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泥だらけの絆  作者: 楽泥
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秘密の写真集

週末の午後、綾子はまた宏美と一緒に浩二のアパートを訪れていた。外は少し風が強くて、綾子の白い半袖体操服が軽く揺れる。襟付きのハーフジップを閉め、裾はエンジ色のブルマにきちんと入れ、その上にエンジ色のジャージズボンを重ね履きしていた。おさげの髪が肩に触れ、白いリブハイソックスが通学靴の中で少し汗ばんでいる。宏美は今日もピンクのスカートに白いTシャツで、楽しそうに綾子の手を引っ張る。


「お姉ちゃん、早く行こうよ!浩二君、ゲーム貸してくれるって言ってたよ」宏美が目を輝かせた。


「うん…そうだね、急ごうか」綾子は小さく笑うけど、心の中では別のことを考えていた。この前、浩二君が宏美のショーツをじっと見てたこと。あの慌てた顔が頭から離れない。「本当にそれだけかな」って言葉が、胸の中でぐるぐるしてる。知りたい気持ちと、知らない方がいいかもって気持ちがせめぎ合ってた。


ドアをノックすると、浩二がいつものように顔を出した。少し乱れた髪に、白いTシャツとジーンズ。165センチの体がドア枠に収まって、綾子を見下ろす。


「やあ、来たんだ。入ってよ」浩二は笑うけど、目を合わせるのがちょっと短い気がした。


部屋に入ると、暖かい空気が綾子を包んだ。窓が閉まっていて、少し汗ばむ感じ。綾子は通学靴を脱いで揃え、「ちょっと暑いね」と呟きながらジャージズボンを脱いでソファの背に掛けた。ブルマに裾を入れた体操服だけになって、そのままソファの端に腰かける。宏美は床にぺたんと座り、スカートが広がるのも気にせず、テレビの前に置かれたゲーム機に目を奪われていた。浩二は「これ、昨日やったやつなんだけどさ」と言いながら、コントローラーを宏美に渡す。


「わあ、ありがとう!ねえ、お姉ちゃんもやるよね?」宏美が振り向いた。


「うん…あとでね」綾子は曖昧に笑う。ゲームより、浩二の様子が気になる。さっきのドアでの目。あれ、いつもと違うよね?綾子は膝の上で手を握って、少し汗ばむのを感じた。部屋の中は、散らかった洗濯物や空のお菓子の袋が転がっていて、いつもの浩二君らしい雰囲気だ。でも、今日はそれが妙に落ち着かない。


しばらくして、宏美がゲームに夢中になってる間に、浩二が「飲み物持ってくるよ」とキッチンへ行った。綾子はソファに座ったまま、部屋を見回す。テレビ台の下には埃が薄く積もり、ソファの隣には小さなクッション。その下に、何か硬いものが覗いてる気がした。綾子はドキッとして、手を伸ばしかける。でも、「やめとこうかな」と一瞬思う。浩二君の物だし、勝手に見るなんて失礼だよね。


でも、胸のざわざわが止まらない。あの熱っぽい目が頭に浮かんで、どうしても気になってしまう。綾子は宏美がゲームに集中してるのを確認して、そっとクッションを持ち上げた。そこには、1冊の本があった。表紙はシンプルで、何かの雑誌みたい。綾子は息を潜めて、表紙を開く。中には、小学生か中学生くらいの女の子たちの写真が並んでいた。


体操服を着た子、セーラー服の子、スクール水着の子。みんな笑ってる写真もあるけど、あるページで綾子の手が止まった。プールでびしょ濡れになった体操服の子。白い生地が水に透けて、濡れた髪が顔に張り付いてる。そのページの角が、やけにくたびれてる。何度も開いたみたいだ。綾子の心臓が早鐘みたいに鳴り始める。


次のページをめくると、白いショーツのアップ写真があった。レモン色のシミがくっきりついてて、そのページもボロボロだ。綾子は「え…?」と声が漏れそうになって、慌てて口を押さえた。頭がぐちゃぐちゃになる。これ、浩二君の…趣味?違うよね、ただの本だよね。でも、あの時の目。あの熱っぽい視線が、頭の中で重なる。綾子の指が、本の角をぎゅっと握った。


「お姉ちゃん、何してるの?」宏美の声に、綾子はビクッとして本を閉じた。クッションを元に戻すけど、手が震えてうまく置けない。


「なんでもないよ、ちょっとクッションずれてただけ」綾子は笑顔を作って、ごまかす。宏美は「ふーん」とゲームに戻るけど、綾子の背中に冷や汗が流れた。頭の中で、あの写真がぐるぐる回ってる。


その時、浩二がキッチンから戻ってきた。コップを3つ持って、「はい、オレンジジュース」とテーブルに置く。綾子はドキドキしながら浩二を見る。いつも通りの優しい顔。でも、さっきの本が頭を離れない。


「ねえ、浩二君、この部屋ってさ、本とか置いてるの?」綾子は勇気を振り絞って聞いてみた。声が少し上ずる。


「え?本?うーん、あんまり読まないかな。トレードの資料くらいしか…」浩二は首をかしげて、笑う。でも、その目が一瞬、ソファの方を見た気がした。綾子の胸が締め付けられる。本当かな?嘘じゃないよね?


「そ、そうなんだ」綾子はそれ以上聞けなくて、コップを手に持つ。ジュースが少しこぼれて、手が濡れた。


そのあと、3人はゲームをしたり、テレビを見たりした。宏美が「浩二君、負けたら罰ゲームね!」と笑う声が響くけど、綾子は上の空だ。頭の中には、あの写真集がこびりついてる。濡れた体操服。シミのついたショーツ。あれ、浩二君が好きなの?宏美を見てたのも、それで?綾子は体操服の襟をそっと指で触って、考える。あの本、誰かの物かもしれない。でも、浩二君の部屋にあるってことは…。


帰り道、風が強くなって、綾子のジャージズボンがバタバタ揺れた。宏美は「楽しかったね」と笑ってるけど、綾子は黙って歩く。ジャージズボンのポケットに手を入れて、生地をぎゅっと握った。「浩二君って…何?」って思う。あの本、偶然じゃないよね。あの目は偶然じゃないよね。綾子の頭が、熱っぽく感じた。


「お姉ちゃん、どうしたの?静かだね」宏美が首をかしげる。


「ううん、なんでもないよ。ちょっと疲れただけ」綾子は笑顔を作るけど、心の中はぐちゃぐちゃだ。


家に着くと、綾子は部屋でジャージズボンを脱いで、ベッドに座った。体操服の白い生地を手に持って、じっと見つめる。あの本の写真が頭に浮かんで、胸がざわざわする。浩二君のこと、もっと知りたい。でも、知ったらどうなるんだろう。綾子の指が、体操服の襟をそっと撫でた。風が窓を叩いて、少し寒く感じた。ベッドの横に置いたジャージズボンが、静かに夕陽に照らされていた。

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