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泥だらけの絆  作者: 楽泥
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BBQでの出来事

5月の終わり、綾子と宏美の家族は、浩二の家族と一緒に近くの河原でBBQをしていた。空は晴れて、風が少し涼しく、綾子は白い半袖体操服を着ていた。襟付きのハーフジップを軽く開け、裾はエンジ色のブルマにきちんと入れ、その上にエンジ色のジャージズボンを重ね履きしている。白いリブハイソックスと通学靴が、草の上を歩くたびに小さく音を立てた。宏美はピンクのスカートに白いTシャツで、楽しそうに走り回っている。


「ねえ、お姉ちゃん、お肉焼けたよ!」宏美が綾子を呼ぶ。河原の端に置かれたグリルからは、ジュウジュウと音と香ばしい匂いが漂ってきた。


「うん、今行くね」綾子は小さく笑って、宏美の後を追う。家族ぐるみのBBQはいつものことだ。親たちが笑いながら肉を焼き、子供たちは自由に遊んでた。でも、今日はちょっと違う。綾子の頭には、浩二の部屋で見た写真集がこびりついてる。小さい子の濡れた体操服、小さい子のシミのついたショーツ。あれから何日か経つけど、消えない。あの本を思い出すたび、胸がざわざわする。


浩二はグリルのそばで、しゃがんで肉をひっくり返していた。白いTシャツにジーンズ姿で、いつもの優しいお兄ちゃんって感じ。でも、綾子は知ってる。あの熱っぽい目。あの慌てた顔。あの写真集。あれが頭から離れない。


「お、お疲れ。綾子、肉食べる?」浩二が振り返って、綾子に笑いかけた。


「うん…ありがとう」綾子はコップを持って近づき、浩二から皿を受け取る。指が触れた瞬間、ドキッとして目を伏せた。こんな目をする人、普通じゃないよね。あの本が頭にちらついて、心が落ち着かない。


その時、宏美が「見ててね!」と叫んで、河原の端を走り出した。綾子が顔を上げると、宏美のスカートが風に揺れて、白いショーツがチラチラ見える。綾子は「まただ」と苦笑するけど、ふと浩二を見ると、彼の目が宏美を追ってる。真剣な目。綾子の胸が締め付けられる。あの写真集を眺める時のような目だ。熱っぽくて、執着してるみたい。


次の瞬間、宏美が「わっ!」と声を上げて、泥濘に足を取られた。尻もちをついて、スカートがめくれ上がる。白いショーツが丸見えになって、泥がべっとりついた。ショーツの縁に茶色い汚れが滲み、湿った泥がべたっと張り付いてる。綾子は「宏美、大丈夫?」と駆け寄ろうとしたけど、浩二の動きが早かった。


「宏美!平気か?」浩二が慌てて宏美のそばにしゃがむ。綾子は立ち止まって、浩二を見た。彼の目が、泥だらけのショーツにじっと注がれてる。優しい声とは裏腹に、その目は熱っぽい。あの写真集のページを思い出す。何度も開かれた、ボロボロの写真。綾子の心臓がバクバク鳴る。浩二の手が、泥に触れたショーツの近くで止まる。拭くふりをして、じっと見てる。


「うう…汚れちゃった」宏美は泣きそうになりながら立ち上がる。浩二は「大丈夫だよ、拭こう」と言いながら、ハンカチで宏美のスカートを拭き始めた。でも、綾子には分かる。浩二の手が少し震えてる。ハンカチがショーツの泥に触れるたび、彼の目が細まる。指先が泥に触れて、微かに汚れてる。綾子の胸がモヤモヤする。変だよ、浩二君。こんなの見て、嬉しそうにするなんて。


「浩二君、私がやるよ」綾子は我慢できなくて、前に出た。浩二の手からハンカチを取って、宏美のスカートを拭く。泥が指にべっとりついて、冷たい感触が気持ち悪い。宏美は「ありがとう、お姉ちゃん」と笑うけど、綾子の頭はぐちゃぐちゃだ。浩二君、やっぱり…あの写真集、嘘じゃない。


「ごめん、俺、ちょっと水取ってくる」浩二は立ち上がって、逃げるみたいにグリルの方へ戻った。綾子は浩二の背中を見ながら、ジャージズボンのポケットに手を入れる。あの目。あの震えた手。あれ、やっぱり偶然じゃないよね。


そのあと、BBQは続いた。親たちが「宏美ちゃん、気をつけてね」と笑い、浩二が水を持って戻ってきて、宏美に渡す。「ありがとう、浩二君!」と宏美が笑うと、浩二は「うん、どういたしまして」と優しく返す。でも、綾子は気づく。浩二が宏美のスカートをチラチラ見てる。泥が乾いて、茶色いシミになってるショーツを。綾子の指が、ポケットの中で生地をぎゅっと握った。あの写真集のシミと同じだ。浩二君、こういうのが好きなの?


綾子は肉を食べながら、浩二を盗み見る。彼は親たちと笑ってるけど、時々宏美の方に目をやる。そのたび、綾子の胸が締まる。嫉妬なのか、怖いのか、分からない気持ちだ。小さい子の濡れた体操服、小さい子のシミのついたショーツ。あの本のページが頭に浮かぶ。浩二君が好きなのは、そういうのなんだ。宏美を見てたのも、それで。綾子は体操服の襟をそっと触って、考える。私も、こんな風に汚れたら…浩二君、私を見てくれるのかな。


「お姉ちゃん、どうしたの?お肉食べないの?」宏美が首をかしげた。スカートの泥が乾いて、シミが目立ってる。


「うん…今食べるよ」綾子は笑顔を作って、皿に手を伸ばす。でも、手が少し震えてた。浩二がこっちを見て、「美味しいよ」と笑う。綾子は「うん、ありがとう」と返すけど、心の中は違う。あの写真集。あの目。浩二君のこと、もっと知りたい。でも、知ったら私、どうなるんだろう。


BBQが終わる頃、夕陽が河原をオレンジに染めた。綾子はジャージズボンを履き直して、宏美と一緒に片付けを手伝う。浩二が「またやろうね」と笑うけど、綾子は目を合わせられない。宏美が泥だらけのスカートを気にせず、「次はもっと走るよ!」と笑う。綾子は黙って頷いた。帰り道、宏美が「楽しかったね」と言う横で、綾子は黙って歩く。ジャージズボンのポケットに手を入れて、生地をぎゅっと握る。あの熱っぽい目が、頭から離れない。浩二君って、何なんだろう。綾子の足音が、夕陽の中で小さく響いた。家に着くと、綾子は部屋に入ってジャージズボンを脱ぎ、ベッドに腰かけた。体操服の裾を指でそっと触って、そばに置いてあるジャージを見つめる。白い生地に夕陽が影を落として、少し汚れて見えた。浩二君の目が、頭の中でぐるぐる回ってる。

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