟き、浩二が垣根の方をちらりと見る。「誰かいたのかな」と低い声で言うと、宏美が少し緊張した顔で「お姉ちゃん、見られたかも?」とつぶやいた。
「まさか、垣根越しじゃ見えないだろ」と浩二は言ったが、声には少し不安が混じる。綾子は泥だらけの手を膝に置き、「でもさ、ここでずっとやってるの、誰かに気づかれてもおかしくないよね」と真剣な顔で言った。宏美が「私たちの秘密だもん。バレたらやだよ」と続ける。
浩二は少し考えた後、「そうだね。このままだとまずいかもしれない。次に会うとき、みんなで相談しようか。もっと安全な場所探すとかさ」と提案した。綾子が「うん、それいいね。浩二君がそう言うなら安心だよ」と頷き、宏美も「私も賛成! 秘密守りたいもん」と笑顔を取り戻す。
三人は再び顔を見合わせ、泥だらけの手を握り合った。「じゃあ、次までに考えとくよ」と浩二が言うと、夕暮れの空に三人の決意が静かに響いた。